リアルストーリー

岩田へいきち

第1話 芽衣子さん

「お疲れ様でした」


突然、道路の脇から女性の声がした。


――可愛い。誰だ、この可愛い子は?


進には久々の感覚であったが、その可愛さが胸を撃ち抜いた。

看護助手の芽衣子であった。


――ああ、芽衣子さんかぁ。芽衣子さんってこんなに若かったのか。なんだよ、その可愛さは、完全に反則じゃないか。


 進は今年で46歳、6年前に脳卒中を患い、2年前からここの整形外科に週2回、仕事帰りの夕方、リハビリをする為に毎週通っていた。

 今日は、特別に土曜日のリハビリを行なって昼で帰るところである。芽衣子も昼で仕事を終え、普段着に着替えて帰る前だったのだろう。いつもは、看護服とマスク姿で、顔も忘れていたのであるが元々可愛かったということを思い出した。

 芽衣子はこの病院で5ヶ月前から働き始めた。初めて挨拶してもらった時はマスクをしておらず、美人で可愛いという印象を持った。しかし、その後はずっとマスクを付けていたためとても美人だということを忘れていたのである。


進は若い子とは誰でも仲良くなりたいと望んでいたので、当然、芽衣子が進の担当をする度にあの手この手を使って携帯番号やメールアドレスを聞き出そうと話かけた。 しかし、スポーツ、音楽、芸術、グルメ、どれで攻めてもいっこうに共通点は見つからず、芽衣子もうまくかわすので聞き出すきっかけを掴めずに5ヶ月が経っていた。


  芽衣子は2歳と3歳の2人の男の子を持つ31歳バツイチである。離婚してまだ間もないということであったがTシャツを着ている今日の姿はとても2人の子持ちとは思えない20代の若者そのものだった。


――どうしよう、惚れたかも?


 進は心に熱いものを感じたが彼女はふたりの子持ちである。妻子ある自分にはどうにもならいないと諭し、一旦は諦めた。


 しかし、その後も進は機会ある度に芽衣子に話しかけ、仲良くなって離婚の原因など立ち入ったことまで隠さず教えてもらっていたが話が盛り上がるのは決まって子育てのことだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る