冒険者ギルド前

現在はヒノクニ亭を出て、商業地区を抜けた先にある大通りに足を進めている。これはグレイスから、何処に行くとしても取り敢えずは大通りに行きましょう、という意見を貰ったので大通りに向かっている。


今の時間としては太陽が中天に昇り切るくらい。

街の賑やかさは大して変わりないが、道を歩く人の数というのは減っている。

また武器や防具を身に付けた人ばかりだった朝とは違い、今歩いている人は鞄を持った女や紙の束を持った人ばかりである。

随分と僅かな時間で様変わりしたなと思いつつ、周囲の店や露店を見回してみるが、特に魅力的に感じる様な物は見つけられない。

大通りが近くなったのか装飾や花などの代物よりも、ダンジョンで手に入れた霊薬の様な瓶に入った液体や刃物を研ぐための研磨剤、弓矢、ロープ、包帯、カンテラといった様な代物が目立ってくる。どれも必要としない此方からすると、どうしても興味が持てない。


あとすれ違う何人かからは呪われている様な、呪っている様な気配を感じたので、デートの邪魔になる可能性を考慮してすれ違う度に呪いを抹消している。

呪術師だったら申し訳ないのだが、街中で呪いを撒き散らしている様な奴が悪い。




「……ようやく、大通りか」

「…その様ですね。実際に歩いてみると長さに広さがよく分かりますね」

「あぁ、そうだな………さてと、何処に行こうか?」

「そうですねぇ...冒険者ギルドとやらにでも行ってみませんか? 何か面白い物が見つかるかもしれないですし」

「なるほど、じゃ行ってみるか。何処だったか?」

「確か……大通りの先にダンジョンがあって、その横にある独特なシンボルを掲げている大きな建物、だったと聞いていますね」

「ふむ、まぁ仮に違ったとしてもそれもまた一興だし、行ってみるか」

「はい、行ってみましょう」


商業地区の道を抜けて、ダンジョンに蓋をする三角形の大きな建物へと一直線に伸びる大きな道に出る。

幾つもの馬車が行き交い、所々に道が枝分かれ、言い方は悪いが商業地区にある店よりも少し豪華さに掛ける建物が乱立している大通り。


大急ぎで走っていく馬車の進路からグレイスを抱き寄せながら、周囲の建物よりも一際高いダンジョンの蓋に向かって足を進めていく。



────────────────────────



大通りを進むこと数分、途中で急ぎ掛けていく馬車の進路から避けつつ、店の外に出て来ての客呼びに断りを入れて、転んだ子供が轢かれ掛けているのを二人で助けたりしながら、ようやく辿り着いた。

辿り着いたのは辿り着いた、が………


「どの、建物だ……?」

「えっと、独特な、独特な……どれも独特ですねぇ」


独特なシンボルが掲げられた建物、という事だったがどれも独特なシンボルが掲げられている。

杖と本が山の様に盛られた燭台、紫色に染められた釘で縫い付けられた藁人形、割れた酒瓶に溶けた鉄を注ぐ鴉、剣に槍に槌に杖に鎌に斧に弓が生えた宝石。

取り敢えず十字架の建物、複数の輪っかに包まれた本の建物は違うだろうという推測が立てられるが、どれが冒険者ギルドなのかは分からんな。


「さて、どれに入る?」

「そうですねぇ...なんとなくですけど、あの藁人形の建物は私たちとの親和性が高い気がするので、冒険者ギルドとやらではないと思います」

「ほう……燭台か宝石の建物か?」

「おそらくは………どちらにしますか?

「んーーー、燭台の方にしようか。何となくだが」

「はい」




という事で、まずは燭台の建物の中に入る事に。

来客・ご新規・見学用と書かれた扉を押し開き、臆する事なく中に入っていく。入って一番に感じ取ったのは視覚的情報よりも先に嗅覚的情報だった。

草木を焦がした様な臭い、鉄錆の臭いをより強く醜悪にした様な臭い、複数の花のを潰して混ぜた臭い。

思わず眉を顰めて、臭い除けの防護を貼ってしまうくらいにはとんでもない臭いを感じ取る。正直に言ってしまえばこれ以上入りたくはないんだが、少なくとも此処が何をやる場所なのかを確認しておかねばならないので入っていく。


内装は、意外と綺麗だった。少なくとも草原の途中で見つけたダンジョンの内装の様に汚れておらず、寧ろ綺麗に見やすく整理されている様に感じ取れた本


「………臭いからは想像も付かんな」

「……そうですね..あ、錬金術のギルドみたいですね此処は」

「なに? ……その様だな。賢者の石に黄金をあんな形で飾るのは、錬金術しかないか」

「ですねぇ。んーー、あの黄金は普通に採掘された物みたいですけど、賢者の石は本物? みたいな感じがしますね。少なくとも、あれの中身を全部使いきれば成龍を殺せるくらいには詰まってますし」

「……余程、腕の良い錬金術の担い手がいるのか、それともあれに執着した気狂いでもいるのか。まぁいずれにしろ、確認は終わったな。何か気になる事はあるか?」

「んーー、錬金術の本でも買ってみませんか? 何となくですけど、何処かで使える気がします」

「そうか? じゃあ、買ってみるか。

………すまない、此処で錬金術の扱い方が載った本は購入出来るだろうか?」

「んん? ………ヒョエ、超イケメンに超美人」

「……何かあったか?」

「んん! お気になさらず、錬金術の本ですね! 初級、中級、上級のどれをお望みでしょうか?」

「あー……扱い方が載っているのならば全部持って来てくれ、金ならば此処にある」


本の種類はどうするのかグレイスに目線で尋ねてみれば、一応使うか知らないけれど全部欲しいという事なので全てを要求する。

カウンターに座っていた人間は、俺たちが荷物を何も持っていないから金があるのか訝しんでいたので、白金貨を三枚取り出して机の上に置いてみれば、驚いた様に立ち上がり俺たちに待っている様に言ってから駆け出して行った。


待つ間に店の中を見回してみれば、人の数が多いという事に気付く。殆どが近くにいる人に話したり、手元や机の上に並べた物を紹介したりしている。中には手を握りしめて、祈る様に目を閉じているのもいる。


「お、お待たせしました!!

えーっと、このギルドに一般の方に公開されている錬金術の用法が載っている本です!!」

「あぁ、ありがとう。幾らだ?」

「えっと...69万モネになります!

お釣りの用意をするので、少しお待ち下さい!」

「釣りは大丈夫だ、69万丁度を用意しよう」

「へ?」

「……大金貨六枚に金貨九枚だな。ほら」

「あ、はい。丁度ですね、確認しました。

ありがとうございます!!」

「うむ、それではな。グレイス、行こうか」

「はい。あ、それ受け取ります」

「ほら」


────────────────────────


「ふむ、臭いはクソだが中身は悪くなかったな」

「そうですね。次は、何処にします?」

「んーーーそうだなぁ。藁人形は呪術師ギルド、十字架は宗教関係、本は魔法使いだろう。

それで、おそらくだがそのどれも面倒事になる予感がするから、入るのはやめておこう」

「そうですか?」

「そうだ」


呪術師は呪いを研究していると想定して、呪いが見えるのならば俺たちの様に体の構成が呪いの俺たちを研究しようとしてくるだろう。

宗教は神が関係しているだろう。そうなってくると悪神が生み出した呪いは排斥される可能性があるし、下手に排斥されて指名手配されると面倒でしかない。

魔法使いは...レメを見る限り行く理由も利点も無いし、人間の魔法体型を知りたいのならばレメに聞けば良いしな。


「さてと、それじゃあ、行くか」

「えぇ、行きましょうか」




────────────────────────



八回ぐらい書き直した_:(´ཀ`」 ∠):

当初の予定では全部のギルドに入って、内装の描写をしてたけど、この小説には相応しくないと思って最初から書き直してた。


あと二話で第一回デート編は終了です。


作者でした( ´ ▽ ` )

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