第11話、お嬢様は、再び街でおうわさでもちきりになられるご様子でございます。

 シズク様の店にお嬢様がお向かいになられました。

 先回りして、店の中で待つのでございます。



 シズクは店の入口に背を向けて棚の在庫を確認していた。

「ん?」

 今、入口の扉は開いたような?

 振り向いた。

「おっ」

 シズクは店の窓ガラス越しの通りに”クロス”を見つけた。

 上機嫌そうにこちらにむかって来る。

「無事、隣町まで行けたようだね」


 シュン


 突然目の前に、金髪爆乳クノイチメイドが現れた。


「うわっ」

「ス、ステルス迷彩?」

 ここは店の中だ。

 ステルス迷彩は姿だけしか消えない。

 当然店に入るときは扉を開けないと入れない。


「ど、どうやって(店の中に入ってきたんだい)」


「うふふふ」

 マリアージュがゆっくりと振り向きシズクに微笑みかけた。


「……いらっしゃい……」

 シズクはひきつった笑みを浮かべた。


「お邪魔するでございます」

 マリアージュが頭を下げた。



 私(わたくし)は、シズクさんの店に入った。


「ごきげんよう、シズクさん、マリアさん」

 頭を下げる。

 丁度良く二人がいた。

「おかげさまで、ウサギを倒して隣町に行けましたわ」

「ありがとうございましたわっ」


「いやあよかったよ、”クロス”嬢」

 シズクさんが私(わたくし)を新しい呼び方で呼んだ。


「おめでとうございます」

「……”クロス”お嬢様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 マリアが控えめに聞いてくる。

 もじもじと上目遣いだ。

 耳は少し尖り、口元はマフラーで隠され素顔は見えない。


「え、ええ、結構ですわ、マリアさん、不思議ですわね」

「貴方に、お嬢様と呼ばれることに全く違和感を感じませんわっ」


「おほほほ」


「うふふふ」


 二人が笑い合った。


「しかし、”クロス”お嬢様、うさぎ耳がよくお似合いでございますね」

「素晴らしいでございます」 

 マリアージュが言った。


「そ、そうかしら?」

 武骨で重厚な”鈍竜”の頭にうさぎ耳。

 ? 似合うのかしら? 


「えっ」

 シズクが変な声を出す。 


「そうでございますとも」 

「凛々しいかっこよさの中に、可愛さが光り輝いております」

 マリアージュが大きくうなずいた。


「いや、それは、ちょっと」

「どちらかというと奇妙な光景なのだが」

 シズクが小さな声でつぶやいた。

 二人には聞こえなかったけれども。


「そっ、そうかしら⤴」

 声が上ずった。

 べた褒めですわ。

 ポッ

 少し顔が赤くなってきましたわ。

 もじもじする”鈍竜”。 

 

「……そ、そうだ、MAの調子を見てやろうか?」

「”鈍竜”を脱いでくれ」

 身長180センチの黒くて重厚なMAの上にゆれる、真っ白いウサギの耳に耐え切れなくなった、シズクが、”クロス”から”鈍竜”を脱がそうとする。

 

「そうですわね」

「わかりましたわ」

 MAを脱いだ。

 普段着用の白いワンピース姿に変わる。


「うっ」

「お、お嬢様」

 二人はMAを脱いだ”クロス”に見惚れた。


 ウサギの耳を頭につけた清楚可憐な美人が立っていた。

 175センチの身長。

 凛とした表情に、頭に白くてふわふわのウサギの耳がゆれる。


「?」

「前と同じように、少し街を歩いてからログアウトしますわ」


 店から出て行く。


「お、お嬢様、そのお姿で街を歩かれるとお」


 店の外からざわめきが聞こえてきたのである。 



 ああ、櫻子(さくらこ)お嬢様の可愛いお姿を衆目にさらしてしまいました。

 また、街中のおうわさになっているのでございます。

 

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