第34話 ウィルス対策
コンテナ監禁生活者の朝は早い。
朝五時、寝起きのコーヒーは、乳糖カットしたカプチーノにしてもらっている。
熱いのを啜ると目が冴える。
生活リズムは完全にコントロールされている。
地下より更に厳しい。
自由時間が一日当たりに朝三時間、昼三時間、夜五時間と決まっている。午前中は、三時間ネットワークの保守、防壁の構築やスキルアップ。午後三時間、つつみちゃんの持ってくる依頼をこなす時間に充てる。睡眠時間は七時間で、眠れないと睡眠導入剤が投与される。
何て健康的な生活なんだ!
「そろそろ休もっか」
「うぃっす」
最近つつみちゃんは俺にかなり気遣いしているが、気付かぬ振りをして甘えている。俺が気遣いすると余計に気にしそうだ。
一応、以前結んだした契約通りに、俺は情報提供してるだけだが、内容はつつみちゃんの要望があまり通っていない。
やりたいことができずに鬱屈としているのは、見てて心苦しい。
こんなところで一生を終える気は全くないので、俺としては毎日コツコツ身を守る練習だ。
ファージネットで攻撃してくる可能性があるナチュラリストは、概算で最大二万人程となる。今までで、同時攻撃された最大数は五千人規模だと言う。
ほぼ、日本列島の東北と北海道に集中し、ファージ濃度が濃い地域からの攻撃だったそうだが、それ以上の人数からの嫌がらせに余裕で対応できる環境を整えたい。
ゲームと違い、与しやすい敵などこの世にはいない。コボルドで散々思い知った。倒しやすい形で倒しやすい人数でご丁寧にレベリングしながらかかってきてくれる奴など現実にはいない。
「とりあえず、始めの一歩として。敵味方関係なく、攻撃してきた奴に攻撃回数分はね返していく」
「それができないから皆困ってるんだけど」
「ファージ全体が使い放題だから、俺にため込む必要も俺が標的にされる必要も無かった」
「・・・・・・」
「脳内に喰らう訳じゃないし。俺へのアクセスは実質無限に耐えられる。フィルタリングしないで、全部受けて全部返す。された回数にノシ付けて返す」
「う、ういるすとか来るから・・・」
「その辺、詳しい対処は俺には無理だけど、どうせ二番煎じとかばっかで、オリジナル作りながら手変え品替えやってくるエルフとかは少ないんだろ?」
「あー、その辺は、昔から一辺倒で代わり映え全く無いかなー。そういう魔法で定着してるから」
それに、エルフは拘りがあって生体接続しかしないそうなので、DOSアタックやり返すだけで鼻血出して寝込むんじゃないかな?肉喰ってる場合じゃなくしてやる。できれば、ちょこちょこやるより、対策される前に一網打尽にしたい。
手を出したくないと思わせられればいいのだが、プライド高いから無理か。
寝てる時でも基本的な反撃は出来るようにはなったので、一安心だ。起こされまくるのは勘弁だから、寝るときはオフラインだな。ウィルスも、基本的な構造のものは対処の練習を始めた。
セキュリティクリアランスウルトラヴァイオレットな俺と、ただちょっと繋ぐのが得意なだけのエルフは、同じ生体接続でも出来ることが段違いなのだが、数の脅威はやはり厄介だ。
「ちと、休憩終わったらエルフ百人分くらいの同時攻撃で練習させて?」
「オフラインで部屋の中に物理鯖建ててもらうから待ってね」
「よろしく」
その日の午後、役所は直ぐにサーバーを組んでくれた。冷却が間に合ってなくて、部屋の中が暑いが、コンテナの外に置いてあるので中で作業する俺らには問題ない。
構築したら、後は眺めているだけだ、百人から来たものを一人当たりに百人分返していく。DOSアタックはいつの時代も、基本であり原点だ。
相手が一般人や無関係な人を利用していないので、配慮する必要は全くない。存分に喰らいさらせ!
「あ」
防壁起動後、アタックされると同時にエルフを想定したサーバーの電源が即落ちする。つつみちゃんは気の抜けた声を上げた。確かに拍子抜けだけど、やっぱこうなるよな。
「物理鯖のCPU負荷七千パーセントだって、電力足りなくて即ダウンね」
人の身で喰らいたくはないな。
この世界で起きた当初、つつみちゃんのコード起動したときの記憶が蘇る。
あの時は入ってくる情報の整理が出来なくて頭が割れるかと思った。
エルフの回線は結構太いそうなので、良いダメージが出るだろう。
あれから少し調べたのだが、脳の処理限界は、現代では数値化されている。これは個々の差が身体能力以上に顕著で、一概には言えないが、各分野毎に処理限界が設定されていて、運動野の処理能力がいくつ、視覚野の処理能力がいくつ。という具合になっていて、違う分野の脳を使うと、並列作業し易いが、同じ分野だと、処理能力の限界までしか機能出来ない。
俺がガキの頃、ピアノ弾きながら歌う行為に発狂してたのは同じ分野の脳を使う為に処理限界を越えていたのが原因だ。
人の脳は優秀で、反復練習により最適化を自動で行える。最適化のコツを掴めば、処理の負荷を下げて低負荷にしたいくつもの思考を、処理限界まで詰め込んでいける構造になっている。
勿論、クソが詰まっている俺の頭程度でもそれは可能で、寝ていようが起きていようが、ファージさえあれば、俺の頭はそんなに使わず、起動コマンドのみでこのDOSアタック対処法は機能する。
最も、ファージ接続しなければ不安は無いので、この部屋の中みたいにオフラインになったり、回線切断できるようなファージ密閉されたスーツを着こめば攻撃される心配は無い。
自動的に反撃したり、侵入者にクラッキングしていくツールもあるそうだが、あまりメジャーではないそうだ。
この世界では、直ぐに身バレするからだ、どこから繋いでいるか、辿られたらバレる。なので、特定次第、物理的に踏み込んで身柄を抑えてしまえばそっちの方が手っ取り早い。
ファージ接続時に対策すべきなのは、ナチュラリストや盗賊団みたいに、軽々と捕まえにいけない敵対武装勢力のみとなる。
「想定されるナチュラリストの嫌がらせって、他にどういうものがあるん?」
ネット検索は察知されるので、こうやって知識を増やしていくしかない。
「DOSアタック以外だと、頭に侵入されて記憶改ざんとかかな。住処に呼び込まれたり、ハッキングの中継に使われたりはよくある、でも、脳のサイボーグ化してなければ怖くないし、対策ソフト入れておけば心配ないよ」
「なるほど」
とりあえず、一安心かな。
「一番怖いのは、マーキングされる事。されると、崇拝者たちに際限なく狙われる」
「検索するとマーキング対象になるんだっけ?」
「そうね。喰われた中でも、興味本位で調べたり、遊び半分で度胸試しして消えていく人は毎年一定数いる」
「誤爆しただけで攫われたりすんのか?」
「市場に出まわってる検索エンジンには出てこないから、その辺は問題ないと思う」
普通に暮らしている分には関係ないのか。
「よこやまクンの場合、マーキングされてる可能性がかなり高いから、初回接続は慎重にするに越したことないけどね」
だよなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます