第8話 魔王もいるんですか?

「魔物というのは、主に魔力によって自然発生的に出現する、凶悪な生物たちのことだ。その危険性から、全部で七つの危険度に分類されている」


 バルステ王国の王宮。

 異世界から召喚されたばかりの勇者たちが、そこでこの世界の常識を教わっていた。


 彼らはこの世界のことをまったく知らない。

 そのため最初に必ずこうした講義を受けることになっているのだ。


「S級、特A級、A級、B級、C級、D級、E級。このうち幸いにも、S級は現在この世界に存在しておらず、特A級が最高レベルとなっている。しかしこの特A級ですら、国家を単体で滅亡させるほどの凶悪な存在だ。それが今、全部で五体確認されていて、ぜひとも諸君ら勇者たちにその討伐を期待したい。もし成功すれば、英雄として永遠に語り継がれることになるだろう」


 さらに講師が語るには。


 特A級の魔物は、単体で大都市を壊滅させ得る力を持つ。

 A級の魔物は、単体で中規模の都市を陥落させ得る力を持つ。

 B級の魔物は、単体で小規模の都市を滅ぼし得る力を持つ。

 C級の魔物は、単体で村や集落を全滅させ得る力を持つ。


「D級やE級となると、それなりの訓練を積んだ兵士であれば、単独でも十分に討伐することが可能だ。諸君ら勇者の敵ではないだろう」


 とそこで、勇者の一人が手を上げた。

 普段から授業でも積極的な男子生徒が、講師に問う。


「この世界にはやっぱり魔王もいるんですか?」


 勇者がいるなら、魔王もいるのではないか。

 それは勇者たちの多くが抱いていた疑問だった。


 すると講師はやや神妙な顔つきになって、


「そうだな……歴史上、魔王と呼ばれていた存在が、一体だけいる」

「一体だけ、ですか?」

「ああ、そうだ。そしてその魔王こそが、唯一S級に認定されたことのある魔物だ。……厳密には魔物というわけではないが」


 今から五百年前のこと。

 魔王によって滅亡の危機に瀕した人類は、決死の思いで異世界から勇者を召喚する魔法を発明する。


 呼び出された勇者たちが力を合わせ、ついに魔王は討伐された。

 そして実はこの出来事こそが、現在まで続く勇者召喚の起源なのだという。


「しかし魔王単体は、それほど強力な存在ではなかった。一説には、せいぜいA級程度でしかなかったとすら言われている」

「そうなんですね。じゃあ、なぜS級に?」


 その問いに、講師は少し頬を引き攣らせながら、ゆっくりと告げたのだった。


「……魔王が恐ろしかったのは、魔王が率いるその圧倒的な勢力だ。なにせ魔王は、そこで凶悪な魔物を無限に作り出し、己の意のままに操ることができたのだ」



     ◇ ◇ ◇



 どうやら俺とアンゴラージたちは、ダンジョンの外に自由に出入りできるらしい。


「じゃあ、あたしは?」

眷属は外に出られません』

「何であたしだけ!?」


 アズが泣き崩れる。

 ちなみに外に出ることができないアズだが、その代わり食事や排泄も必要ないらしい。


「それはそれで便利だな」

「ダンジョンマスターとして生み出された際に、特別な身体になったのよ」


 立ち上がったアズが、自慢げに胸を張った。


「結局ダンジョンマスターにはなれなかったけどな」

「あんたのせいせね!?」


 今度は激昂するアズ。

 さっきから泣いたり怒ったり忙しいやつである。


 その後、俺は外に出る際、試しにアンゴラージを一匹連れていってみた。

 本当に外に出られるのか確かめたかったからなのだが、システムの言う通り、すんなりと出入り口を通り抜けることができたのだった。


「ということは、戦うことはできなくても、外の魔物をダンジョンまで誘き寄せることならできるってことだな」

「ぷぅ?」

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