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その日の夕方、車椅子に乗った姉さんが看護婦さんに連れられてボクの部屋にやってきた。
「姉さん!!」
ボクと同じで身体中包帯に包まれている状態だった。少し安心したのは頭には包帯を巻いていたけど奇跡的に姉さんの綺麗な顔には傷一つついていなかった。
「サトル・・・良かった・・・無事に目が覚めて・・・お医者様の話ではこのまま長く目を覚まさない可能性もあると言われていたのよ」
ボクの顔を優しく両手で包んでくれる姉さん。包帯越しにでもちゃんと温もりが伝わってきた。
「姉さん・・・本当なの?父さんと母さんが・・・この事故で死んだなんて・・・。」
話し始めてボクの身体と声は震え出していた。
「すみません・・・少し弟と二人きりにしてもらえませんか?」
「・・・わかりました。ナースコールを押していただければすぐにまた来ますので。」
「ありがとうございます。」
看護婦さんがいなくなったあと、ボクは静かに話し始めた。
「ボク、見たんだ。車の中で一回目が覚めて。座席とハンドルに強く挟まれてたからあまり身動き取れなかったけど、父さんと母さん多少の怪我はしていたかもしれないけど失神しているだけで軽症だったはずだ。間違ってもそのまま死ぬなんて事あるはずない・・・ましてや二人共なんて・・・。」
「・・・それは本当なの!?・・・じゃあ・・・父さんと母さんは・・・誰かに殺された可能性も・・・。」
ボクと姉さんは突然降りかかってきた現実に打ちひしがれしばらく沈黙していた。
「でも、もし事件だとしたらもう大切な証拠はなくなってしまっているわ・・・。」
「どういうこと?」
「それが・・・おかしいの。ブレーキが効かなかったからあの事故が起きた。道路についてるブレーキ痕なんかを調べれば事件性が認められ司法解剖が行われるはず。それなのに・・・。」
「え、待って、もしかして・・・。」
「お父さんとお母さん・・・もう骨になっちゃったって。」
そう言った途端、姉さんの瞳からは大量の涙が溢れだした。
「そんな・・・。」
「私も病院に運ばれた当時は昏睡状態でいつ目が覚めるかわからない状態だったみたいなの。子供達二人共話が聞けない状態でいつ目が覚めるかわからない。それどころか二人共このまま二度と目を覚まさない可能性だってあった。うちには親戚もいないし・・・遺体の本人確認は部長が来て確認してくれたみたい。でも・・・その部長とは今何故か全然連絡がつかない状態で・・・。」
「連絡がつかない?どういう事?」
「さあ、私にも何がなんだか・・・。」
「ボクが・・・もっと上手く木に衝突出来ていたらこんな事にはならなかったのに・・・。」
「サトル、思い詰めちゃダメよ。サトルのせいなんかじゃない。悪いのは全てブレーキに細工した誰かなんだから!」
「姉さん・・・。」
ボクと姉さんは落ちつくまで互いを慰めあうために病室でしばらく抱き合っていた。
姉さん・・・父さんと母さんが本当にいなくなってしまったとしたら・・・これからはボクが姉さんを守って支えてあげるからね・・・。
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