戦闘継続

………ッ、少し厳しいか。

光線だけじゃあ落とし切れないのは分かっていたし、それを見越して魔法炸裂の準備もしていたが、いかんせん動きがバラけていてスムーズに対応し切れそうにない。雷一つ取っても直進、ジグザグ、分裂、牽制と多様に使い分けて打ち出され続ける。


………これは無理だな、対応は続けられない。

現状はかろうじて対応出来ているが、続いていけばどこかでボロが出てそこから一気に崩される。

…諦めるか、次の作戦を実行することにしよう。


「ジェミャ・カオ・トイコス」

「?」


光線を思いっきり薙ぎ払って飛んで来ている魔法を全部叩き落として、光線を放つのに向けていたリソースを引き戻して俺を中心にしたドーム状の壁を作る。

とはいえ大した硬さもないし、魔法を畳み掛けられたらおそらく数秒で崩れる程度の壁だが。

さぁ急げ急げ、落ち着くのは今じゃないこの後だ。


「ヴィーゾフ。大海の暴君タイラント

「……!!! ミーティアァ!!」


大声が聞こえて来たし、空気が捩じ切れる様な音が壁の外から聞こえるが、壁に遮られて何も見えないので気にせずに魔法を行使しよう。

リソースなんて足りないに決まっているので、数回死んでそのリソースを注ぎ込んで、ついでに錫杖の中に取り込んでいたグレイスの魔法も全部注ぎ込む。


グシャ

紙を握り潰したような音が頭上からするので、注ぎ込んだ物を形成しながら上を見ると、俺を囲っていたドームの上部分が消えていた。

ついでに空から複数の灰色に燃え上がっている塊が俺の方へと飛んで来ているのに気付く。


間に合うだろうけど、多分直撃は避けられないな。

丁寧に上の部分だけ壊して走り去れないようにしてるし、そもそも錫杖を地面の中に突き刺してるからそこを中心にしているから逃げれないんだが。

…………詰みだな、仕方ない取り敢えずは錫杖を守ることを優先しよう。蘇生に合わせて魔法が行使出来れば御の字だが、無理ならば余剰魔力を投げ付けよう。



「さ、二回目ですね」

「……そうなるな」

「ふふん、籠ったのは愚策でしたね」

「あぁ……それは、どうだろうな?」

「? 何を言って..」

「刮目するといい」


真っ直ぐ俺に向けて落ちてくる塊(隕石だなこれ)を全身で受け止めながら、生じる衝撃波とかの被害が錫杖から逸れるようにしておく。

自信満々な様子のグレイスに言葉を返しながら、上半身を消し飛ばされていく。死ぬほど痛いが準備は全て完遂出来た。


遊び感覚で作った魔法だし、使い物になるのかは全く分からんが、まぁ高性能な壁くらいにはなる。リーズィのブレス一発分のリソースだからな。

役に立たなかったら、次に言葉が通じる生物と出会えるまで全裸で旅をするわ。



「偽装再演、大海蛇王ミドガルズオルム」

「………ぇ、マジで言ってます?」

「マジだよグレイス」



馬鹿みたいなリソースを飲み込んで、ついでと言わんばかりに錫杖を砕きながら虚空から姿を現したのは赤い瞳を輝かせる巨大な蛇。

ドラゴンなんて裕に超える巨大な体躯に、地面を融かし続けるような高温の激毒を体表から垂らし、並大抵の攻撃じゃ痕も残らない鱗を持った怪物。

リーズィが苦戦したといい三日三晩戦い続けた、海の中から浮上した最悪の蛇の王。


それを俺の死という莫大なリソースを利用して再現した。リーズィから聞いたのを俺の考えで適当に補正した形だが。まぁ、オリジナルの馬鹿げた再生能力に空気にすら影響を与える毒といった部分は再現出来ていないし、話に聞いた全長数万キロのサイズなんて再現する気もなかったんだが。

それでも今使うのならば充分だろう。生半可な魔法は基本的に通用しないし、俺の魔法による再現だから吸収されたら消えていくし魔法を使う度に削れていくんだが、盾にはなるし、そもそもリーズィのブレス一発分だからなそう簡単になくならん。


「さぁ暴れろミドガルズオルム」

『ジャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』

「ッッッッ!!! ガルディ・クリイェ!!」


命令を出してやれば空間を揺らすような大声を上げながらグレイスの元へとその大口を開けながら突撃していく。速度はグレイスより少し遅い程度、伸びていく体はまだまだ余裕があるし、移動の勢いで飛び散った毒はしっかりと機能しているし表面の劇毒も無くなったらすぐに湧き出てきている。

性能は上々、態々俺が直接動きを止めに行く必要もないな。後ろから魔法でチマチマとグレイスの動きに制限を掛けていくかな。

グレイスはグレイスで飛び込んでくるのが見えた瞬間に即座に飛び去りながら防護、というかあれは毒だとかを弾く用の密着したタイプの結界だな。それを複数枚同時に張り重ねて逃げながらミドガルズオルムの進路を指定しているな。

あれだとその内自分で自分の体を結んでしまうな。俺の魔法で軌道修正もあまりよろしくないな、そこまで頭は回りそうにないしな。

……………あ! あれ実体持ってねぇわ。魔法原石を使っているわけでもそこら辺の死体を使っているわけでもないから実体ねぇわ。じゃあ縛ることは無いな普通に抜け出せるし、仮に体に当たって抉れたとしてもどうせすぐに直るし。

俺は気にせず魔法を打ち出しているかな。球体は飽きてきたし槍状とか剣状とか色々な形にしてみるか。




「…こっちで、次はあっち、それから」

『ジャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!』

「近いけど、まだ離せ..!?」

「おぉー、よく避けたな。死角だったんだが」

「……厄介極まりないですね、本っ当に..!」

「これが俺だよ、使える物は全部使うさ。

そらそら、気張れよ。何をしようとしているか大体察しはついているがな」

「……その余裕を引っぺがして見せますよ」

「クハハ、やってみるがいい。そらミドガルズオルム追加だ、好きに使うがいい」

『シュー? !! シャアアア!!』

「!? 速くなった!?」


うーむ、楽しいな。グレイスの動きを邪魔しつつ、やろうとしている動きに誘導するのは楽しいな。

さてさて、そろそろだな。グレイスを追いかけるのに伸びた体は頭を通す一直線の穴だけを開けて複雑に重なり合っている。あとは上からでも下からでもあの穴を通り抜ければミドガルズオルムの体は結ばれて、身動きが自由に取れなくなる。

それがグレイスの狙いだろう。そりゃそうだ普通にミドガルズオルムを捩じ伏せるのならば人型ではかなり精神的に疲労するし、龍形態になる場合は手の内を俺に見せる事になるからそれは避けたいんだろう。

まぁ生物じゃないから通用しないんだが。


ミドガルズオルムで出来れば根源を見抜きたい。グレイスの戦闘能力が高いのは知っているが、どんな戦いをするのだとか、どの魔法が卓越しているのかなんて知らないからな。ブレスまでいけたら最高、ミドガルズオルム愛用するし多用するわ。


「………差異なき幻影ファンタズマ狂う視界ラプソディア

『???』

「これは……そういう事か」

「……此処で使いたくはありませんでしたですけど、これを倒すためには仕方ありません」


グレイスの姿が一瞬だけブレると、次の瞬間にはグレイスの姿が重なって見える。まるで分身がそのまま重なって走っている様な、視界に直接影響を与えて来ている様な奇妙な感覚。

ミドガルズオルムは疑う事なく追い続け、俺たちの想定通りの動きをして作られた穴に頭を通す。その途中で何故か動きの速度を緩めたグレイスを飲み込みながら真っ直ぐ穴に頭を通す。


その時点で漸く異変の実態を理解した俺は自分の頭を吹き飛ばし再生する。

クリアな状態でよく見てみればグレイスはミドガルズオルムの奥側に傷一つない様子で飛んでいた。


おそらくグレイスが行ったのは分身の作成と視界異常の同時使用。自身の姿をブレさせて複数の分身を作成すると同時に、そちらへと意識が集中している間に視界に対して自身の姿が見えない異常性を与える。

単純にその異常性だけならば即座に解除されるからこそ注意を分身に向けたのだろう。本物と全く差異がない異常なまでの完成度の分身に。


「厄介極まるな」

「ふふん、それだけじゃありませんよ?」

「はっ、ミドガルズオルムの身動きを封じた事か?

………無駄だ。ささっと目を覚ませお前の敵はまだ生きてるぞ」

『!! シャアアアアアアアア!!!!』

「実体がないのは気付いてますよ? 私の狙いはこっちです」

「は? いやちょっと待て、それは」

「カースダイア、貴方の力の結晶であるこれを取り込めば嫌でも実体になる部分が出来るでしょう?」


そう言うとグレイスは手に持った二つのカースダイアを丸まっていたミドガルズオルムに投げる。丸まって固まった状態でそれを躱せる訳もなく、ミドガルズオルムの体に命中したカースダイアは即座に砕け散って体内に取り込まれる。

その瞬間、実体がないはずのミドガルズオルムの実体が形成される。全身が形成された訳じゃないし、動きに影響が出る訳でもないが、その僅かな実体化でこの再生能力がないミドガルズオルムを殺すのは充分なのだろう。

…………………仕方ない、まだ此奴には仕事がある。



「さぁ、一対一を再開しましょうか!!」

「………転換、ミドガルズオルム」

「『!?』」


俺とミドガルズオルムの位置を入れ替えて、グレイスが放とうとしていた魔法を動揺している隙に全て炸裂させて無効化する。

そのまま翼を大きく広げて、ヒヒイロカネを赤黒く煌めく二本のマチェットに変形させて静かに告げる。


「交代だ。ミドガルズオルム、魔法を許可する。

お前に与えたリソースを全て使い切るまで放て」

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