第1話 旅立ち
春になり、私は2歳と4ヶ月になった。
巡回神父さんが来たら、一緒にアルカディアに行く。
サリーも行くから、少しだけ心強い。
「いつ神父さんが来られても良いように、やる事だけはしておこう!」
やヨハン爺さんは森歩きを辞めたので、タンダ爺さんが引き継いだ。
タンダ爺さんは、本当は爺さんと呼ぶほどの年寄りではない。狩りで右腕を負傷してから、前ほど弓の命中率が保てなくなったそうだ。
とはいえ、
それで、村長さんがタンダ爺さんを指名したのだ。
ミラとバリーは、もう少しタンダ爺さんと森歩きをするけど、今日は休ませて、畑仕事のノウハウを教えるよ。
「芋が一番簡単だけど、それでも、同じ物ばかり植えていると出来が悪くなるわ。時々、他の物も植えてね」
ミラとバリーに、芋を植えさせながら教える。
「お姉ちゃんは、アルカディアに行くの?」
1つ年下のミラは、私と双子に見えるほど、背が伸びている。
「ええ、薬師になりたいから」
バリーは、私とミラの兄に見えるほど背が高くなった。
「薬師になったら、村に帰ってくる?」
見かけは12歳ぐらいなのに、まだ0歳だから、甘えん坊だ。
ヨシヨシしておこう。背が高いから、やりにくいな!
「それはわからないわ。この村で薬師として生活できるかどうか、知らないから」
村には薬師はいない。狩りで怪我をする事も多いから、いると良いのだろうけど、普段の生活はどうするのか? 養って貰うの?
「ママが、お姉ちゃんは、ニューエバー村に住むと良いと言っていたわ」
ミラは、冬に私がママとニューエバー村に行くと知った時、一緒に行きたいと駄々を捏ねたから、よく覚えているね。
「それも分からないわ。薬師がどんな仕事なのかも、よく分からないのよ」
前世の薬剤師さんにはお世話になったけど、この世界の薬師が何をしているのかは、会った事もないから知らないのだ。
「ふうん? 変なの!」
ミラは、もう森歩きしながら、弓の稽古をしている。
「そうね! でも、知らない事を学ぶのは楽しみだわ」
ミラとバリーは首を竦めた。
私から、文字や計算を学ぶのは、嫌だったのだろう。
芋を植えて、少し成長させて、畑仕事はお終いだ。
「私がいなくなったら、芋は夏まで採れないわ。少しずつ食べるのよ」
注意しておく。
「早く狩りに行きたいわ!」
食べ盛りの双子を養うのは、ママとパパも大変だろう。
「木苺を植えておくから、それを採って食べても良いし、半分は干して冬に食べるのよ」
この2人なら、屋根の上の木苺も簡単に採れるだろう。
「いつ、神父さんは来られるのかしら?」
サリーもすぐに村から出たいわけではない。ただ、中途半端な立場が嫌なのだ。
「春になったら来られるのだけど……」
本当に、いつから春か、カレンダーも無いから分からない。
「ミクは、薬師になったら村に帰るつもりなの?」
ああ、それは分からない。
「ママは、ニューエバー村に住めば良いと言っていたけど、分からないわ」
サリーも溜息をつく。
「うちのママもニューエバー村なら魔法使いでも暮らせるって言うけど、無理だと思うわ」
だよね! 基本的に狩人の村なのだ。まぁ、うちの村よりは、家畜や小麦がある分、過ごしやすいかも?
「確かに、魔法使いって何をするのか分からないわね」
サリーは、大きく頷く。
「そうなのよ! 魔法使いがニューエバー村で、洗濯物を乾かすだけで生きていけるの? まだ、ミクの方が役に立ちそうだわ」
まぁね! でも、小麦畑の番人もあまり気をそそられないんだよね。
「ねぇ、サリーは人間の町に行きたくない?」
折角、転生したんだもん! あちこち見て歩きたい。
旅行もしたことなかったんだ。都会の大病院に行くのは、旅行とは違うからね!
「ミクもそう思っていたのね! 私は、初めから人間の魔法使いの所で修行したいと考えたのは、森ではない所を見て歩きたかったの」
2人で手を取り合って喜んでいたけど、ママ達に現実に戻された。
「その前に薬師にならなくてはね!」
「立派な魔法使いになってからだよ!」
はぁ、そのための修行だけど、神父さん待ちに飽きていた。
だって、冬からずっと待っているんだもん。
なんて話し合っていた翌日、神父さんがやって来た。
今年も、子どもの洗礼がある。
「ミク、忘れ物はない?」
「ママ、神父さんが出発するのは明日だよ!」
とは言ったけど、私も背負い籠の中を出して、もう一度チェックする。
着替えの服、下着、種、それとガラス瓶、ナイフ、まな板と水筒!
忘れ物なんてない程、シンプル!
「明日の朝から、隣りのラング村に行くなら、お昼が必要ね!」
アルカディアは森の奥深くにある。
狩人の村よりも、ずっと深い場所だ。
明日は、アルカディアに行く途中にあるラング村に泊まって、神父さんは洗礼を施す。
つまり、アルカディアに着くのは、明後日だね! なんて考えていたけど、これは
前の日、お風呂に入って、もう洗礼は終わっただろうとサリーと村長さんの家に行ったら、のんびりとお茶を飲んでいる。
「おや、サリーとミク。出発は明日だよ」
荷物を背負っている私達に微笑んでいる神父さん!
それなら、そうと言って欲しかった。
昨夜は、ママとパパとミラとバリーと抱き合って別れの言葉を交わし、泣いたんだよ!
何となく格好悪いけど、出発は次の日になった。
「今日はラング村に着けたら良いな」
神父さんはロバ移動だからね。2日、ラング村に泊まって、アルカディアに向かうそうだ。
それ、早く教えて欲しかったな!
もう一度、お別れを言って、本当に出発だ!
ワンナ婆さん、ヨハン爺さんも見送ってくれた。
なんと、ジミーがラング村まで送ってくれる。
ママとパパは、育ち盛りのミラとバリーの為に狩りに行かなきゃいけないからね。
「ミク、元気でね!」
ママは、二回目の出発なのにギュッと抱きしめてくれた。
「修行が辛かったら、帰って来て良いんだぞ」
パパ、それは問題だよ。
「ミラ、バリー、元気でね!」
よし、出発だ!
ロバって遅いんだね。神父さんはのんびりとロバの上で寛いでいる。
ジミーは木の上を先に行ったり、戻って来たりしながら警戒してくれているけど、私とサリーはゆっくりと移動だ。
「あっ、ハーブがあるわ!」
ついつい食べられる植物やハーブに目が行くけど、ジミーが側にいる時以外は、木から降りては駄目だと言われている。
「こんな調子でラング村に着けるのかしら?」
サリーは心配そうだったけど、夕方には着いたよ。
「じゃあな!」
相変わらずジミーは言葉が少ない。
ラング村の前まで見送ったら、帰ってしまう。
「ジミー! ありがとう!」
背中に向かって、お礼を言う羽目になったよ。
ずんずん小さくなるジミーを見ていると、これで村から出たと実感した。
「さぁ、行こう!」
立ち止まっている私を神父さんが促して、ラング村に入った。
ラング村も私の村とほぼ一緒だ。小さな小屋と集会場と若者小屋と村長さんの家。
今夜と明日は、村長さんの家に泊まる。
「他所の村に泊まるの初めてだわ!」
前世でも病院以外のお泊まりは無かったからね! 初お泊まりだ!
「前に私の家には泊まったじゃない」
「それは勘定にいれないの!」
サリーは、ゆっくりの移動で、いつもより倍疲れたと愚痴る。
「おや、小さい子を連れて来たんだな」
ラング村の村長さんに、2人でペコリと頭を下げる。
「ああ、この子達は、アルカディアで修行するのだ。2日間、お世話になるよ」
村長さんの家には、神父さんや行商人を泊める部屋がある。
私とサリーは一緒の部屋だ。
「何かお手伝いします!」
神父さんは、夕食まで村長さんと話しているけど、私とサリーは手持ち無沙汰だ。
「まぁ、じゃあ夕食の準備を手伝って貰おうかしら?」
それはお手のものだよ!
「芋があるなら、肉とシチューにしますね」
ラング村も狩人の村だから、芋ぐらいしか作っていない。
サリーにも手伝って貰って、さっさとシチューを作る。
「まぁ、まだ小さいのに料理が上手いのね」
村長さんの奥さんに褒められたよ。
狩人の村では、働かない人はいない。たった2日でも、泊めて貰うだけの働きはするよ。
次の日は、洗礼だったみたい。私とサリーはラング村の周りで食べられる植物を採取した。
「ミク、そろそろ帰ろう! ここら辺は、森の奥だから魔物も大きいよ」
さっきも、大きな魔物がいたから、木の上に逃げたのだ。
ラング村の狩人が仕留めたけどね。
「うん、そんなに村からは離れていないけど、大きな魔物が多いのかな?」
バンズ村よりも森の奥だからかもね?
「アルカディアは、もっと森の奥だよね。外には出ない方が良いのかな?」
私的には、植物採取はしたいけど、ヨハン爺さんみたいな子どもの森歩きを指導してくれる人がいなきゃ無理かも?
ラング村の2日の滞在も終えて、やっとアルカディアへ出発!
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