第13話優しい息子

デスクワークをしている柊は、ふと窓の外を

眺めると、一人の老人が警察署の前を

ウロウロしているのを、見付ける。


(なんだろう?行って見ようかな!)


「権田さん、私ちょっと外に行って来ます」


「うん?どうした?」


「いや、老人が警察署の前を、ウロウロ

しているんで、気になるんで行って来ます」


「あ~」


「僕も行くっす」


「早川、あんたは自分の仕事を、しなさい!」


「はいっす」


ふて腐れる早川。


「早川~お前は本当に懲りないな?」


「権田さん、何を嬉しそうに言ってるん

すか?」


そんな二人を置いて、柊は下に降りて

行った。

そして老人の所に行くと


「どうしたんすか?」


「はい?私ですか?」


「はい、さっきから、ずっとウロウロ

されてたから、少し心配になって」


「私は家に、帰りたいんですけど、道が

分からなくなってしまって」


「何か身分証明書みたいなのは、持って

ませんか?」


「身分証明書?私は、太田トヨ86歳です!」


「わっ!ちゃんと名前に年齢が、分かるん

ですね?じゃあ、今押してるシルバーカー

の中を、少し見ていいですか?」


「あ~どうぞ」


柊はシルバーカーの中を調べると、誰かが

作った証明書を、見付けた。

そこには、名前、年齢、住所、そして

緊急時の連絡先が、書かれていた。


(やった!)


柊は、おばあさんに


「ここに緊急時の連絡先が、書いてますから

迎えに来て貰いましょう、この太田貴一

さんは息子さんですか?」


「はい~私の長男です」


「じゃあ連絡しますね、ちょっと中に

入りましょう」


そう言って、柊は、おばあさんを署の中に

入れた。

そして、息子の太田貴一さんに電話した。


「おばあさん、息子さんが迎えに来るって」


「まぁ、まぁ、すみませんね~ありがとう

ございます」


そして20分位で、息子がやって来た。


「すみません、ご迷惑をお掛けして

私が太田貴一です」


「いえいえ、どうも家への帰り道が

分からなく、なってしまったみたいでして」


「実は、母は認知症で、しっかりしている

時も有れば、今日みたいな事も、それで

連絡先を、シルバーカーに付けておいたん

です、本当は誰かが、側で見ないと

いけないんですけど、私も妻も仕事を

しないと、子供達が居るので、生活が

有りますから、平日はヘルパーさんに

お願いしてるんですけど、どうやって

出て来たのか」


「大変ですよね、病人を抱えて仕事に

子育て、でも頑張ってくださいね」


「はい!ありがとうございます本当に

無事で助かりました!」


そして、おばあさんと息子は、何度も

頭を下げて、帰って行った。

自分の課に戻った柊。


「柊、どうだった?」


「あの老人は、認知症で息子さんが

シルバーカーに、身分証を付けていて

くれたので、迎えに来て貰って、今

帰りました」


「そうか~お疲れ」


「柊さん、お疲れっす」


「でも病人を抱えて、仕事に子育て、本当に

大変でしょうね、でも優しい息子さんで

おばあさんが無事だった事を、喜んで

何度もお礼を言って、頭を下げてくれるん

ですよ!きっと、あの、おばあさんが

大切に育てたんでしょうね!」


「そうだな!親の愛情を、たっぷり

受けて優しい人に、育ったんだろうな!」

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