第5話、新天地だぜ!!!!

 ここでのスライム生活にもだいぶ慣れた。

 川に比べて天敵は多いけど、ご飯もたくさん。

 驚いたのがガラス石がたくさんあったこと。

 天国かと思った。


(おっと、牙だ)


 うぉん、と音を立てて頭上を通過していく。

 あの牙はこの水の中での生態系の頂点だった。

 主食は魚、それも大型のを狙っていく。

 幸いにも俺のような糞不味そうな餅には興味が無いらしく、命拾いをしている。

 しかしそれでも普通の魚には狙われるので俺は貝殻を被って移動しているのだが。


(まさかカタツムリやヤドカリの気持ちが分かるとは思わなかった)


 コソコソコソと移動しながら水草や苔、石に珊瑚みたいなもの、そしてたまに蟹や小魚を捕食しながら地道に力を付けていく。

 新しい移動方法もできて、生存率はぐんと上がった。

 その方法とは。


(すぅううううううーーーーー!!!)


 水をいっぱいに体に取り込み。


(ぶううううううううううううっっ!!!!)


 一気に吐き出す。

 そうすると推進力が生まれてより早く逃げられる。

 特に地面に向けてやれば砂の煙幕もできて余裕をもって隠れられる。

 必殺技だ。


 本当はもっと楽に生きたいんだけどね。

 世界は世知辛い。








 ある日のこと、変なものを見付けた。


(なんだこれ)


 棒状の苔むした何か。


(んーー??)


 貝を被りながら、目の前の物体を観察した。

 生き物ではない。

 石でもなさそう。

 木の枝でも無さそう。

 しかしなんだこれ、まるで──


 はっ!と俺は目の前の物体を凝視した。


 この洗練されたフォルム!

 遠い昔に見たことのあるそれを見て、俺はそろりとて手(のように動かす箇所)を伸ばした。


 最近、自分がずっと不思議に思ってたなぞ現象をひとつ理解した。

 それは、“触れたものの名称判断”だ。

 これがあったから見えない時期でも何とかなっていた。


 恐らくだけど、俺の前世で知っていたものに限りなく近いと判断したものが表示されているんだと思う。


 だって、微妙なときはハテナ出るし。


 さて、この予備知識を踏まえて俺がしようとしているこが分かるだろう。

 これに触れて、もし文字が出れば、とある可能性が浮上してくる。


(えや)


 ぺたりと触れる。


[錆びた剣???亞?]


 うおおおおおおおおおおおいいいい!!!!

 人間いるじゃねえええええかあああああ!!!!!

 なんか文字バグってるけどおおおおお!!!!


 ようやく人間の可能性を感じて俺はテンションが上がった。

 そうだよな!!!

 生まれてずっと水の中だけど、陸があるみたいだし陸上生物いるよなぁ!!!

 あの熊?みたいなのもいたし!!!!


(よし!探そう!人間!!)


 そうと決まれば即行動。

 牙を横目に浅瀬へ来れば、上がれそうな場所を探す。


(お!ここいけそう)


 根っこが底近くまで伸びている。

 これを伝えば安全に上がれるだろう。









(よいせ、よいせ、よいせ、よいせ)


 根っこを伝って登り続けること数時間。

 思ったよりもここは深かったらしい。

 けれど、スライムは疲れにくいのか何の問題もなく登り続けられる。


(そろそろ水面だ)


 くく、と水の癖に変な抵抗を感じながら水面へと突き抜けた。


(ふはぁー。前世ぶりの地上だぁー!空気がうめぇー!!)


 とは言ったものの、スライムは呼吸をしていない。

 雰囲気だ。


(森だ)


 何の変哲もない森だった。

 豊かで、小鳥が飛び交っている。

 なんだ、外は平和だったんだな。

 後ろを振り向けば、波立った広大な水が水平線まで続いている。

 海だったのかな。


(あれ?)


 浜辺に何か倒れてる。


 警戒しながら近付くと、大きな生き物だった。

 大きな怪我を負っていて、それで動けなくなって力尽きたらしい。


(あ!!!こいつ、爪じゃないか!!!!)


 見たことのある爪だった。

 紛れもなく牙と俺の魚を取り合っていたあの爪である。

 が、熊かと思ってたのに姿はずいぶんと違った。


(熊……というか、ナマケモノ??ナマケモノとアリクイが混ざったみたいな??……大ナマケモノみたいなのがいたような気がする)


 大ナマケモノの姿の癖に動きはとても俊敏だった。

 きっとこいつの本当の名前はナマケモノではなく、ハヤイモノだ。


(……食べていいかなこれ)


 今生初の肉だ。

 魚でもエビでもない、哺乳類の肉だ。

 誰のものでもないなら食べていいよね。


 辺りを見回して安全を確認すると、俺は爪を齧った。


(うっ……っ!美味い!!!! なんだこいつめちゃくちゃうめぇー!!!!!)


 味覚がないはずなのに、とても美味しい。

 無我夢中で取り込んで食べていれば、あっという間に無くなった。


(げふぅ。はぁー、お腹一杯……)


 今まで食べたことの無い量を食べたからか、なんだか眠くなってきた。

 転生して初めての眠気に耐えられない。


(ああ……、まずい…こんなところで寝たら間違いなく鳥に食べられる……)


 せめて隠れられる所と、必死に移動、近くにあった岩の下に潜り込むと俺はそのまま眠りに付いたのだった。








 目が覚めた。


(よく寝た。なんだか変な感じだ)


 岩の下から這い出ると、夜だった。

 満点の星空を眺めながら伸びをすると、自分の体積が増えているのに気が付いた。


(あれ?これ、もしかして)


 慌ててステータスを確認する。




種族

 粘体生命体(スライム)

 成体

食べたもの

 [草][苔][岩][ガラス石][砂][魚][エビ][小魚][貝][何かの種][木の破片][砂利][小石][珊瑚??,][蟹][ナマケモノ??,?恕?]

基本スキル

 [補食][分解][吸収]

獲得スキル

 [光感知能力][振動感知能力][熱感知能力][水泳能力][味感覚][嗅覚感覚][触覚強化][振動発生]

特殊スキル

 [変身](条件を満たしました)





 成体


[変身](条件を満たしました)





[ 変身 ] ( 条件を満たしました )




 やったあー!!!!!!

 遂に!!ついについに遂にぃ!!!

 ついにスキルが解放されたァァァ!!!!


 跳び跳ね喜びを表現する。

 これで俺の人生は安泰だあ!!!


 いや、待て待て、一旦落ち着こう。

 せっかくのデビューだ。

 しっかりと目に焼き付けないと。



(深呼吸ー、深呼吸ー。よし、やるか!!!)

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