第4話 オーガ
外へ出てみると、数人の武装した兵士と二メートル程ある大男がいた。あれがオーガか。
「シャドウブレス!!」
兵士たちはオーガに攻撃するも、片手で弾かれてしまった。
「何て強さだ……。」
周りの者たちは歯が立たないみたいだ。
「ケンイチ!!」
アリスが俺に声をかけてきた。
「アリス……。」
「大変なことになった。ケンイチも聞いただろ。レベル300000のオーガなんてこんな小さな街の警備は止められない。」
レベルってのはよくわかんないけど。あの山賊の十倍以上の強さだろ。ヤバいな。こんなときに、俺が炎の剣とか使ってオーガ止めたら、俺モテモテだろうな。
「ケ……。ケンイチ、なに……。それ?」
アリスは俺の右手辺りを指しながらそう言った。俺も驚いていた。俺の右手には炎に包まれた剣のようなものがあった。
「なんだよ、こりゃ。これもレックスから貰ったスキルなのかよ。」
オーガは俺が持つ剣に反応を示して襲いかかってきた。俺は反射的に剣を振った。オーガは遥か後方まで吹っ飛んでいった。
「え……?」
アリスも、街の人も全く同じ反応をしていた。何が起こったのか理解できていなかったみたいだ。状況を一番理解できていなかったのはもちろん俺だった。俺は、レックスってガチですごいやつだったんじゃないかと思い始めてきた。
とりあえず俺は倒れたオーガのもとへ向かった。峰打ちだったようだ。オーガは意識は朦朧としていたが、特に目立った外傷はなかった。
「なあ、アリス。こいつどうする?」
「とりあえず話を聞いてるのぜ。」
「どうやって聞くの?」
「私のスキルはダイアログ。どんな相手とも会話を成り立たせることができるんだ。」
アリスはオーガに、なぜ街を襲ったのか詳しく尋ねた。尋問を終えたアリスはオーガから聞いたことを俺に話した。
「自分の縄張りに入った人間に急に襲われたんだってさ。」
「人間に……。なんで?」
「この世界にはね。名声や金のために魔物を狩るやつがいるんだ。より強い魔物を狩ると、より高い報酬が貰えるんだ。そうやって魔物を狩るやつを人は勇者って呼んでるんだ。」
「勇者……。どこがだよ。」
「そういう世界なんだ。」
「……。」
その日、俺はシュバリエを救った英雄として、街の長に呼ばれた。
「いやぁ、よくこのシュバリエを救ってくれましたね。街を代表してお礼申し上げさせていただきます。」
街の長の老人、キヌスは俺に頭を下げた。
「……。その話しはもういいです。それよりも、街を救った英雄として、あなたに提案したいことがあります。キヌスさん。」
「なんでしょうか?」
キヌスは街の人々を広場に集めた。俺は英雄としてみんなの前な立った。
「街の英雄だ。」「ケンイチ様ーっ」
俺が広場に出てきた瞬間、とてつもない歓声が鳴り響いた。全然静まる気配がしない。俺は十数年の人生で初めて、学校の先生の気持ちがわかった。
「さあケンイチ殿。皆にお言葉を。」
「えー……。俺が、このシュバリエを救った英雄、小野田健一だ。俺は今回のオーガのことじゃなくて、みんなに話したい……。いや、提案したいことがある。」
「なんですか?」
周囲が少しざわつき始めた。
「お前ら、魔物と仲良くしてくれないか?」
俺はオーガの方を指差して言った。
「は?」 「どういうことだよ。」
周囲が更にざわつき始めた。
「確かにこいつはみんなのことを襲おうとした。でも幸い死傷者は誰もいなかった。」
「それはそうですが……。仲良くとは?」
一人の男がそう言った。周囲の人も同じような反応を示した。
「俺は今回みたいなことにならないように、魔物の保護活動を始めようと思う。魔物が人の手で傷つけられない地域を作りたい。でもそんなことするには人員は必要だ。誰か協力したいという者がいるなら俺に声をかけて欲しい。」
「それは……。」
「このオーガだって人を襲う気はなかったんだ。ご立派で気高い勇者様に襲われたんだとさ。もちろん、喧嘩両成敗ってことでオーガにはきつく指導しておく。」
「俺からの話しは以上だ。。」
その後、キヌスの長ったるいありがたいお話を聞いて、その日は解散となった。家につくとアリスが話しかけてきた。
「ケンイチ、やっぱお前ぶっ飛んでんな。最高だわ。」
「……した。」
「どうした?ケンイチ。」
「マジで……。緊張した。」
俺は現世でも、あんまり人と話したことがなかった。
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