寄り道:階層ダンジョン《練戦の楼閣》

特に罠の気配は無し、塔の中に入ってから発生した気配も無し、奥の部屋から出てくる気配も無し。

だったら進んでいいだろうけれど上に登るには奥の部屋に行くしか無さそうだしな。


「奥の部屋に行くぞ」

「罠の警戒はなさらないのですか?」

「もう見た、それで無かった。気配の数から判断する限り、ここはあの奥の部屋にいる奴を倒しながら登って行くダンジョンなのだろう」

「……あぁ、ボスラッシュ形式ですわね。また特殊なダンジョンでありますわね」

「ボスラッシュ?」

「ダンジョン内にはモンスターと呼ばれる殺したら素材やアイテムを落とす生物が生息していますの。その中でも強いモンスターの事をボスと呼び、そうしたボスしかいないダンジョンをボスラッシュ形式と呼んでいるのですわ。滅多に見つからない特殊なタイプのダンジョンですわね」

「なるほどな、それじゃあ開けるぞ?」

「えぇ、どうぞ」


奥の部屋に繋がる扉を開けると、中には鎧甲冑が鎮座していた。気配を感じるのはその甲冑、ではなくその足下の影の中から感じ取れる。それほど強そうではない、少なくとも最近蹂躙した巨人より遥かに弱い。

時間を掛ける理由もないので、さっさと殺そう。


「……リビングアーマーですわね、お気を付け下さいませ。並大抵の物理攻撃は通用しませんわ」

「? あの鎧は本体じゃないぞ、その下だ」

「へ?」


神妙な面持ちで忠告してくるアズラを置いて、鎧の近くに移動する。カチャリと高い音を鳴らしながら動き出した鎧を無視して、気配が滞留している影に向けて魔法を込めた手を突き刺して引き摺り上げる。影の中から出てきたのは溶けている30㎝程度の蝙蝠。

ギャーギャー喧しく鳴いているので、掴んでいる手に力を思いっきり込める。コキャという音と共に蝙蝠の首へし折れ、サラサラとした砂の様になって消えて行き、消えた後に残ったのは鎧と蝙蝠の羽だけだ。


「この程度か」

「………? 戦った事がありましたの?」

「無い、だが何処に何がいるのかを気配を見れば何が本体なのかは分かるだろう。それより、どれを持って帰るんだ? 鎧も持って帰るのならば俺が持つが」

「す、少し待っていただいてもよろしいかしら?」

「構わん」

「……合金?………見た事無い………はい、分かりましたわ。鎧を持っていただけるかしら?」

「分かった、羽は?」

「そちらは私が持っておきますわ」

「そうか、それじゃあ先に進むぞ」

「分かりましたわ」


鎧をパッと魔法空間に仕舞い、アズラが蝙蝠の羽を自身の袋の中に片付けたのを確認してから部屋の奥にある螺旋階段に向けて歩き出す。

アズラが着いて来ている事を把握しながら、螺旋階段に沿って上へと進む。


この程度なら、それほど警戒する必要は無いな。

不意打ちをアズラに仕掛けられたとしても、一秒かからずに処理出来るだろう。さっさと頂上まで行ってしまおう。



────────────────────────



二層目に居たのはウサギ。アズラ曰くフェイクラビットとか言う奴らしく、愛くるしい仕草に騙された人間の首を異様な脚力で蹴り砕くウサギらしい。

可愛らしいウサギはもういるので頭を掴んで捩じ切ってやれば、後に残ったのは角と耳当てだった。角は出回っているらしいので、耳当てだけ回収して進む。

一応聞いたが、アズラは普通に血が噴き出たり解体風景を見るのは平気らしい。まだ解体は出来ないらしいが、現在勉強と練習を重ねている最中とのこと。



三層目に居たのは猪。部屋に入った瞬間突っ込んで来たので蹴り返したら絶命したよく分からん猪だった。

説明を聞くよりも早くに死んだ猪は牙だけを残し、アズラ曰く猪の牙は魔法使いや錬金術師、呪術師が触媒によく使うらしいので回収した。

名前は忘れたが、この猪は年間で数十人は殺しているくらいには危険性があるらしい。その内の八割が先程の初見殺しにあるらしいが。



四層目に居たのは猿。3mほどある火かき棒を持った猿だったが、アズラ曰く新種らしい。部屋に入って近づいた瞬間に吠えながら走って来たので、走り寄って心臓を掴み取って握り潰した。

残ったのは火かき棒と猿の手だったが、猿の手は持った人間の幸運だとか寿命だとかを吸い取る手だったので俺が回収というかリソースにした。火かき棒の方は構成している鉄の純度がかなり高いらしく、持って帰って錬金術を活かしてバラせば純度が高い鉄インゴットが出来るらしいので回収した。

あと新種の場合に限りどんな行動をするのかと言った情報も金になるらしいので、次からは可能だったら瞬殺は勘弁して欲しいとのこと。余裕はあるので、次からの新種は気をつけようと思う。



五層目に居たのは熊。10mはある巨体に、知性を感じさせる目をした黒い毛の熊、アズラ曰くハンティングビーストという熊らしい。部屋の中に入った時点で起き上がってこちらを観察してきた。

まぁ所詮は大きくて知性があるだけの熊、走り寄って動き出すよりも早く首を掴み取って捻じ切ってやればそれだけで絶命した。大きな毛皮と銀製の大鉈が残った。貴重品らしいがアズラの袋には入らなかったので、俺の方で回収しておく。この塔を出たら少し加工がしたいとのことなので取り出してやる事にする。



六層目に居たのは人形。微弱な生体反応を感じる白い人形で、アズラ曰くドールと呼ばれるモンスターらしい。とはいえ白いドールは聞いた事がないらしく、新種である可能性が高いらしい。

取り敢えず警戒をしつつ、近付いてやれば綺麗にお辞儀をして来たのでこちらも返す。すると何故か静止したので少し考えて、それから椅子と机を取り出してドール側の椅子を引いてやる。そうすればドールはゆっくりと椅子に座るので、反対側の椅子にアズラを座らせて、紅茶にお菓子は残念な事に持って無いのでスウサウのジュースと胡桃の中身だけを取り出して机の上に並べて出す。それからドールがスッとカップに入れたスウサウのジュースを飲み、二、三粒ほど胡桃を食べると光になって消えていった。

光になって消えた後に残ったのは少しの装飾が付いた白い木製の箱だけだった。アズラが手に取り開けようとしたが開かず、俺が手に取り開けると大した力も抵抗を感じる事もなく開き、中には輝く装飾品が中に大量に詰まっていた。一部呪いが掛けられている物もあったが、装飾品としての完成度は高く、主役にも脇役にもなり得ると言う最上級品とはアズラの話だ。

所有者資格が俺になっているから持っていってくれとの事なので俺が貰う事に。情報の報酬代わりに箱の中からブレスレットを渡しておいた。目と口を大きく開けていたところを見るに、おそらくかなり高価な物だったんだろうが、特段気にならないので放っておく。



七層目に居たのはただのキメラ。新種ということでもない様なので、首を全部落として心臓を貫いて終わらせる。その後に残ったのは、小瓶に入った薄紫色の液体が二本と小瓶に入った赤褐色の砂が一本だった。

アズラが口調をかなぐり捨てて大興奮していたので、おそらく薄紫色の液体はおそらく霊薬とかいう代物なのだろう。二本ともやると言ってから小瓶を手に持ってアズラの腰につけている袋の中に入れる。

赤褐色の砂は貰う、よく調べる必要はあるが魔法原石の作成時の最後のコーティングに使えそうなので。全治の万能薬は要らない、傷なんて勝手に治るし病は取り込める、何ならグレイスの力を借りれば俺が原因ではない全ての傷に病に呪いは回復出来るだろうし。



八層目に居たのは小柄な狼。銀色に輝いた体毛を持っている狼で、不意を打たれればアズラが殺されそうなので部屋の外に待たせておく。

俺だけ部屋の中に入ってみれば、強風とそれに乗って吹雪が巻き起こる。同時に狼は吹雪に紛れては姿を掻き消し、その動く音は全く聞こえない。気配は見えるのだが、雪で身動きは自由に取れそうにないので襲い掛かって来たところを捕まえて殺そうと考え、棒立ちになって待つ。後ろに回って走って来たので足を差し出して噛み付かせ、膝から下を噛み千切ろうとした狼の首を捕まえてそのまま圧し折る。

狼が地面に崩れ落ちていくと共に強風と吹雪は止み始め、積もっていた雪も消え始める。無駄な心配を掛けないために噛みつかれた足を消し飛ばし、そのまま心臓を打ち抜いて肉体を再生させておく。

さっきまでの戦いの痕跡が消えて部屋の外に待たせていたアズラが駆け寄ってくる。片足の膝下の服が無いことに疑問を持たれつつ、どんな動きをしたのかを聞かれたので吹雪を起こして姿を隠しながら襲い掛かってきたという事を伝えておく。強度に関しては不明、傷を負った後で行動変化があるのかも不明というのも伝えておく。

ちなみに狼が消えた後に残ったのは毛皮と爪と牙だったので全部纏めて魔法空間に仕舞っておき、塔の外に出たらアズラに渡すことにする。



九層目に居たのはズタボロのローブに禍々しい杖と黒紫色の球体を持った骸骨。アズラ曰くリッチと呼ばれている最悪のアンデッドらしい。一昔前にはダンジョンから出て来て、一夜にして一国を滅ぼした化け物とのこと。最大限の警戒をする様にと伝えられたが、悲しい事に目の前にいるリッチの力の源は死と呪いだし、基本的な戦闘手段は魔法なのである。魔法なんて基本的に無拍子で炸裂させられるし、呪いに至っては吸収出来てしまう。

消耗するどころか呪いを起点に吸収し尽くしたので追加のリソースが手に入り、リッチは身につけていた物を地面に落としながら頭蓋骨だけになったので踏み砕いて終わらせる。

塵になって消えた後には杖と黒紫色の球体、それから黒色のダイアモンドが残っていた。どれも要らないので若干染み付いていた呪いを消しながら、全てアズラに渡しておく。



そして次が最終層、妙な気配を感じる場所。

特に気を引き締める必要もないので、特段態度も気の持ち方も変えずに進んでいく。


────────────────────────


一旦切ります

次話はこの塔の十層と外に出てからです。

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