最終話 出撃前に補給と、あとそれから
「おはよう結依ちゃん! 出かける前に、レモネードでも飲んでいく?」
今日の結依ちゃんは、薄いピンク色の長そでブラウスだけど、瑛那が着てるのみたいに、フリフリ付いてる。と、薄い水色の長いスカート。
髪型は……な、なんて名前なのかわからない。こんな髪型の結依ちゃん初めて見たから! ぱっと見だと、下ろされているスタンダード結依ちゃんだけど、後ろで髪の一部が小さな黄色いリボンで、結ばれて下ろされている。いつもの二種類の結依ちゃんのハイブリッド的な?
で、赤い小型のカバンも装備。これは知ってる。
僕は水色の長そでシャツに、黒色の綿パン。黒い小型リュックは、玄関であるすぐそこに置いたまま。
夏でも長そでなのかって、奥茂辺りから言われることもあるけど、昔半そでで遊んでたら、日焼けしてひりひり&かゆかったから、夏でも長そでで過ごすことが多くなった。
学校は屋内にいることが多いから、たまに半そでカッターシャツを着るときもある。
結依ちゃんは、僕以上に半そで装備を見かけない気がする。と思ったけど、体操服は半そでだった。
そんな結依ちゃんが、道森家の玄関で、僕を見てまばたきしている。
「夏だし、出かける前に水分補給でも、どぅ?」
と、母さんの提案に乗っかってみた。
「いただきます」
「じゃあ作っちゃうわね! あがってあがって!」
「おじゃまします」
こうして今日も結依ちゃん、同級生の中で最も道森家にあがった人ポイント独走態勢が、またひとつ積み重なった。
母さんがレモネードを作ってくれて、それを僕たちは飲んだ。
暑い夏だけど、あのかぜ以降は問題なく過ごせていますよかったね~、のような、のんびりとしたおしゃべりの中、僕たちはレモネードを飲み干し、水分補給ばっちり!
(……それはばっちりなんだけど……)
「そろそろ出かけるの?」
母さんの確認を聞いて、本日も僕を見てきますね~結依ちゃん~。
「も、もうちょっとだけ! ゆ、結依ちゃん」
……母さんがそこにいるけど、なんて誘おう。
「え、えーっと、ちょ、ちょっとだけ僕の部屋に来て!」
「うん」
ということで、結依ちゃんを二階の僕の部屋へ誘導。
「おじゃまします」
「ど、どうぞっ」
宿題のときはもちろんだけど、遊ぶときも一階にいることが多いから、ちょっと珍しい光景ではある。それでも充分、他の友達よりも、多くここの部屋に入ってる同級生だと思うけどっ。
結依ちゃんから、なにをチェックされてるのかわからないけど、僕の部屋を見回している。
その流れで、勉強机を見て……ちょっと笑った。
結依ちゃんからもらったお土産のストラップとかが、やたら飾られてあるからねへへっ。
(た、立ったまま? それとも座ってじっくり?)
「あ、ゆ、結依ちゃん、てきとーにどこか、どうぞ」
「うん」
動き回ることもなく、結依ちゃんは勉強机近くに、ぺたんと座った。カバンも下ろされた。
僕も~……
(……フォーメーションどうする!?)
んむむ~。
(ここでいいやっ)
迷った結果、結依ちゃんの左隣へ、横に並ぶような陣形で座った。肩当たりそ。
(結依ちゃんが横にいる~)
なぜ、出撃前にここへ呼び寄せたのか。
……僕は考えたんだ。今日一日の間に、気持ちを伝えたい……とっ、遊園地に誘ったのさっ!
でも誘った後に思ったけど、遊園地に行く前に言う、という作戦を遂行してみるのは、どうだろうかと。
もしその……結依ちゃんがいいのなら、遊園地、思いっきり楽しめそうだし……。だっ、だめだったとしても、お友達として遊んでくれるさ……きっと……!
「ゆ、結依ちゃん」
「なに?」
あ、緊張した弾みで、結依ちゃんの左肩にかたたたた。
「きょ、今日もいいお天気ですねぇ!」
「うん」
実にいつもの結依ちゃんのうんが炸裂。
「……あははのは」
ど、どう話を持っていけばいいんだろって結依ちゃん肩寄せてきてかたたたたぁー!
ここで僕がよけたり力を緩めたりしたら、結依ちゃんがどてーんとこけちゃうことになっちゃうので、対抗して結依ちゃんを支えることにしたかたたたた。
「お出かけしないの?」
「します」
今は横並びなため、結依ちゃんのお顔は見えないけど、きっと笑ってくれているはず。
「ゆ、結依ちゃん」
「なに?」
肩も腕もかたたたた。
(いつまでもかたたたしてないで、い、言わなきゃっ)
せっかくここまで来てもらったわけだしっ。
「今日、結依ちゃんと遊園地……行きますね?」
「うん」
「行く前に……なんといいますか、結依ちゃんに……まああのその、ちょーっと…………ね?」
とうとうまばたきを見ずして、まばたきをしていることも感じ取れる、奥義を習得できたかも。
「お、お出かけ前に、結依ちゃんに……伝えたいこと、が……」
「どんなこと?」
こっちが歯切れ悪い言い方なのに対して、結依ちゃんはいつもの速度で切り返し。
「いつも結依ちゃんは……僕と一緒にいると、元気が出るとか、楽しいとか、言ってくれてる……よね?」
「うん」
「僕ももちろん、結依ちゃんといると、元気出るし、楽しいしー……つ、つまり、結依ちゃんと同じ~、みたいな?」
「……うん」
もう腕めっちゃがっつりくっついてうでででで。
「僕も、結依ちゃんと遊び終わって、この部屋で一人でいるときとかは、結依ちゃん元気かなぁとか、考えちゃって」
あぁっ、結依ちゃん頭も僕の右肩にくっつけてきてあたたたまぁ!
「前から……結依ちゃんのことを考えていたけど、特に最近……どんどん結依ちゃんのことが、なんていうか……僕の中で、大きくなって、みたいな……」
「……私も」
すでにどきどきだったけど、もっとどんどん……。
「……僕で元気になってくれるのはうれしいし、僕からも、もっと結依ちゃんを楽しませたり、元気にしてあげたい。そんな気持ちも、毎日大きくなっていくような……」
顔は相変わらず見えない位置だけど、特に反応はなかった。
「ひっくるめると、そのー……」
こ、こほんっ。
(友達みんなが後押ししてくれた応援を、今、力に……!)
「……結依ちゃん、すごくかわいい、から……」
結依ちゃんの腕がゆっくり動いたと思ったら、僕の右腕をゲットされてしまったっ。
(さあ……言おうかっ!!)
僕は少し右を向いた。めちゃくちゃ近い結依ちゃんが、いました。腕持ってかれているので知ってたけど。
「ゆ、結依ちゃん」
僕の右肩に頭を乗せていた結依ちゃんだけど、顔を上げて僕を見てきた。ちょっと笑顔に見えなくもない……?
「僕はこれからもずっと、もっと結依ちゃんを楽しませたい。だれよりも。そのくらい、結依ちゃんのことが好き」
結依ちゃんは、きれいな瞳で僕を見上げている。
「僕と……付き合ってほしい」
とうとう言っちゃった。
結依ちゃんは……左腕は、相変わらず僕の右腕をお持ち帰りしようとしているけど、右手は結依ちゃんの右ほっぺたへ。
それと一緒に、結依ちゃんのお顔は、ちょっとだけ角度が下へ。
僕は……たぶん、伝えられることは、伝えられたと……思う。もちろん、いったん言っちゃったら、いくらでも言えちゃうとも思える、けどね。
しばらく結依ちゃんを見ていたら、ちらっちらっと、上目遣いモードと上目遣いモード解除を繰り返している。電気のスイッチでやったら怒られそう。
それでもそのまま、てれてれ結依ちゃんを眺めていたら、
(んうぇ?)
結依ちゃんの右ほっぺたに位置していた右手が、僕の首の後ろ辺りにやってきた。
それは自然と、僕の顔が結依ちゃんへ寄せられることになり、結依ちゃんが目を閉じたと見えたときには、もう僕の唇へ重なり始めていた。
「……よろしくお願いします」
「今ぁ!?」
いや、あの、順序というか、順番というか、前後というか、よろしくお願いしますが先じゃない?!
って、僕が緊張しまくりで、そんなことを考えてしまっていたのかもしれないけど、結依ちゃんはとっても笑顔のまま、僕に抱きついてきた。
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