第47話 決勝戦・弓編

 緊張に包まれた競技場の中で、弓の試合がついに始まった。


「皆さん、武闘大会の弓部門競技が開始されます!まず、今回の対戦者をご紹介いたします。右側の選手は、エルフの森から参加のイシュリアス選手です!」


 司会者の声が響き渡る。


 エルフの女性イシュリアス。

 その美しい外見と気品に満ちた佇まいが、競技場全体の注目を引き寄せていた。

 彼女は優雅に弓を手に取り、自信に満ちた表情で競技場に立っていた。しかし、その瞳には闘志と集中力が宿っており、初対面の人でも彼女の冷静な外見の裏に秘められた熱情を感じ取る事ができる。


 司会者が続ける。


「そして左側の選手は、今大会でも注目を浴びる選手、ハーニャ選手です!先程槍部門で優勝したメイヤ選手と同じパーティーに所属しています!」


 ハーニャは無口ながらも、その迫力ある姿勢で観客達の注目を集めていた。

 体は小柄だが、弓を手にしたその姿からは驚くべき力強さが感じられた。


 彼女は弓を握り、矢を手にして的を見つめていた。

 その視線は鷹のように鋭く、試合に向けた決意と集中力がはっきりと伝わって来る。


 両者は約10メートル離れた位置に立ち、競技場中央の50m離れた的を凝視している。


「選手の皆さん、準備はよろしいでしょうか?それでは、競技を開始いたします。用意・・・」


 司会者の合図とともに、イシュリアスとハーニャは弓を引き、矢を的に向けて番えた。

 競技場は静寂に包まれ、緊張感が一層高まっていく。


「放てぇ!」


 司会者の声と同時に2人の手から矢が放たれた。

 矢は空を舞い、放物線を描きながら的に向かって飛んでいく。

 そして観客達は息を呑みながら矢の行く先を見守る。


 しかし、その心配は杞憂に終わった。

 2人の矢は見事に的の中心を射たのだ。


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「さあ、大変な事になりました!なんと、両者共にこれまで全ての矢は的の中心を射抜いており、20射目でも今たまに決着がつかないい!という結末になりましたぁ!しかしっ!こんな事もちゃんと予想してますう!そして決勝に相応しい的を用意しております!」


 ハーニャとエルフの少女イシュリアス。2人はそれぞれ指定された位置に立ち、弓を手にして静かに準備が終わるのを待っていた。

 競技場の中央には、的となる木の皿が収められた箱が2つ設置され、次に使う的の準備が進められていた。


 その箱の下部には板があり、それに繋がった別の板が高い位置から飛び降りる事で的になる皿が射出される仕組みだ。

 飛び乗るのは武闘大会のスタッフで、少々派手ではあるが見ている人々に笑いを提供していた。

 このスタッフが飛び移る事で皿が押し出され、約10mの高さまで舞い上がる仕掛けだ。


 司会者が準備をしている間に、詳細や競技のルールを観客に説明していた。


 木の皿を的とし、それを箱から射出する。

 各自が指定の円の中から射出された的を射抜く。

 事前に3回の練習の後本番だ。

 両者共に失敗した場合はもう1度、そして片方が失敗するまで続ける事になる。


 審判の合図と共に射出スタッフが飛び降りて練習用の皿が射出された。

 やや派手な演出だが、見物人にとっては楽しいエンターテイメントだ。


 3回の練習が終わり、いよいよ本番の矢の舞が始まる時が訪れた。

 的の準備が整うと、司会の掛け声にて的が箱より射出される。

 ハーニャとイシュリアスが次の矢を手に取り、的が飛び上がるのを待つ。


 競技場は再び静まり返る。

 静寂を破ったのは司会の「放て!」の号令と、射出係が板に飛び乗る音だ。


 的が中を舞うと2人の矢が的を目指して放たれた。

 矢は空中へ美しい弧を描きながら飛翔し、やがて的に突き刺さった。

 的に命中した瞬間、皿が割れる音が競技場に響き渡る。


 両者共的に当てると、次の的の射出が続く。


 そして、第5の的に向けて2人の矢が放たれる瞬間が訪れた。

 競技場全体が緊張と期待に包まれた中、2人の矢がほぼ同時に空へと放たれ、その矢の軌跡は美しい。

 矢の勢いと共に的に命中した瞬間、競技場には歓声と拍手が沸き起こった。


 しかし、その中でも一方の的には矢が命中せず、無傷の的が地面に落ちる乾いた音が静かに響いた。

 その瞬間、ハーニャの目の光りがふっと消えた。


「ハーニャ嬢が的を射抜きました!勝者はハーニャ嬢です!」


 司会者の声が競技場に響き、観客達の大きな拍手と歓声で闘技場は溢れた。

 ハーニャは謙虚な微笑みを浮かべ、周囲に小さく手を振りながら感謝の意を示した。


 一方、エルフの少女イシュリアスも敬意を持って頭を下げハーニャの実力を讃えた。


 試合が終了し、両者は握手を交わして互いの腕前を称えた。

 ハーニャの無口な性格が少しだけ緩んで、賞賛の言葉を交わす場面もあった。


 ハーニャは優れた弓の腕前で見事な勝利を収め、無口ながらもその実力を証明した。

 対照的にイシュリアスは最後の一射を外し、敗北を受け入れるしかなかった。


 競技場の中央で、ハーニャが勝者として立つ姿は観客達に勇気と感動をもたらした。


 これにて昼休憩となる。

 後半戦が始まる前に食事にありつこうと、セルカッツはハーニャ達と共に食堂へと向かった。

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