モノマキア決闘大会、本戦二日目《待機室》
『キュキュー! キュキュイ、キュイキュイ!』
「おうおう、大丈夫だぞー? グレイスの興奮は抑えつけてきたしな」
「はい、お手数おかけしました」
「大丈夫だ、なんてことはなかったしな」
「………あの後、結局やったんっすか?」
「やった、太陽が出てくるくらいまではやったな。あぁ、安心してくれ。寝てないからヘマをするという事はないし、寝てないからといって暴走するという事もないからな」
「あ、そこは心配してないっす」
「そうか?」
決闘大会二日目、昨日と同じ様にコロシアムの待機室に飲み物と軽い朝食を用意して、俺たちの出番になるのを待っている。今日は昨日の視界投映の魔法を使用せずに大人しく待機し、昨日の様にならないか不安に思って大丈夫かと聞いてくるラビ助に、大丈夫だと伝えて体を優しく撫でつつ用意した朝食を口に運んでやる。今日用意したのは四辺を直線にして作った食パンの上にチーズと玉ねぎ、トマトソース、ウインナーを乗せて焼いたピザトーストなる物だ。宿の主人と雑談をしている時に教えてもらった、知り合いに数年ほど前に奢ってもらって作り方を教えられた料理らしい。
初めて作ったので味が心配だったが、ラビ助が喜んで食べているのを見る限り大丈夫だったんだろう。
ちなみに、結局試合の観戦で興奮が収まらなくなったグレイスだが、昨晩に300か400かそのくらい防護結界を張って、その中で夜明けまで二人きりで殺し合いを繰り広げる事で収まらせた。ヘルディには収まりそうになかった時には二人で殺し合いしてくるとは伝えてあったので、俺とグレイスの様子を見て言ってたことを本当に実行したのかと聞きながら、視線には呆れの様な感情が籠っていた。
まぁ、仕方ない。龍とはそういうのだし、性欲に耽って興奮を満足させるなんてことをする様な関係まで発展していないしな。それに、戦う方が早くスッキリするし後処理も服がボロボロになるのを何とかする、というか服を着替えるだけだからな。
「今、どの様な感じですか?」
「今か? ……今、入場が終わった感じだな。見た感じそれほど苦戦するということもないだろうし、おそらくそこまで時間は掛からないだろうな」
「ふむ、では早めに食べ終えた方が良さそうですね」
「そうだな」
「ん、ん...今日の第一試合って誰と誰だったっすか?」
「ゴブリンたちのヴィーザルと人間だけのヘキサグラム。人間どもの方は連携能力はあるみたいだし最低限の実力はあるんだが、昨日よりも連携を磨いてきたゴブリンたちの相手にはなれていないな」
「ほー、そうなってるんっすねぇ。じゃあ順当に想定通り明日の相手はヴィーザルになりそうっすか?」
「そうだな、ここから人間が羽でも生やして飛び回らない限りはそうなるだろうな」
「了解っす」
「あ、ヘルディ。そこのポットを取ってください」
「これっすね、はいどうぞっす」
「ありがとう」
『キュキュー、キュイ』
「ん、そうか。グレイス淹れ終わったらこっちに回してくれ」
「分かりました」
軽く雑談を交わしながら、待機室で朝食を取っていく。ちなみに食べ方の違いだが、俺とグレイスは特に切り分けたりもせずにそのまま齧り、ラビ助は口の大きさに千切ったものを頬張り、ヘルディはナイフとフォークで切り分けながら食べている。基本的に俺とグレイスは手が汚れるのを気にしない、というか汚れても魔法で洗い流せるし浄化も出来るから普通に手で持って食べる。ラビ助は千切って渡さないと顔周りが汚れるてしまうのでこうして食べさせるのが普通になった。ヘルディは以前から他者と食事の席を共にすることがあり、堅苦しい場所で食べる事もあったので基本的にナイフとフォーク、要は手を汚さずに綺麗な所作で食事を進めている。
ちなみに第一試合の戦況だが、人間側は2人脱落しており対するゴブリン側の脱落者はなし。脱落した人間は盾持ちとナイフ持ち、タンクとシーフとかいう役職らしいそいつらが脱落した。動きが遅いタンクはゴブリンの速度に追いつけず、戦っている最中に不意を討とうとしたシーフは情報共有に言葉も時間も要らないゴブリン相手に通用せず、ゴブリンたちの武器を少し削った程度で脱落していった。
残った人間だが、片手に剣でもう片方に盾を持っていた奴が剣を捨てて杖を持って魔法を使っていた人間を抱えて動き回り、そこに攻撃がいかないように牽制と妨害を弓持ちと槍持ちが行っている。ゴブリンたちは杖持ちを処理しようとしたが、妨害が刺さったようでその前に各個処理に移って槍持ちから落としにかかって、今落とされたな。これで人間側は残り3人だな。
コンコン
ん? 誰か来たな?
「誰か来たっすね、出てくるっす」
「いや、俺が出よう。ヘルディはラビ助を頼む」
「了解っす、ほらラビ助こっちすよ」
『キュ』
試合が終わっていないから職員ではないだろうし...ん? 何故此奴らが此処に来た? こいつらの待機室は反対側だったと思うんだが...まぁいい。来たのだし、直接聞けばわかるだろう。
────────────────────────
ノックに応じて外に出れば、気配を感じた通りに今日の対戦相手である人間どもが集まって立っていた。各々の得物を即座に取り出せる位置に持ちつつ、構えていないのを見る限り順当に話をしに来ただけだと考えていいのだろう。敵意も感じないしな。
「何の用だ?」
そう聞いてやれば全員が一斉に話し始めそうになったので、一番前に立ってノックしたであろう人間の口に指をあてて、一人ずつ話すか話を集約して一人が話せと言って黙らせる。すると少し離れて集まって話し始め、数分程度で話を終わらせて、再び先程ノックしたであろう人間が前に出てくる。
「初めまして、俺たちは」
「あぁ、自己紹介は不要だ。お前たちが次に戦う相手だという事は把握している。要は何故、戦う相手に戦う直前に会いに来たのか聞いている...あぁ、明日に駒を進めたいから降参してほしいという願いは聞けんぞ」
「……分かりました、では目的を言います」」
「早く言え」
「今日の戦い、俺たちと本気で戦って下さい」
「………ほう?」
「勝てないことは分かっています。手加減をされたとしても手も足も出ないという事は分かっています。あなた方の本気を見れば一秒と掛からず俺たちが死ぬという事は分かっています」
「ふむ」
「それでも本気で戦ってほしい。本気のあなたたちに挑ませてほしい」
「………」
「ですからお願いします。本気で戦ってください」
悪くない目だ、覚悟が決まっている。それも個人の独断ではなく、全員が同じ目で同じ覚悟を決めている。良い目だ、良い戦士の目だ...だが若いな。無駄だと分かっていても挑みたい、その蛮勇さに無謀さは嫌いじゃないが...ダメだな。本気を出してやれるだけの楽しみをこいつらに見出せない。だが、まぁ
「いいだろう」
「!! じゃあ..!!」
「だが一つだけ条件がある」
目の前の戦士、男の顎を持ち上げて目を見る。覚悟は変わらず、だが歓喜が表層に出てきていて、その奥底に燃える闘志を見せているその目を見る。
「本気を出させて見せろ。お前が、お前たちが戦士ならば。俺たちが死ぬかもしれない、本気を出して相手をしなければならない、そう思わせて見せろ」
覇気を込めて言葉を紡いでやれば、戦士たちは息をのむ。それを視認しながら、続く言葉を紡ぐ。最大限の期待を込めて、是非とも奮起してその牙を俺たちに届かせてほしいという欲望を込めて、言葉を紡ぐ。
「その瞬間、俺は本気を出してやろう。お前たちを若く幼い戦士ではなく、頂に手を届かせる戦士であると認めてやろう」
「俺の敵であると、お前たちを認めてやろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます