第30話 知らない精霊

 精霊運動会の結果は、2年生クラスの惜敗だった。


 3年生クラスは、スタート時間を遅らせたり、借り物競争でレアドロップアイテムの指定等のハンデキャップはあったらしい。でも、やっぱり、棄権者のマイナスが大きかった。


 イザベラを責める声も初めはあったけど、契約精霊が亡くなったことを知った後は、誰も何も言わなくなった。みんな、精霊とは良好な関係を築いているようで、精霊の死にショックを受けていた。


 あの時、遅れて教室に戻った私に、心配そうにブルレッドさんとスノウさんが走り寄って来た。何も説明をする気にならなくて、ただ、イザベラの契約精霊にトラブルがあって、イザベラは保健室に行ったとだけ伝えた。暗い雰囲気に包まれる中、バトラール先生がやって来て精霊運動会の閉会を告げた。


「じゃあな。あんまり気を落とすなよ」


 ワープゲートで学校に戻った後、そう言ってロイは私の首にハチマキをかけて帰った。

 ヒョウ柄になってしまった私のハチマキ……。


 ブルレッドさんに、保健室にイザベラを見舞いに行こうと誘われたけど、それを断って寮の部屋に帰ってきた。

 もう疲れ切ってて、早く一人になってシャワーを浴びて寝たかった。


 って、この服、絶対、クモの巣とかスライムの残骸とかついてるよね。今すぐに脱ぎたい。すぐに洗わなきゃ、もう気持ち悪くて着れない。

 ものすっごく疲れてるのに、やることがいっぱいある。もうっ!


 ため息をつきながら玄関のドアを開け、リビングに行くと、明かりがついていた。


 え?

 シャルと、……知らない精霊。


「おかえり。遅かったね」


 上質そうな白いセーターを着て、ソファーでゆっくりくつろぐ金髪の精霊の後ろに、黒白の混ざった髪を逆立てた美中年と大きな獣耳の美少年が立っていた。


「ああ、僕の側近のマッケンジーとリノだよ。今日はカナデに紹介したくて連れてきたんだ」


「マッケンジーと申します。我が君の聖女とあれば、私の主も同然。何なりとお申しつけください」


「リノだ。オレは、お前を認めてないからな」


 ああ、もう。めんどくさいの来た。一人で休みたかったのに。

 もう、もうっ。もう!

 私が、不機嫌なのに気づいたのか、シャルはすぐに二人の精霊を転移させた。


「何かあった? ごめんね。疲れてるんだね」


 ああ、もうなんで、そんなに優しいこと言うの。目の前に、霞がかかる。ダメだ、私、泣きすぎ。


「別に、ただ疲れただけ」

 素っ気なく言ってシャルに背を向けてローブを脱いだ。


 そういえば、朝は忙しくて、パジャマをリビングに脱ぎっぱなしだった。コーヒーカップも洗わずに、テーブルに置きっぱなしにしてた。

 でも、誰の仕業かパジャマはきれいに畳まれて、椅子の上に置かれている。コーヒーカップも見当たらない。

 もうっ。


 疲れて帰ってきたら、知らない男の人が家にいて、しかも、散らかっただらしない部屋を見られて、……最悪。

 ああ、もうっ。


「ごめん。シャル。悪いけど、今日は疲れたから帰って」


 言ってからすぐに後悔したけど、振り向いた時には、金色の精霊は姿を消していた。


 ああ、本当に、最悪の1日。

 すぐに座り込んで眠ってしまいたかったけど、シャワーを浴びる前に、思い直して部屋から出ることにした。向かう先は、管理人室。シリイさんにいろいろ聞いてほしかった。


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