第3話 ひとやすみ
AとBとを配置する。
同じ考えを持つことは、同盟を組むのには必要だが退屈だから。
参ります。
A『天上天下唯我独尊とは自分という存在は他にはいない、たった一つの大切なもの、という意味だ』
B『この広い宇宙でたった一つの存在がなぜ大切か? そんな塵芥は滅んだってかまわない』
A『宇宙を構成する存在が、塵芥であろうとも、なくなっていいはずがない。なければ宇宙は成り立たないのだ』
B『大宇宙は絶えず変化している。その変化についてゆけないような塵芥が消えてその宇宙ひとつが消えたところで次の新しい宇宙がとってかわるだけであり、大宇宙にとってはささいなことだ』
A『では仮に消えた宇宙の中にどれだけ貴重な輝きが存在していたか。塵芥のひとつが姿を消したことで、それらの輝き全てが消えることになるのでは大変な損害といえる』
B『宇宙の価値、無価値を決めるのは人であり、人でないならば宇宙の価値は論ずることができない。すなわち大宇宙にとってはその他の宇宙は無価値』
A『宇宙が人を産んだのだ。人が宇宙を産んだのではない。宇宙にとって人は資源であり財産なのだ』
B『資源も財産も用いるのは人自身であり、宇宙は関知しない』
A『人が人を尊ばず、資源や財産を食いつぶせば、宇宙はそれだけ衰退するだろう。だから人はまず一番に己という資源を大切にし、財産と思わねばならない』
B『地球が滅びる日がくるとしたら、それは人のせいかもしれませんよ』
A『それでも人は自分自身を尊ばねばならない』
B『地球が滅んだら自分も他人も滅ぶわけですが』
A『だからSDGsなわけですよ。自分を滅さぬように地球環境をできるだけ長久に、自分たちにとって居心地よく整え、生きながらえましょうという』
B『ご自分につごうのよい解釈ですな。それは人のわがままからきている』
A『わがままでも自分を大切にせねば滅びるから』
B『自己防衛とでも言うおつもりか?』
A『天上天下唯我独尊という言葉は生老病死という厳しい世の中にあって、それでも生きてゆかねばならない状況から生まれた言葉なのだと推察する。ならば自己防衛も生きるためには必要』
B『生きるためと思えば良心の呵責もなしに悪事を働くのが人という生き物。そんなものに生きる価値などない』
A『そういった悪事を働くのには下地に貧しさがある。貧しさは人の生をおびやかす。充分考えられることだ』
B『貧しさを理由に悪事を働くものが大半と仮定すると、残りの悪事を働かないものがその悪事によって貧しさに追いやられ、結果として悪事を働かずにすんでいたものたちが滅びるとしたら、自分だけを尊ぼうというその気持ちはすなわち悪を生む大悪事そのものだ』
A『その仮定そのものが間違っているのであって、そもそも人は悪事を働かずに生きることはできない。なぜなら人は最も貧しく無力なる赤ん坊としてうまれおちるからだ。糞尿を垂れ流し、腹が減ったとあれば夜中でも泣き散らし、保護者を悩ませる。だが赤児は他に自力で生きられぬ無力さをまとっている。貧しいから奪うのだ』
B『保護者によって乳を与えられ、世話をされている赤ん坊は無力ではあっても貧しくはない。天上天下唯我独尊などと言わずに、貧しいものにはすすんで与えればいいではないか。与えることで貧しさがなくなれば、人は悪事を働かないのであろうから』
A『赤子にはむしろそれが望ましいが、世の中には別の悪も存在するから、自己防衛としてまずその悪徳から遠ざからねばならない。でないといつのまにか自分も悪徳に染まってしまう』
B『何が悪で、なにが徳なのかは時代によっても変化する。そんなアテにならないものなのだ』
A『その通りだよ。人は何が悪くて身を滅ぼすかというと、徳を知らないということだ。だから教育が大切なのだ』
B『SDGsは宗教なのか?』
眠たい!
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