第18話二人が最後に、やるべき事は
歌保が家に戻ると、充が帰っていた。
「ただいま」
「おかえり」
「充さん、コーヒー入れようか?」
「そうだな」
二人は、コーヒーを飲みながら、愛奈の
写真を見つめる。
「充さん、どうだった?木村は?」
「うん、出馬を辞めるってさ、歌保の方は?」
「そう、良かった!学校は吉田先生は校長に
警察に言うべきだって、掛け合ったみたい
だから、そのままで、校長だけは今日付けで
辞職して貰う様にしたわ!」
「そうかぁ~これで、やっと長い戦いは
終わったな?」
「そうね、充さん愛奈の所に行く前に、あの
木村から取り上げた、お金を寄付しましょう!」
「うん!残してても、しょうがないし
間違って木村に、戻ったら、歌保のした事が
水の泡だからな!で、どこにする?」
「それよね、有効に利用して貰える所に
したいな!」
「母子家庭や、色んな経済状態の人達は
沢山居るだろうけど、市役所に寄付しても
どうなるか分からないし…歌保!孤児院は
どうかな?」
「そうね、それがいいわね」
「あの子達は、苦労しながらも、大きく
なって社会に出ても、苦労する事が多い
からな、一番は、両親が何らかの理由で
居ないって言うのは、本当に辛いよな!」
「じゃあ、全国にどれだけ有るのかです調べて見るね!」
「うん」
「うわっ!605ヵ所で、25000人も居るわ!」
「そんなにも?」
「うん!孤児院に寄付する?それとも入居
している人達に、寄付する?」
「本当は入居している人達に、寄付したい
けど、それは不平等になるよな?今居る人
だけに寄付する事になるから、やっぱり
孤児院に寄付しよう!」
「そうね、退職金もいれたら…一ヶ所に
40万は寄付出来るわ!」
「じゃあ、明日から送って行こう!」
「うん、住所とかコピーしとくね!で
充さん、名前はどうする?」
「もう別に、実名でいいんじゃ無い?」
「そうだね」
そして、二人は翌日から、お金を分けて
全国の孤児院に、送金をして行った。
それが終わると、歌保が何やら書き出した。
「歌保?何してるの?」
「私達が死んだ後に、木村と警察に届く様に
手紙を書いてるの!今回のタネアカシを
これを見たら、泰造は怒り狂うと思うわ
警察は自分達の失態を、ちゃんと認識する
でしょうね」
「そうだな!真実が、どれ程、重くて醜く
くて、辛い事なのかを、知って貰わないとな!」
「うん!」
そう言って、歌保は二通の手紙を書いたの
だった。
二人は、荷物もマンションも、全て処分して
引き払った。
そして、北海道の愛別岳を、死に場所に
選んだ。
愛奈の愛の字に、惹かれて、そこに決めた。そこなら、三人で死ねる気がしたからだった。
山は険しく、登山にはなかなか、困難な
山だが、二人は別に山頂に行かなくても
夜を待ち、凍死する事が目的だったので
たいした問題では無かった。
「着いたね~」
「あ~ここなら、登山客も通らないだろう」
「充さん、最後に一緒に、コーヒー飲む?」
「うん、飲むよ!歌保?薬は持って来た?」
「睡眠薬?うん、持って来たよ!」
「後で一緒に飲もう」
「うん」
そして、二人は最後のコーヒーで、乾杯を
した。
今日のコーヒーは、美味しくも、苦くも
感じられた二人だった。
「じゃあ、薬を一緒に飲もう」
「うん!そうたね!」
二人は、大量の睡眠薬を口にした。
そして、愛奈の小さい時や、二人の出逢い等
楽しかった日々を、振り返っていた。
本当に幸せな人生だった。
あの事件さえ無ければ
「充さん、ありがとうね!私の復讐に
付き合わせて、ごめんね」
「歌保!お前だけの復讐じゃ無いよ!愛奈は
俺達の宝だったんだ!俺の復讐でも有ったん
だから、でも歌保一人に全部させて、ごめんな?」
「ううん、充さんが居てくれたから、何時も
守ってくれたから、私は頑張れたよ!」
「あの世に行ったら又、愛奈と三人で手を
繋いで暮らそうな!」
「うん!今度は絶対に離さない様に暮らそう
ね!」
そして二人は、手を繋いで離れ無い様に
ロープで、二人の手を縛った。
その二人の手の中には、愛娘、愛奈の位牌が
握り絞められていた。
「充さん、何だか眠くなって来たね?」
「そうだな、眠いな」
「又、逢おうね!」
「あ~必ず逢おうな!」
これが二人の、最後の言葉、会話になった。
それから二日後、登山客に発見された二人は
警察が来て調べたら、凍死だった。
ただ、その二人の顔は、とても穏やかだった。
そして……
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