第14話 初めてのお客様

 目が覚めると、霊田さんと犬の覗き込んできている顔が最初に目に入る。

 始めは毎朝ギクリしたものだが、もう慣れた。

「おはようさん」

 起き上がり、俺は大きく伸びをした。

 霊田さんと犬は頷いて、立ち上がった。

 顔を洗って着替えると、霊田さんがトーストとコーヒーを準備してくれている。

「おおきに。いただきます」

 霊田さんが色々としてくれるのは、俺の事をじっくりと見て、クセなども覚えて、成り代わるためだと聞いた時は複雑だったが、やってくれるのはありがたい。それはそれとして、礼は言う。

 今日はとうとう、榊原さんと嶋田さんが来る日だ。

 昨日のうちにケーキ屋に駆け込んでケーキも買っておいたし、部屋の片付けはも掃除もしてあるし、物入れもまだ引っ越して来てから物が増えていないため、きれいに整頓されている。

 よし、と俺は内心で頷いた。

 食べ終えると霊田さんが食器を洗おうとしてくれるので、何か流石に気が咎めた。

「あ、ええよ。休みの日は俺も時間があるしな。霊田さんもゆっくりしとって。

 テレビ見る? 霊田さんの好きな旅番組、始まるで」

 そう言うと霊田さんと犬はテレビの前に座り、黙ってテレビを見始めた。

 そわそわしながら待っていると、霊田さんと犬が玄関の方へ素早く同時に顔を向けた。

「え、何なん?」

 何事かと俺は腰を半分浮かしながら訊くが、返事はない。しかしそれからすぐにドアチャイムが鳴って、俺は納得した。榊原さんを感知したに違いない。

 玄関に出ると、やはり榊原さんと嶋田さんが並んで立っていた。

 榊原さんは感じのいいスラックスとシャツとブレザーで、スーパーの制服と違って、イケメン度が上がっていた。

 嶋田さんは、何かおしゃれできれいなワンピースがよく似合っている。

 悔しいことに、並んだふたりはお似合いだった。

 ふと背後を窺うと、霊田さんも悔しそうな顔をし、射殺しそうな目つきを榊原さんに向けていたが、耐えきれないという風に顔を歪めて、犬共々消えていった。

 榊原さんが来たことで榊原さんの結界に触れる距離になり、ここにいられなくなったらしい。

「おはようございます。わざわざ、ありがとうございます」

 言うと、榊原さんと嶋田さんも挨拶をし、上がってきた。

 まずは紅茶を淹れて、冷蔵庫のケーキを──と考えたが、榊原さんの言葉に今日の目的を思い出した。

「ああ、そこですね」

 榊原さんは、真っ直ぐに奥へ進んで物入れへ目を向けていた。

「そうです」

 紅茶やケーキのことを考えたなどみじんも感じさせずに俺も真面目くさった顔付きで答えた。

「ココにテープが」

 戸を開けて、スマホのライトで照らしながら説明する。

「開けてみましょう」

 榊原さんが言うのでイスを持って来ると、榊原さんはそこに上がって、天井板を持ち上げた。

 暗い穴が口を開け、不気味に感じられる。

 榊原さんは天井裏に身を乗り出すようにして腕を伸ばし、何かを掴んでイスから下りた。

「それは?」

 俺も嶋田さんも、榊原さんの手の中のものに目を向ける。写真立てとキーホルダーだった。

 と、嶋田さんが短く

「あっ」

と声を上げた。

 それもそのはずだ。写真は嶋田さんと誰か知らない青年の並んだもので、これが恐らく早瀬さんなのだろう。

 不自然に腕が切れているのがわかる。別々の写真をこの写真立てに入れて、ツーショットの写真のようにしているだけだった。

「そのキーホルダー、手作りなんです。無くしてしまって……早瀬君が持っていたのね……」

 俺と同じく榊原さんも「有罪」と思っているのが表情に表れていた。


 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る