知夫里島
今日は隠岐ツーリングのハイライトだ。風香は実家に置いてきた。まずは東に向かい、知夫漁港の東側のシーサイドを走り汐見橋を渡る。ここまで二車線だったけど橋を渡ると隠岐標準サイズだ。向うに見える島は、
「島津島や。キャンプ場もあるけど牛の放牧場でもあるそうや」
やがてシーサイドを離れ山の中に。今度は海を見下ろせるところに出て来た。あ、あれはおなじみのテキサスゲートだ。見晴らしは格段に良くなり、左右は放牧場の開けた草原の風景が気持ちが良いだけど、
「ウンコロードに入ったな」
つうか道に牛さんが普通にいるよ。また山道に入りしばらく走ると行き止まり。広くなってるから駐車場なんだろうけど、そこからはバイクを停めて歩き。知夫里島灯台って言うのだけど、灯台周辺からの見晴らしは木が邪魔でイマイチ。でもその下の広場からは、
「ユッキー、下見て歩きや」
こんなとこまで牛さんは遊びに来るみたいで要注意だな。タイヤならまだ我慢できるけどブーツで絶対に踏みたくない。この芝生広場からの眺めはなかなかだよ。この広場だけど昔は灯台守の官舎でもあったんだろうな。
知夫里島灯台から引き返したんだけど、やや山寄りのコースを取って知夫湾のシーサイドロードに戻り、今度は知夫湾の西側のシーサイドロードを南下して仁夫に。ここも漁港なんだけど、
「ここが後醍醐天皇が上陸したとこや」
後醍醐天皇が海を渡った時も荒れてたのかな。さらに海岸線沿いに西に走り赤壁方面に。で、で、でたぁ、テキサスウンコゲートだ。ゲートを渡ったところから一面のウンコだよ。しっかし、左側が海への断崖、右側が絶壁だというのにウンコがこれだけあるということは、こんなところまで牛さんは散歩に来るんだよね。
「ほいでも景色のエエとこやな」
あれだろうな。牛さんが草を食べるから草ぼうぼうにならずに草原になってるのだろうな。それと山の木の背が低いのは風が強いところだってことだよね。駐車場というには単に広場みたいなところだけど、ここにバイクを置いて歩きか。
ここは左右に木の柵が作ってある遊歩道だけど、なるほどそういうことか。この遊歩道の左右も放牧場なんだ。というか牛さんが草食べてるもの。せめて遊歩道の中だけでもウンコがないようにしてくれてるのだな・・・あれかぁ、赤壁。
「西ノ島のも良かったけど、知夫里島のも絶景やな」
それと遊歩道から柵の外に出られて赤壁が見える絶壁に近付けるのだけど、そこに柵もロープもないんだよね。こういうところも観光客が増えたら、
「ガチガチの安全対策を取られて、その先ぐらいにコンクリート製の展望台ぐらいが出来るやろ」
無いのが良いよ。赤壁から赤ハゲ山を目指すのだけど、
「なるほどこっちはハゲなんか」
わたしもそう思った。知夫里島灯台に行く途中で薄毛って地名のところがあったんだけど、その辺は雑木林だったんだよ。でも赤ハゲ山を登って行くと一面の草原だ。もちろん牛さんも悠然と当たり前のようにいる。
「新鮮なウンコだけ気を付けた方が良さそうや」
踏んづけたら臭いのもあるけど、それよりスリップしそうだものね。
「ドカにウンコ、いやドカッとウンコか」
シャレにもなってないよ。とにかく木がない山だから、見下ろすと草原の中を道路が走っているのが良く見えるんだよ。こういう風景もありそうでないからね。
「これだけウンコだらけの道も隠岐以外で見れるとは思えん」
北海道だってなかったもの。あそこに見えるのが展望台だな。途中の道は両側が木の柵に挟まれていて、ちょっとしたハイジの気分かな。そう言えば昔の某グルメ漫画で、フランスでは海岸に近いところの潮風を浴びた牧草を食べた牛肉を珍重するとなっていたけど、こんなところで育った牛かな。
「シチュエーションはそうやけど、あの漫画はホンマに美味いんかわからんのが多いからな」
そりゃフランス料理はフランスが本場だけど、あれはあくまでもフランス人の嗜好に合わせて作られたもの。フランス人は赤身肉を好み、霜降り肉を好まない説があるけど、
「食べなれてへんだけやろ。まあ赤身肉も美味いけど、日本人やったら霜降りが上や」
もっとも霜降りも歳を取るとシンドイという人は増えて来るのはある。
「マグロでもトロは重いとかな」
あると思う。大トロなんか高いのもあるから、そうは量を食べられないけど、
「あんなもの大食いしたら胸焼けするで」
コトリの大食いレベルはマグロ一匹分だけど、
「うるさいわ。ユッキーも変わらんやんか」
展望台はまさにパノラマ。周囲の白く咲いているのは、
「野ダイコンやそうや」
野ダイコンって品種はないそうで、元は畑で育てていた大根のタネが飛んで行って野生化したものだそう。じゃあ、食べられる。
「半端やないぐらい辛いそうや」
だからこれだけあっても取りにこないのかもね。赤ハゲ山展望台から北の方に下りてウグイガ崎展望台に。ここまで来ると西ノ島が目の前って感じになるのだけど、
「昨日は向うからこっちを見とってんよな」
これだけ走って二十七キロほど。牛さんにだいぶ道を塞がれたけど、三時間だ。
「いや三時間で回った」
というのも帰りのフェリーの時刻の関係なんだ。来居から島根に渡れるフェリーは一日一便のみで、それが十時五十分着の五十五分発。これに乗れないともう一泊になっちゃうんだよ。
フェリーだから仕方ないのだけど島前から島後に行けるフェリーも一日一便だけで、島前島後を一度に回ろうと思えばプランを組むのに頭を悩ますところだと思う。
「そやから余計にクルマで来る観光客が少ないんやろ」
バイクですらね。それでも来てみるだけの価値は十分あると思うよ。景色は素晴らしいし、食べ物は美味しいし、コトリみたいな歴史オタクだって、
「歴女と呼べ!」
それなりに満足させてくれるものね。そうそう知夫里島はツーリングコースとしてはおもしろいけど、小さな島だからガソリンスタンドも来居港に一か所だけ、それもレギュラーのみ。
「こんな島でハイオク燃やして走るクルマはいらんやろ」
食堂の類も少なくてそれも昼食だけだから、隠岐にツーリングに来る人は知夫里島から回る人も少なくない。フェリーターミナルだってお土産コーナーがあるぐらいだものね。フェリーが来たからバタバタと乗り込んで爆弾おにぎりで昼食。来て良かったな。
「そない言うけど帰らなあかん。行きかえりの手間は北海道並や」
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