パーティー結成?


 朝、ドアをノックされる音で目が覚めた。

「起きてますか?コウイチさん」


 ドアの向こうから小さな女の子の声が聞こえる。一瞬誰かと思ったが寝ぼけた頭でクゥの事を思い出し、昨日の疲れからか重たい体を起こしながら返事をする。

「ああ、おはようクゥ。すぐ出るからちょっと待って」

 手早く着替えを済ませてドアを開ける。


「ごめんごめん、なんか疲れちゃってたみたいで、ぐっすり寝ちゃってたよ」

 そういえば、朝の鍛錬に起きれないほど寝たのは初めてかもしれない。


「それ多分私の支援魔法のせいかもです」

 クゥは支援魔法は身体能力などを向上させて、その人の持つ以上の力を出せるようになる代わりに体にはそれ相応の負担がかかる為、疲労したのだろうと説明してくれた。


「なるほどなぁ、まぁ流石になんのリスクも無く強くなるなんてズルみたいなもんだもんな」

 バフ系のスキルってゲームとかじゃノーリスクでただ強くなるもんだと思ってたけど、現実で考えたらそりゃそうなるよなと一人で納得する。


「お疲れでしたら、私一人で行ってきますよ?ギルドへの道も覚えましたし」

「いや、大丈夫だよ。寝たらスッキリしたし、まだクゥの呪いが完全に消えてるわけじゃないから心配だし」

「ありがとうございます」


 クゥの幸の薄そうな感じを見てると保護欲というか、父性というか、そういう感情が湧いてくる。妹とか娘とかがいたらこんな感じなのかなぁ。俺には姉貴しかいなかったから分からんが。


「とりあえず下で飯食べてからギルドに行こう」

「はい!」


 一階に下りてサルビアがいたらシズク草の説明をどうしようか考えていたが、今は来ていないらしかった。


「あ、ロリコンの誘拐犯が起きてきた」

 疑いの目を向けながら話しかけてくるシャロット。

「だから違うって昨日説明したじゃん!」

「クゥちゃんいい?もし変なことされそうになったら叫んで助けを求めるのよ?」

 シャロットは心配そうにクゥを優しく抱きしめる。

「しねーよそんな事!」

 

 俺がロリコンって噂が立ったらどうしてくれるんだ。ただでさえ探索者仲間の奴らからも変な奴だと思われてんのに。

「もういいから、朝ごはん二人分くれ」

 やや諦め気味にシャロットに話す。

「はいはい。テキトーなとこ座って待っててー」


 俺とクゥは手近なテーブルに着き食事を待つ。

「クゥ。シャロットの言うことは間に受けるなよ?」

「はい。コウイチさんはそんな事しない人だと分かってますから」

 優しく微笑んでくれるクゥ。俺のこと信用し過ぎで逆に心配になるな。俺が神様にクズ認定されて、更生の為に生きているとは口が裂けても言えん。


 などと考えているとシャロットが食事を持ってきてくれる。

「はいお待ちどうさま」

「サンキュー」

「ありがとうございます」


 二人で食事を始めると空いているテーブルの席にシャロットが座り話し始める。

「ねぇねぇ、クゥちゃんはエルフの里から出てきたんでしょ?お仕事はどうするの?」

 また藪から棒に聞くなぁ。

「そうですねぇ。まずは私にかかっている呪いをなんとかしないとですけど…もし解呪できたら、コウイチさんにシズク草の代金も払いたいので働ければなんでもいいですね」

 もぐもぐと食事を口にしながら返事をするクゥ。


「おいクゥ、だから気にすることないって言っただろ?俺の勝手で助けただけなんだから礼なんていらないよ」

 俺がそう言いながらスープを啜ると、隣のシャロットがにやけた顔で、

「まーたかっこつけちゃってコウイチったら。あんた、そんなこと言って探索者の仕事でほぼその日暮らしのくせに」

「ねぇなんでそんなこと言うの?かっこぐらいつけさせてくれよ」

 ちょっとかっこいいとこ見せようとしてる男がいるのに台無しだよ。

 

 俺とシャロットが言い合っていると、突然シャロットがクゥに向き直って、

「じゃあさ、クゥちゃんも探索者になりなよ。コウイチに聞いたけど支援魔法使えるんでしょ?絶対将来有望だよ!クゥちゃんかわいいし男共に守ってもらいながら安全に働けるって!」

 目を輝かせながらクゥに詰め寄る。

「またすぐ人を探索者にしようとするな!大体こんな小さい子が探索者なんて危ないだろうが!クゥ、相手にしなくていいぞ。シャロットは探索者に変な憧れを抱いている変な人だから…」

 そう言いながらクゥの方を見ると。


「探索者…確かに…それはそれでありかもですね」

 と、顎に手をかけながらぶつぶつと呟いている。


 本気にしないでくれよ。

「もうこの話はおしまい!ほら、ギルド行くぞ」

 立ち上がりながらクゥに呼びかける。

「あ、はい。そうですね」

「シャロットもサボってないで働けよ」

 シャロットに捨て台詞を吐きながらコルト亭を出る。後ろから何やらうるさい声が聞こえるが気にしないでおこう。




 ギルドに着くとロゼルさんの受付が空いていたのですぐに話ができた。

「お二人ともおはようございます。昨日は取り乱してしまってすいません」

 いつものように優しく微笑みながら挨拶をするロゼルさん。

「おはようございます」

「クゥさんの話の真偽は確認できました。そのことでギルドマスターからもお話があるそうなので、こちらへどうぞ」

 そう言って受付の奥の職員スペースに招かれる。


 案内されるままロゼルさんについて行くと一つの部屋の前で止められる。


「それではギルドマスターの部屋に入りますが、コウイチさん」

 突然俺の方を向き直るロゼルさん。

「はい?」

「くれぐれも失礼のないようにしてくださいね?」

 顔は優しい笑顔を浮かべているが、明らかに圧を感じる言い方をされる。

「はぁ、まぁあっちが失礼じゃなければこっちから失礼なことはしませんよ」

「それがダメなんですよ!」

「コウイチさん、ギルドマスターさんと仲が悪いんですか?」

 クゥが心配そうに聞いてくる。


「そうなんだよ。ここのギルドマスター、やな婆さんでさぁ」

 俺はどうもギルドマスターのブランと相性が悪いらしい。ほぼ無理矢理探索者として働かされているし、文句しかないから仕方がないことだが。

「はぁ、もう知りませんからね?」

 ロゼルはもう観念したのかドアをノックして開ける。



 ギルドマスターの部屋は壁に本棚が並べられており、入り口から奥にある窓の前の机には、書類が山のようにつまれており、そこに座り片眼鏡の奥から覗く鋭い目で俺を睨むブランがそこにはいた。

「やな婆さんで悪かったね」


 聞かれてるじゃん。壁薄すぎるんじゃないの?そんな俺の隣ではクゥが小動物のように小さくなっていた。

「まぁいいさね、そこ座んな」

 ブランは自分の机の前にある長机とソファを指差す。


「で?わざわざ部屋まで呼び出してなんですか?」

 俺はソファに腰かけながら質問する。隣にはクゥが何も言わずに座った。


「その子がジャック山で最近問題になってた魔獣の正体だってことは調べて確認済みさ。ほんとは大々的にクエストにして討伐隊を組もうかとしてたんだが、あんたが解決してくれたおかげでその必要がなくなったから感謝してやろうって訳さ」

「どう考えても感謝する側の態度じゃねーじゃん」


 俺のツッコミに焦ったようで俺を睨むロゼルさん。


「かっかっか、言葉だけの感謝なんてあんたもいらないだろう?だから特別報酬をくれてやるって言ってんだよ」

 高笑いをしながら話すブラン。


 それにしても特別報酬って言った?なんていい響きの言葉だろう。

「マジで?サンキュー婆ちゃん」

「誰が婆ちゃんだい!あたしゃまだ若いわ!」

 そう言いながらブランは机の引き出しから何かを取り出す。


「こいつが特別報酬さね」

 何かをロゼルさんに渡して俺の所に持って来させる。渡されたものは何やら呪文のような文字が書かれた紙だった。

「なにこれ?」

 俺がぽかんとして渡された紙を見ていると横にいるクゥが、

「あっ」

 と声を出す。


「うちのギルドはそんなに裕福じゃないから現物で支給させてもらうことにしたよ。そいつが解呪の札さ、その子に使ってやんな」

「おお!マジか!?これが解呪の札なのか。どうやって使うんだ?」

「その子に紙を付けるだけで発動するよ」

 

 言われるままクゥに解呪の札を触れさせてみる。解呪の札はクゥに触れた途端、光を放ち消え去ってしまった。


「どうだ?クゥ、呪いは消えたか?」

 クゥはまた目をつぶって少し待つと、

「はい!完全に消えてます!」


「おー!良かったなクゥ。それにして婆ちゃん、これって教会で買ったら結構な値段するんじゃねーの?」


 俺とクゥが呪いが消えたことに喜んでいるとブランがにっこりと笑って、

「よく知ってるじゃないか。そうだよ解呪の札は高価なものだよ」

 この婆さんが笑ってる所初めて見たかも。



 なんか嫌な予感がする。



「今回の特別報酬じゃ



「はい?足りないってなに?」

 俺はしらばっくれようと思い聞くと、ブランは気味の悪い笑顔を崩さず続ける。


「だから足りない分は働いて返してもらうことにしたのさ。あんたら二人にね」

 そう言って俺とクゥの二人を指差すブラン。



「はぁ!?」

「はい!?」

 俺とクゥはほぼ同時に驚きの声を上げた。そんな俺たちを無視してブランは話し続ける。


「聞くと小さい方のあんた。クゥって言ったっけかい?あんた支援魔法が使えるらしいじゃないか。ちょうどいいからコウイチとパーティー組んで探索者やりな」

「おいババア!何言い出すかと思えばめちゃくちゃ横暴じゃねーか」

「ギルドマスターが横暴して何が悪いんだい!?」


 このババア開き直りやがった…。その頃ロゼルさんはというと、もう色々諦めたのか部屋の隅で自分はいないもののように息を潜めている。


「大体その子のおかげで新人の探索者たちがしばらくジャック山に行けなくて商売あがったりだったんだよ?本来なら騎士団にでも突き出してもやってもいい所を肉体労働で許してやるって言ってんだから感謝しな!」

 

 このままでは俺が探索者にされた時の二の舞だ。クゥに探索者なんて危ない仕事をさせるわけには…

「だったら俺が働いて足りない分を払えばいいだろうが!わざわざこんな小さい子を探索者なんかにさせなくてもいいだろ!」


 俺の抗議にブランは鼻を鳴らしながら、

「あんたその子の保護者でもなんでもないんだから黙ってな。クゥ、あんたはどうなんだい?」

 クゥの方に目を向けるブラン。



 クゥは自分に注目が集まったので少し動転したようだが、深呼吸をすると、


「私…探索者やります!いえ、やらせてください!」


「よし、決まりだね!じゃあロゼルに着いて行って測定してもらってきな。特別に測定の代金はまけてやるよ」

 ブランはそれだけ言って手を一回叩くと、俺とクゥを部屋の外に追い出した。





 こうして半ば強制的にクゥは探索者にされ、俺とパーティーを組むこととなった。

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