第二十六話  皆の者! 出迎えよ!

 母さんが見るからにご機嫌。るんるんしながら台所行ったりダイニングテーブル拭いたりしてる。

 まぁ、僕も……内心うきうき。

 あ、インターホン鳴っ母さん早!

「はいっ」

 左手には受話器だけど、右手に持つ布巾が、結構な力で握られている気がする。

「結依ちゃん待ってたわぁ! 元気になってよかったわね! あがってあがって!」

 そう。結依ちゃんのかぜが治って、元気になった! よかった! ってだから母さん、受話器戻すのと玄関のドア開けるのちょっぱや超速い

 まあ~とか、結依ちゃん~とか、勇ちゃんもようこそ~とか、いろいろ聞こえてる。

「雪忠~! 結依ちゃんよ! 結依ちゃんが元気な顔を見せてくれたわ~!」

「わかってるわかってるっ」

 僕はイスから立ち上がり、玄関へ向かうことにした。

(ああっ……)

 白色長そでシャツ装備の上に、薄いピンク色ベースでちいさな白い花柄いっぱいなワンピース。

 髪は下ろされている。

「こんにちは」

(ああぁっ)

 大丈夫だとは信じていたけど、ほんとに大丈夫になった姿を見たら、やっぱり……

(よかったぜぇっ!)

「こんにちは、ゆきお兄ちゃん!」

「こんちゃ、勇太くん」

 そして、

「結依ちゃん」

 笑顔の結依ちゃんやっぱ最強だぁ……。

 その後ろにいたのは、早苗さなえ 勇太ゆうたくん。結依ちゃんや母さんは、勇ちゃんと呼んでいる。

 よっつ下なので、今小学五年生。

 身長は、結依ちゃんが小さめということもあってか、きょうだいそろって同じくらい。伸びたなぁ勇太くん。そのうち確実に結依ちゃん抜かしちゃうだろうなぁ。

 勇太くんは、紺色の半そで丸首シャツに、白色のひざくらいまでの長さのズボン。ポケットいろいろ付いてる。

「外は暑かったでしょ? あがってあがってっ。アイスココアを冷蔵庫から出すわねっ」

「おじゃまします」

 結依ちゃんと勇太くんが、ほぼ同時におじゃましますして、靴ぬぎぬぎ。母さんは急いで台所へ向かった。

「一緒に行こっか」

 僕は靴ぬぎぬぎ中の二人に近づきながら。

「うん」

 ということで、洗面台へ一緒に行くことに。


 手洗いうがいを済ませた僕たち。

 こういうときに、決まって使われるお姉ちゃんのコップ。ピンクで花柄で小さいやつ。昔~っからずっと鎮座なされている。

 まぁ僕も飛行機柄でちっちゃい、昔から使ってるやつだけど。


 僕たちが洗面台から戻ってくると、大きめな木のコースターの上に、アイスココア入りのガラスコップが乗っていた。冷蔵庫で充分冷やしていたためか、氷は入れられていない。

 勇太くんの分は、父さんが使ってるキリンさんコップのだろう。

「あぁ~結依ちゃん元気になってよかったわぁ~心配したのよぉ~」

「アイスクリーム、ありがとうございました」

 結依ちゃんいいこ!

「おいしかった?」

「はい」

「お父さんに伝えておくわね! さあ座って座ってっ飲んで飲んで!」

 僕は右手前の席。向かいに母さん。こちらから見て、その左隣に勇太くん。

 で、結依ちゃんはもちろん、イルカさん柄コップなので、

(元気な結依ちゃん!)

 僕の左隣。

「いただきます」

 結依ちゃんと勇太くんは、結構タイミングが同じなことが多い。やっぱりきょうだいだからだろうかっ。

「どうぞどうぞ!」

「いただきまーす」

「どうぞっ」

 四人全員が、一斉にアイスココアを飲み始めた。つべてっ。あま。

「おいしいです」

「おいしい!」

「んま」

「よかったわぁ」


 それからしばらく、母さんが結依ちゃんや勇太くんにおしゃべりしまくっていたわけだけど、実は今日は、結依ちゃん治ってよかったね会というだけではなくて。

(あ、来たっ)

「ただいまぁ~」

「おかえりなさ~い!」

 玄関のドアが開けられる音がして、父さんの声じゃないただいま。もちろん僕でも母さんでもない。とすると。

「母さん元気だったー?」

「元気よ元気! 今日はもっと元気よ!」

 なんて声が玄関から聞こえながらも、僕は立ち上がって、玄関へ向かった。

「おかえり」

「ただいま雪忠! 元気だった?」

「ぼちぼちでんな」

 帰ってきたのは、僕のよっつ上のお姉ちゃん、大学一年生、道森蘭子お姉ちゃんである!

 薄い黄色の丸首半そでシャツ。ジーパン。大きめな円筒型の赤いカバン装備。それとは別に白いカバンも、肩から掛けられている。

 髪は肩に掛からないくらい。身長は……僕より高い。

「あれ、だれか来てるの?」

 靴を見つけちゃったね姉ちゃん。

 僕はここで奥めに、おいでおいでして、勇太くんを召喚。

「おかえり、らんお姉ちゃん!」

「わあ~! 勇ちゃん!? おっきくなったねーただいま!」

 大きな赤いカバンを下ろして、その右手で勇太くんの頭をぽんぽん。

「じゃあもしかして、この靴は……」

 連続召喚! 僕はここで、おいでおいでして、結依ちゃんを召喚。

「おかえりなさい、蘭子お姉ちゃん」

「ひゃあ~! なにこの美少女! 雪忠この美少女、まさかまさかのあの早苗さん家の御息女?!」

「結依ちゃんだよ」

(美少女なのは間違いないね!!)

 姉ちゃんは、もうひとつのカバンも下ろし、靴脱いで上がって、

「結依ちゃぁ~ん! 元気元気~? うわぁ~昔からかわいいかわいいって思ってたけど、こんなに美少女になっちゃってぇ~!」

「あ、あのっ、あぅ」

 結依ちゃん頭ぽんぽんされたかと思ったら、姉ちゃんは思いっきり両腕に包み込む連続技を繰り出した!

「結依ちゃんこの前までかぜひいてたのよ? 蘭子に会うために、頑張って治してくれたのよきっと!」

「あぁ~……結依ちゃんかわいすぎぃ持って帰りたい~」

「あぅ」

 完全に包み込まれし結依ちゃん。あと一人暮らし先に持って帰っちゃだめだからね!


 洗面台から戻ってきた姉ちゃんは、電話器近くに置いてあるイスを持ってきた。結依ちゃんと勇太くんの間、議長席みたいなとこのフォーメーション。

 そしてやはり冷蔵庫で冷やされていた、アイスココアが用意された。

 姉ちゃんのガラスコップは、鷹柄。

 そう。本日は夏休み恒例、姉ちゃん帰還の日である!

「ココアだ~! いただきまーす!」

「どうぞっ」

 ぐびぐびいい飲みっぷりである。

「っか~! おいしい~!」

 ココアCMをお考えの企業さん、ここにいい人がいるっぽいですよ。

「いつまでいるの?」

 結依ちゃんが聞いた。

「十日間だよ! 結依ちゃん勇ちゃん、いっぱい遊びに来てね!」

「うん」

「わかった!」

 結依ちゃんもそうだけど、勇太くんも、結構姉ちゃん遊んであげてたからなぁ。勇太くんなんて、赤ちゃんのころからだよ。

「結依ちゃん、学校での雪忠の話、聴かせてよ!」

「ぼ、僕ぅ!?」

 まずそこから?!

「雪忠くんの周りには、お友達がいっぱい集まっているよ」

「へぇ~! 雪忠そんなに人気者なの!?」

「あいや、あれはその、流れでそうなったっていうかっ」

 きっと六場理科点数披露のあの時のことを、言ってるんだよね?

「いつもだれかと、おしゃべりしているよ」

(結依ちゃんともいっぱいおしゃべりしているよ!)

「雪忠ぁ~。いつの間に、そんなに人気者になったのよぉ~」

 両手でココアの上の方持ってる。

「いつの間にって、別に僕はなにも、変わったことは……?」

 僕は結依ちゃんを見てみた。すてきな笑顔だった。

「結依ちゃんも勇ちゃんも、雪忠と仲良くしてくれてるんだね~」

「お姉ちゃんは、よく雪お兄ちゃんに電話かけてる!」

「あらまぁ結依ちゃんそんなに積極的になっちゃったの!? もっとおとなしいイメージだったよ!」

 あぁ結依ちゃんちょっと視線下げて、ちらちら上目遣いで、勇太くんや姉ちゃんを見てるっ。

「お母さんは、結依ちゃんいっぱい来てくれて、うれしいわぁ!」

「え! 結依ちゃんそんなにいっぱい来てるの!?」

 あぁぁ結依ちゃんおててもじもじしだしたー!

「わざわざ、かぜをひいて雪忠と遊べない、っていうことも教えてくれるくらい、律儀でいい子なのよぉ」

「うわ~見た目美少女で性格もいいとか、最高じゃん!」

 もじもじ続行中の結依ちゃん! おぉっとそこで僕を横目で見てくるぅ?!

「ほ、褒めてくれてるんだから、うんうん」

 もじもじ続行!

「雪忠~。結依ちゃん悲しませたらだめよー? こんな最高な子、この先現れないから!」

「言いすぎ……」

 ぼそっと声を絞り出した結依ちゃん!

(でもそれ、正解かもよ!)

「ぼ、僕だって結依ちゃんとまだまだ仲良くしたいんだから、悲しませることとか、するわけないよ」

 あ、また結依ちゃん横目で僕を見てきたっ。

「絶対よぜぇーったい! なにがなんでも、結依ちゃんに降りかかる不幸から、守りきるのよ!」

「な、なにそれ?」

「そうよ雪忠! あなたならできるわ!」

「母さんまでっ」

 この二人がそろうと、攻撃力増し増しなんだよなぁ。

「この前お姉ちゃんがかぜひいたとき、雪お兄ちゃん来てくれたよ!」

「さすが雪忠ね! 結依ちゃんの不幸は世界の不幸! 今後も結依ちゃんのために、身をにして尽くしなさい!」

 うわ結依ちゃん横目じゃなくがっつり僕見てる! 無言の圧力!

(こ、これはあれだね。ここにいてて、って結依ちゃんが言ったことは、絶対言うなよわかってんなワレ、っていう意味だよね!?)

「アイスクリームを届けるために、雪忠に行かせたのだけど、雪忠よっぽど心配だったのね……長い時間、看病してあげたそうよっ」

「んまっ! 雪忠も、結依ちゃんは人類皆のための美少女だって、ちゃんとわかってたのね!」

「ああ、まあ……ははっ……」

 結依ちゃん大丈夫、そんな思いっきりこっち見なくても、いててって言われてたこと言わないからっ。てか言えないよ!

「どう? 結依ちゃん。うちの雪忠、ちゃんと結依ちゃんを看病できていたかしらっ」

 その姉ちゃんの質問に対し、

「……とっても助かりました」

 と答えた結依ちゃん。相変わらず姉ちゃんに対しては、顔をちょっと下方向に角度つけたままだけど。

「うちの雪忠に、好きなだけ命令しちゃって! 手となり足となり、結依ちゃんのために働かせるわ!」

「ちょっ」

 帰ってきて早々、姉ちゃんエンジン全開である。

「うん」

「うんてっ」

 それそれ、結依ちゃんやっぱり笑顔がいちばん!

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