TS令嬢、追放先で体を乗っ取られる④


「なんか頭が重い…」


ぼやきながら、カスタニエ出版の廊下をフラフラと歩く。港町らしい、風通しのいい吹き抜けの建物。白壁が目に眩しい。


シャンタルと話している途中で急に眠くなった。目が覚めたら一晩たったとのことなのだが。


(そんなに疲れてたっけ…?長旅だったから…?)


「トーリ」


心当たりを探していると、声をかけられ顔を上げる。


「げ」


そこにいたのはシャンタルであった。本日も高めのヒールがいい音を立てている。


(来るぞ…)


また小言の一つや二つ言われると思い身構える俺の肩を、彼女はポンと叩いた。


「期待してますわ…」


それだけ呟いて去っていく。その顔は耳まで真っ赤だ。


「…何を?」


残された俺は呆然と、どこか満足げな様子で離れていく背中を見送った。






「シャンタル、なんか不気味だったな…」


サンカンから自宅に戻り、荷物の片付けをしながら、俺は最後に会った彼女を思い起こす。俺を前にしてあっさり引くなんて、普段の彼女からは考えられない。


「まあ無事に猫の里親募集広告を出してくれたからいいか…」


心配していた俺をよそに、仔猫達は変わらず元気いっぱいである。今も部屋のあちこちを破壊しながら楽しそうに遊んでいる。


ジュードがいたおかげで、サンカンの複数の店を出禁になるなどしたが、干物や漬け魚を作って持ち帰ることもできた。荷ほどきをしながら、明日からの食事に幸せな構想を巡らせる。


「……?」


しかしその食材たちに紛れ、ふと見慣れぬ派手な色が視界に入った。疑問に思い引っ張り出してみると、更なる謎に直面する。


「何この布…」


目の前に出てきたのはセクシーな服であった。下着なんだか寝巻きなんだか境界が曖昧な薄さと露出加減である。灯りに反射して、ところどころに縫い付けられた装飾がきらきら輝いている。


「誰かの荷物が紛れたのか…?」


当然、こんなものに心当たりなどあるわけがない。そこそこ高価そうな布を前に、一体どうしたものかと考えあぐねる。


すると布団に入ろうとする猫達を威嚇していたジュードが、不意にこちらを見た。事も無げに言った。


「今日もそれ着んのか?」

「…え?」

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