第79話 後ろ盾

 俺は領主と一緒に馬車に乗り込んだ。

 不思議な事に、俺と2人だ。

 俺が害するとか考えないのだろうか?それとも武闘派で俺の歳のやつに負けない自信があるのか?


 ウルナとメイヤは奥さんと同じだ。

 こちらも襲われるとは微塵も思っていないのか、警戒をされていない。


 短距離でも、身分の高い者は馬車で移動するのがこの世界の理だ。

 それほど豪華な馬車ではない。


 奥様達の方はいかにも貴族の馬車といった感じの金の掛かった車だ。


 しかし、俺と領主が乗るのは作りは良いが、派手さがない好感の持てる馬車だ。


「警戒せずに私達のような者と馬車に乗るなんて宜しいのですか?」  


「ああ。君達はいや、君は大丈夫だ。理由は言えぬが、私が裏切らない限り君は私に害を加えないはずだ。もっとも妻を殺されたら、地の果てだろうがこの手で必ず追い詰め、この世に生まれた事を後悔するまで苦しめてから殺すがね!」


「肝に銘じておきます。ところであと2つは贈答可能なようにラッピングしておりますので、お渡ししておきます」


「うむ。恐らく陛下の所にはその大きさのがあるだろうが、それでも、この質ではない。いくらで売ろうとしているのだ?」


 俺は領主に渡したのとは違い、一回り小さいのを懐から取り出した。


「この大きさで(500円玉ほど)金貨10枚、いずれは金貨数枚にまで下げる事になります。ただ、量産する体制が整えばで。先程渡した手のひらサイズのは金貨30枚ほどを。そしてそれよりも大きいのは領主様にお買い上げ頂き、販売するか、金貨200枚程を考えています。閣下には有力者への口利きをお願いできればと思っております」


「うむ。案外安いのだな?」


「量産する体制が整えばです。東の方にある国で作られたのはその数倍と聞き及んでおります。私が提供する商品がこの町の特産品になればと思います。闘技場に来たお土産になる価格を目指していきたいのです」


「分かった。最大限便宜を図ろう。君は確かに強いが根っからの貴族のようだな。何故私に取り入ろうとする?」


「今の私が新たに有力者と懇意にできるチャンスが閣下だったからです。武闘大会の表彰では、自ら優勝者に報奨を渡す事は有名です。領主様に対し、後ろ盾をお願いできるようなチャンスは滅多にありません。私はダイランド家を追い出され、刺客まで差し向けられておりますし、選択肢はありませんでした。話がわかる方だと御の字だと縋る気持ちで声を掛けた次第です」


「まあ良い。妻の顔を見たか?あれ程はしゃいだのを私は見た事が無いのだ」


「確かにお喜びになられておりましたね」


「うむ。お主も知っていると思うが、貴族というのは面倒でな。派閥争いや権力争いが絶えぬ」


「ええ。恐らくこれらを販売か贈答にする事でその争いの武器としての価値を見出されたのかと思いますが?」


「有無。手の内を明かすつもりはないが、確かに一理ある。この町の特産品にすれば、さらなる発展を期待できる。良かろう、君の後ろ盾になってやろうじゃないか。詳しくは屋敷で話し合うとしよう」


 因みにもう1台の馬車では、ウルナさんがたいそう気に入られていた。

 一般人故、礼儀作法を知らないと伝えてはいたが、上流階級の為ガチガチの関係の家同士の上下関係の付き合いしか無いそうだ。

 なので、身分が低い者のと懇意にする事もなく、奇譚のない話ができる相手にと思われたようだ。

 特にウルナさんが見せたアクセサリーを大層気に入り、今度他のアクセサリーも見せて欲しいとお願いされ話も弾んだそうだ・・・


 市場に出回っていないから、ワンオフの作品になり、他の人が持っていないアクセサリーに価値を見出したようだ。

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