おつまみを求めて


 うーむ……今日はどれにしようか…。

 貼り出される依頼が多いってのも考えものだな。悩みに悩みまくって時間だけが過ぎちまう。討伐もいいし、納品関連の依頼もおいしいんだが……うーむ。



「ほんと、秋は贅沢な季節だぜ……」


「悩むのはいいですが、何時間も掲示板の前を占拠するのはどうかと思います。はっきり言って、邪魔ですね」


「ひどいっ!……あ、すんません。どうぞどうぞ、好きな依頼書をお取りくださいってね」



 後ろ振り返ったら、数人が目を細めて掲示板をなんとか見ようと頑張ってたわ。いや、それなら退いてくれの一言くらい掛けてくれよ……まぁ、掲示板に張り付いてる俺がいえたことじゃないけどよ。



「うーむ……なんで、あいつらはサッと依頼を決められるのかね……俺が優柔不断なだけなのか…?うーむ」


「彼らは近場かつ報酬が良いのを選んでいますから。レオンさんのように楽なもの、興味が引かれるものといった基準では無いだけですね」


「うぐっ……まるで俺が仕事を選り好みしてるような言い方じゃねぇか、ソフィア嬢よ…」


「ようなもなにも、してますからね。いっそのこと、常設でいいんじゃないですか?」


「それは勿体ないんだよなぁ……採集依頼もたくさん貼られてるわけだしよ」


「……はぁ…秋はとことんダメになりますよね、レオンさんは」


「ダメってなんだよ、ダメって……」



 でも、ソフィア嬢の言いたいことはわかる。酷い時なんかは、悩むだけで日が暮れ始めることだってあるからな。挙句の果てに、気になる依頼を片っ端から受けて、結果時間が足りず失敗することもあったなぁ。

 我ながら、ポンコツである。実際、ルーチンを作らないとそうなるのが俺なんよな。この季節ばかりは十年経っても行動が定まらん。



「うーむ……このままじゃ玉ねぎ剣士みたいに悩み続けそうだ……だがなぁ、どの依頼も魅力的なんだよなぁ…いっそのこと、全部――」


「それだけはやめてください。去年も幾つか失敗していたでしょう。一昨年はうまくいったからと調子に乗った結果が昨年時の失敗なのですから、学習してください」


「ぐはっ……何年経っても変わらない鋭さ…効いたぜ」


「私の言葉が刺さるのは図星だからでしょう?何年も経ってるんですから、効かないように変わってくださいね」


「くっ……よし、こうなったら目を瞑って――」


「あれー?おっさんじゃんっ!おひさ~っ」


「げっ、レイラ……」


「こんな時間に何してるのさ?もう昼は過ぎてるよねっ?」


「そ、それはだな…」


「レオンさんは、朝からずっと掲示板で悩み続けています。護衛以外の残った依頼書を全て取ろうとする暴挙に出る程度には、迷ってますね」


「ええっ!……おバカさんじゃん…」


「バカって言うな、バカって……せめて、アホにしやがれ」


「あ、うん。自覚はあるんだね……そうだっ!じゃあさ、せっかくだしボクと一緒に採集の依頼受けない?」


「採集?……お前さんが?」



 全くイメージが湧かないんだが……こいつが鎌とか鉈持ってチマチマと採集に励んでる姿が想像できんぞ。というか、そもそも採取可能な植物の知識があるのか?



「なんすかー?そんな目で見つめてくれちゃってさっ……ボクだって有名な薬草類や木の実くらいは集められるんだからねっ!」


「へー……で、なんの依頼を受けるつもりなんだ?」


「んふふー、それはねぇ……カスクスピーナの納品依頼だよ!ほら、これっ。この依頼書!」


 

 あぁ、カスクスピーナか……分類としては植物系魔物にあたる生物で、この季節になると木の実がなる。普段は魔物じゃない木と同様に、動くことはないし魔法を使うこともないんだが……危険度は星三つ。

 というのも、この木の実が厄介でな。ほっそい棘が無数に生えた殻で覆われていて、中の種に危険が迫っていると感知したらトゲを風魔法で飛ばしてくるんだわ。これが痛いのなんの……革鎧に突き刺さるくらいには危険なのよ。

 とはいえ、飛んだ棘が戻ってきたり、すぐに再生するってことはないんで、一度飛ばしてしまえば採るのは簡単だ。


 この季節だと、カスクスピーナの木の実が地面にたくさん落ちてるんで見つけるのは難しくない。ちょっと、森の奥の方に行かなきゃいけないけどな。

 


「なるほど…採集依頼って、そういうこと……結局魔物じゃねぇか!」


「魔物でも植物なんだから採集依頼で合ってるもーん!どうどう?行かないっ?」


「んー……まぁ、いいぜ。今年はまだ秋の味覚らしいのを口にしてなかったしな」


「おー!ボクも今日の晩酌のつまみにしようと思ってこの依頼を受けたんだよねー。どうせならおっさんも仕事終わりにさ、一緒にこう…グイッ、て!どうかなっ?」


「……じゃあ、ちょっとだけご同伴に預かりますかね」


「やったー!いやぁ、久しぶりだなぁ!リオ以外と飲むのっ。よぉーし、いっぱい採るぞー!」



 カスクスピーナ……棘のある堅い殻を割ると、部屋割りされたかのようにして収まった複数の果実が現れる。ツヤツヤした焦げ茶色の果実が。

 さらに、艶々の部分を剥いて現れた薄皮のようなのも剥いでいくと、黄色っぽい白色をした中身が伺える。


 これは、果実というよりは種に相当するんだが……そこが甘くて美味しいんだわ。

 


―――うん、まぁ……ほぼ、"栗"…だな。





―――◇◆◇―――


【カスクスピーナ】

分類:植物系魔物(中型~大型)

危険度:☆☆☆

[主な特徴]

中高木の落葉樹の特徴を持つ、植物の魔物。秋頃になる果実は棘のついた堅い殻で覆われている。

なお、接近する魔力を感知すると風魔法を用いて殻の棘を周囲に拡散する。

その性質から、果実がカスクスピーナの周辺に多数落ちたとき、樹木そのものを棘で傷つけ枯らしてしまうことがある。

 



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