【リメイク版】第5話 真の錬金術師

私は、もう断ることはできない。だって、シエラに大好きと言われてしまったから。


「じゃあ、準備はいい?」

「いいよ。シエラがそれでいいなら」


「おい、何ゴチャゴチャ言ってんのか知らねぇがさっさとしやがれ!」


タキシードの男がそう叫んだ時、シエラは私に抱きついてきた。それと同時に、唇に熱いものが触れた。

それは、ほんの数秒のことだったのか、あるいは、何十分ものことだったのか。


「ユウナ、どうだった?」

「わ、悪くは、なかった。け、けど、別によかったとか、そういうわけじゃないから…」

「ツンデレかな~?もうちょっとリアクションしてくれてもいいんじゃないの?」

「だって、どうリアクションしていいか分かんないから…」

「もう、照れちゃって」


シエラは人命が掛かっていることを忘れてるみたいな…まぁ、そんな訳ないけど。


「さて、そろそろ次の命令行くぞ。持ち金を全て渡せ。1000万ジェルドでいい。もし足りなければ借金するなり周りの奴らから奪うなりしてさっさと用意しな」


この前の初めてシエラと依頼達成した時の報奨金ほうしょうきんがあるからそれを渡せば話は片付く…。


「ねぇユウナ、もしかしてあの時の報奨金使えば片付くとか考えてた?」

「どうしてそれを…」

「だって、それくらいしか宛ては思いつかないし。けど、奴らにお金は渡しちゃダメだよ」

「しかし、向こうには人質もいますし、残り時間も少しづつ減ってますし…」

「けど、もしもそのお金でテロとか革命とか…平和を乱すようなことを企てるかもしれないんだよ。だから、もう殺すしか…」

「シエラ…」


しかし、タキシードの男は待ちくたびれのか立ち上がって叫んだ。


「おい、人質殺して見せしめた方がいいか?誰が死んでもお前らの所為せいだからな」


「ふわぁ…。そうはさせんぜよ…」


緊張感が走る空気の中、あどけなさのある落ち着いた声でなまりのある言葉を話す何者かが入ってきた。

その人…というより、その猫姫族アイルーロインは、私たちよりも背が低く、幼げな容姿をしていたが、身長よりも長い聖剣らしきものを背負い、一目瞭然で冒険者だった。しかし、見た目に合わないほどの内包された魔力が感じられた。


「おいおい、ガキの分際で俺らに逆らおうとはよっぽど死にたいらしいな。泣いて謝って大人しくついてれば許してやらんでもないが」

「ガキ扱いすんやないぜよ。あんまり怒らせると、皆殺しにしてしまうぜよ」

「ほう、やれるもんならやってみろよ」

「こがなんしたくないんやけどね」


そう言いながら少女は背負っていた剣をその場で振り下ろした。

すると、手下のうちの何人かの腕が吹っ飛んだ。


「馬鹿な!?触れてないのになぜこんなことができる」

「うちをねぶっちゅーきこがなことになるがぜよ(訳:私をなめてるからこういうことになるんですよ)」

「化け物だ!!撤退、撤退ー!!」

「逃がさんよ」


少女は手で空中に何かを描いた。するとそこに魔法陣が現れ、逃げ惑う男たちの足元に出現した同じようなものから電撃が走った。どうやら、全員死んだか気絶したかで動かなくなった。


「大丈夫、死にはしちょらん」


少女はドヤ顔でそうつぶやくと、野次馬の中に潜んでいたレゼさんに手招きした。


「何で戦わざった?【真の錬金術師(フ(発音))ラー・アルシミスト】」

「…アタシ、もうその名前捨てたんッスよ。だから、もう錬金術を人前で使うのも嫌なんッス」

「われ(訳:お前)、もう戦うつもりはないのか」

「はい。アタシはリーダーの命令に背いた上で冒険者としてもギルドから除名してあるし…。何より、今のアタシにはもう新しい仲間がいるッス」

「戻ってくるなら、うちはいつでも歓迎するぜよ」


そう言い残すと、彼女はギルドを後にした。


「あの方は…」

「アタシ、もともと『ディエ・リッタ—』っていうパーティーに所属してたんッスけど、その時の同僚…というか最近の時の人、イリーベ・カッツゥさんッス」

「それで、どうしてㇾゼさんはそこを脱退したのですか?」


「それについては、私から説明するね」

「シエラ。何か関係があるんですか?」

「というか、私が直接の原因なんだけどね」

「何か、あったんですか?」

「まず、あの大戦争の時に被害者を集めた病院があったんだけど、そこのご飯が美味しくないったらありゃしなかったから抜け出してきたところをㇾゼ子が保護してくれて命拾いしたんだけど、1か月くらいそのリーダーさんに言わずに私を部屋にかくまってた所為で掟破おきてやぶりとして脱退しちゃったんだよ」

「そうだったんですか」

「まぁ、そうじゃなかったら今頃こうして生活なんかしてなかったと思うけどね」


もしかしたらだけど、シエラが死んだって噂を広めたのはシエラが脱走したことをごまかそうとしたその病院の人だったのかもしれないな…。とは思いつつも、その人に感謝したいと思えた。


けど、あのキスの時に私は違和感を覚えた。目は、魔物のものでも人間のものでもなかった。

更に言うなら、心音のような鼓動の音がせず、心音の代わりにかすかながら時計の針の音のような、機械音がしていた…気がしたけど、考えないようにしよう。


続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る