今日の天気はダイヤモンド
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今日の天気はダイヤモンド
祭り
夏祭りというものは、どうしてこんなにも人をわくわくさせるのだろう。
普段は静まり返った神社も、今日だけは賑やかだ。参道に並んだ夜店からは威勢の良い声が飛び交い、境内では盆踊りの音楽が流れ続けている。
そして、音楽に合わせて踊る人々の楽しげな笑い声――。
高校生・石原悠人は、浴衣姿で神社の境内に立っていた。
手には綿菓子とりんご飴を持ち、頭に狐のお面を乗せている状態だ。
その格好のまま、悠人はきょろきょろと辺りを見回した。
すると浴衣姿の少女・綾瀬未歩がこちらに向かって手を振ってきた。
二人は血の繋がらない兄妹だ。
しかし、二人は本当の家族のように仲が良い。お互いのことをとても大切に思っている。
「お兄ちゃん」
淡いピンクの生地に朝顔の模様が描かれた可愛らしい浴衣を着ている。
悠人は未歩の姿を見た瞬間、手に持っていた綿菓子とりんご飴を落としてしまった。
あまりの可愛さに言葉が出なかったのだ。
そんな兄の姿を見て、妹である未歩はクスリと笑みを浮かべた。
「もう。お兄ちゃん、私の食べ物落とさないでよ。袋がかかってて良かった」
そう言って、未歩は綿菓子とりんご飴を拾うために屈む。その際に彼女の胸元がちらりと見えた。
悠人は思わずドキリとする。
自分は高校二年生で、妹は小学五年生だ。
しかしすぐに頭をぶんぶんと振り、煩悩を振り払う。
(ダメだ! 戸籍上は未歩は俺の妹だぞ。妹の胸を見てドキドキするなんて、どうかしている)
そう思いながらも、つい視線は未歩の方へと向いてしまう。
未歩はとても可愛い女の子だ。
髪は長くてサラサラだし、瞳は大きくてクリッとしていて愛くるしい。肌の色も白くてきめ細やかで、まるで天使みたいだといつも思う。
「ごめん。それにしても家族なんだから、待ち合わせなくても一緒に家から出た方が良かったんじゃないか?」
悠人が言うと、未歩はぷくーっと頬を膨らませた。
それから不満げに言う。
「ダメだよ。待ち合わせた方がデートって感じがするでしょ。それに私の浴衣姿をドラマチックに一番最初に見て欲しいんだもん」
そう言いながら、未歩は自分の服装を見せびらかすようにその場でクルッと回った。彼女は今、髪を後ろで一つ結びにしている。それがまたすごく似合っていた。
悠人の心臓がトクンと高鳴る。
浴衣姿の未歩は本当に可愛かった。
普段とは違う雰囲気があり、いつも以上に大人っぽく見える。
悠人の中で色々な感情が入り乱れた。
それは決して褒め言葉だけでは表現できない複雑な想いだ。
例えば、嫉妬心のようなもの。
自分の知らないところでどんどん成長していく妹への焦りのような気持ち。
しかしその一方で、ずっとこのまま何も変わらないで欲しいという願いもある。なぜなら、未歩は自分にとって大切な存在だからだ。
それから二人は射的屋に立ち寄り、景品を撃ち落とした。
射的で獲得した景品の中には、ゲームソフトもあった。
ゲーム好きの未歩はそれを大層喜んだ。
他にもヨーヨー釣りをしたり、型抜きをした。
どれもこれも二人にとっては楽しい思い出となった。それから二人はしばらく祭りを楽しんだ後、未歩は玩具売場に脚を止めた。なにか惹かれたらしい。商品を手にしながら眺める。
すると、未歩はダイヤを模したガラス玉の指輪を熱心に見ているのが悠人には分かった。
「未歩、欲しいのか?」
その言葉を聞いて、未歩は慌てて首を横に振る。
しかし、どこか名残惜しそうだ。
悠人はふと思いつく。
そして財布を取り出すと、小銭を取り出し指輪を購入する。
不思議そうな顔をしている未歩の手を取ると、悠人は買ったばかりの指輪を手渡した。
すると、未歩の顔がパアっと明るくなる。どうやら気に入ってくれたようだ。
「ありがとう。お兄ちゃん」
未歩は、左手の薬指に
その表情は幸せそうに見える。
悠人は未歩の姿を見て、自然と笑みを浮かべていた。
ドーンという大きな音と共に、色とりどりの花が咲く。
二人の頭上で夏の花が咲き誇っていた。
未歩は指輪をかざして花火を見る。
「お兄ちゃん、謎かけしよ」
突然、未歩は悠人に話しかけてきた。
【謎かけ】
一種の言葉遊び。「なぞかけ問答」とも。
謎を問いかけその言葉を当てたり、上手な言い回しを考える遊び。
江戸時代ぐらいには既に存在していて、現代でも寄席の最後の演目である大喜利などにおいて、落語家などがしばしば行う余興の1つ。
「ダイヤモンドとかけまして今日の天気ととく。その心は?」
未歩は訊いた。
悠人は考える。答えは簡単だ。
「どちらも、きれいに輝いている」
未歩はクスリと笑う。正解のようだった。
「一番、ね」
未歩は補足する。
彼女の瞳の中で花火の光がキラキラと反射する。
まるで宝石のように綺麗で、悠人は見惚れてしまった。
(いや。一番きれいなのは未歩だろ)
そう思ってから、悠人はハッとする。
悠人は狐面を被って気恥ずかしさを隠していた。
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