復讐した男

 結婚4年目。結婚生活にも慣れて、妻と2人の生活が当たり前になっていた時、妻から信じられない言葉を聞いた。


 「子供が…出来たみたいなの」


 突然すぎる。そもそも…ずっと避妊していたのに出来る訳が…


 「………相手は?」


 考えられるのは浮気くらい。妻とは週に2回くらいしてるけど…避妊しなかった記憶は無い。


 「………」


 妻の表情からは嬉しそうな感じは伝わってこない。まるで…言いたくない事を言わなきゃいけなくなった子供のような表情だ…


 「相手は誰だ?」


 「…元カレ…だと思う」


 妻の元カレ…?大学で妻と知り合った時はフリーだったはず。となると、俺の知らない奴か…


 「その元カレってのは誰だ?」


 「…チャラ男」


 普通に知ってる奴だった。チャラ男とも大学からの知り合いでアイツの結婚式に呼ばれるような間柄…つまり友人だ。


 「…そうか」


 「…ごめん。堕ろすから…許して下さい」


 「別れよう」


 「待って!本当にもうしないから!お願い…」


 妻は俺に縋り付くように懇願してきたが…そんな願いを聞く義理はもう無い。

 妻の父親に電話をかけた。


 『もしもし』


 「妻に浮気されたんで別れます」


 「やめて!別れたくないの!」


 『ちょっ待ってくれ。詳しく話を…』


 電話を切って外に出る。妻は義父さんと話すので忙しいらしく追ってこなかった。…すぐに動かなきゃな…連絡を入れられたら面倒だ。


 車でチャラ男の住んでいるアパートに向かう。俺の家から約20分。途中で寄り道をして金属バットを買った。


 チャラ男のアパートの部屋のチャイムを押す。時間は20時くらいか。この時間に寝てるって事は無いだろう。

 数秒後にインターホンからチャラ男の奥さんの声が聞こえた。


 「いきなりどうしたの?」


 「ちょっとチャラ男と遊びに行こうと思ってさ…」


 「ふ~ん…アイツ、今風呂に入ってるんだけど…まあ、いいか。上がって待ってて」


 「ああ。待たせてもらえると助かるよ」


 特に警戒する事もなく家に入れてもらえた。さて…のんびりと待たせてもらうか。

 奥さんは俺の手に持っていたバットを見て驚いていたけど…


 「チャラ男とバッティングセンターに行こうかと思ってね。これはマイバット」


 「へぇ~。そんな趣味あったんだ」


 適当な言い訳で誤魔化した。こんな嘘をすぐに信じちゃダメだよ…

 奥さんは妊娠していた。6ヶ月目らしい。…なるほどなぁ。奥さんとできなくなったから俺の妻に手を出したって事か…


 「君のところは子供を作らないの?」


 「ウチもそろそろ欲しいと思ってるんだけどね…」


 俺が仕込む前にお前の旦那に仕込まれちゃったんだよね…あの野郎は絶対に許さねぇ…

 他愛ない話をしていたら10分くらいでチャラ男が風呂から上がってきた。


 「誰か来てたのか?…っ!?」


 俺を見て驚いているチャラ男。奥さんはキッチンに行って飲み物を用意してくれている。


 「よぉ。久しぶりだな」


 「あ、ああ。…どうしてお前がここにいるんだ?」


 「あれ?約束してたんじゃないの?」


 俺に珈琲を持ってきてくれた奥さんは不思議そうな顔をしている。


 「ああ。ごめんね。さっきのは嘘だったんだよ」


 「え?嘘?」


 「本当は俺の妻に手を出したクソ野郎をぶっ殺しにきたんだ」


 チャラ男の足に向けて思いっきりバットを叩きつける。嫌な感触だけど…チャラ男の顔が苦痛に歪む瞬間を見れたのは最高に気分が良かった。もちろん…一発で済む訳が無い。床を転がり回っているチャラ男に向かって何度もバットを振り下ろした。

 肉に当たる感触…骨に当たる感触…叩いた場所によって感触が全く違う。共通しているのはどこに当たってもチャラ男の無様な叫び声が聞こえるって事かな。

 

 「もう止めて!」


 「…あ?」


 チャラ男をボコボコにして楽しんでいると奥さんが俺とチャラ男の間に入ってきた。


 「邪魔。どけよ」


 「もう止めて…これ以上やったら…この人が死んじゃう…」


 何を言っているのだろうか?俺はさっきちゃんと言ったはずだ。コイツを殺しにきたって…


 「次で忠告するのは最後ね。邪魔だからどけ。2人まとめて殺すぞ?」


 「私が代わりに謝るから…何でもするから…許して下さい…」


 「あのさ…ソイツが何したかわかってるの?」


 「…君の奥さんに…手を出しました…」


 「ちょっと違うな。手を出して…妊娠させたんだよ…」


 「…え?」


 チャラ男は体を丸めるようにしてごめんなさいとかなんとか呟いている。話を聞いているのかわからないな。


 「人の女に手を出して妊娠させるようなクズはさ…死んだほうがいいと思わない?」


 「嘘よ…」


 「嘘じゃないって。そもそもさ…自分が代わりになるとか言ってたけど…俺はアンタも原因だと思ってるんだよね」


 「な…なんで…」


 「アンタが妊娠したからソイツは俺の嫁に手を出したんだろ?ほら、アンタにも責任あるじゃん」


 「私は…何も…」


 「理不尽だよな?俺も理不尽な目に遭って離婚する事になったからさ…諦めてよ」


 チャラ男を庇っていた奥さんにビンタをした。割と本気で。奥さんの悲鳴を聞いたチャラ男は我に返ったみたいだ。生意気にも俺に話しかけてきた。


 「や…やめろよ…」


 「なんで?この女が妊娠したせいで抱けなくなったんだろ?だから俺の嫁に手を出したんだよな?」


 「俺が悪かった…嫁は本当に何も知らないんだ…許してくれ…」


 何を言ってるのかサッパリわからなかったので顔面を思いっきりぶん殴ってやった。


 「なあ…俺も何も知らなかったんだけどさ…いきなりお前の子を妊娠したって聞かされた時の俺の心境…わかる?」


 「………」


 「…俺は何も知らなかった。何もしてなかったのにお前に酷い事されたんだよ。お前に同じくらい酷い事をする権利が俺にはあると思うんだよね」


 「済まなかった…許してくれ…もう2度としないから…」


 「お前はここで殺すから…2度と出来る訳ないじゃん。殺す前にお前にも絶望を味合わせてやるよ」


 「やめてくれ…頼むから…」


 「俺はお前に頼む事すらできなかったな…気付いたら嫁を妊娠させられてたんだからよ…」


 バットを持って奥さんの隣に立った。


 「や…やめて…」


 「そうだな…子供が死んだらチャラ男も反省するかな。その子供が出来たせいでこうなったとも考えられるし…」


 「嫌…この子は何も悪くないの…お願い…」


 「だからさ…俺はお願いすらできなかったんだって…諦めてよ。ほら、立って。アンタのお腹にフルスイングしたら子供を殺せると思うから…」


 もちろん、本当にやる気はないけどね。そんな酷い事できません。チャラ男相手なら股間にフルスイングしてやりたいけどな…


 「いや…嫌…この子だけは…」


 奥さんはお腹を守るようにして蹲っている。…奥さんに対してはもういいか。夫の手綱をしっかりと握っていなかったのは問題だと思うけど…それを言ったら俺も同罪だしね。


 「仕方ないな…子供は見逃してあげるよ」


 「…ありがとうございます」


 奥さんに小さな声でこう言った「別室で通報して」と…

 奥さんは逃げるように別の部屋に向かっていったよ。…ごめんな。ビンタ…痛かっただろうな…


 「さて…じゃあそろそろ死んでくれるか?」


 「やるなら俺だけにしてくれ…嫁と子供にはこれ以上は…」


 自分の嫁や子供をそんなに大切に想えるのに…どうして人の家庭を壊すような真似ができるのか俺にはわからない。ただ…俺はやられたらやり返す主義だ。取り返しのつかない事をしてくれたコイツにかける情けなんてない。

 警察が来て捕まるまでチャラ男をバットで殴り続けた。股間を重点的に狙った。出血もしてたみたいだから…潰れたかもな。



 俺は暴行罪と殺人未遂で懲役5年。妻の父親が手配してくれた弁護士が情状酌量の余地があるからもう少し頑張れるとか言ってたけど適当で良いと伝えてある。

 チャラ男の事を殺しても良いと思って殴り続けたからな…殺人犯として扱われても仕方ないと思ってる。減刑されても嬉しくなかったしな。

 両親は俺に対してブチ切れていたけど…罪を償ってこいとは言わずに出てくるのを待っててやると言われた。


 妻とは離婚したよ。顔も見たくなかったから義父さんに書類を渡した。


 「もう会う事も無いでしょうけど…義父さん、今までありがとうございました」


 「馬鹿な娘で…本当に申し訳ない」


 義父さんの事は好きだった。よく冗談を言って笑わせてくれる楽しい人だったし…


 チャラ男は離婚したらしい。子供は産むらしいけど…俺にはもう関係ない。奥さんには悪い事をしたとは思っているけど…俺と同じでパートナー選びに失敗したって事で納得してくれないかな…無理だよな…うん。

 チャラ男は男として死んだそうだ。詳しい事は知らない。もう会わない事を祈っている。だって…次は自分を抑えられないと思うからね。


 さて…大人しく自分の行いに対しての罪を償うとするか。チャラ男に対してした事に反省も後悔もしていない。ただ…法律という名のルールに従うだけだ。

 出所後の事は何も考えていない。強いて言うなら…両親に謝りたいくらいかな…

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