第11話 眷属契約
フィルムの街に向かう途中。丈二はサニーの背の上で彼女を眷属として迎えたときのことを思い出していた。
彼が迷い込んだ暗闇空間の先にあった「箱庭」と呼ばれる元の世界からこの世界へと繋がった入口の世界。そこでの試練の中、南風の聖霊ノトスに気に入られ共に冒険をと願われた。
暗闇と箱庭の試練において、精神的に挫けそうな場面が何度もあり、それを優しく包んで癒してくれた風。
それこそがノトスであり、そして、「そのノトスを見つけることが出来るかどうか」…それが箱庭の真試練のであったことから、丈二は、彼女ならば旅の友に、と女神ケレースに伝え、分体としての眷属契約を行ったその時のことである。
※ ※ ※ ※
彼が見つけた聖霊は、白と銀の毛を纏い凛とした狼であった。それは、暁 丈二が思う風のイメージ。
その一匹の狼と目の前にいる男は、かれこれ10日は見つめあっている。
いや…眼を飛ばしあっている。
◇
「いや~想像はしてたっすけど、1日ちょっとで箱庭をクリアしたのに10日目っすよ?このメンチ合戦。」
女神ケレースが欠伸をしながら言う。
「なぁなぁ。ケレースさん。ノトスさんと多分パスってのは繋がっていると思うんだけど、『眷属になって!いいよ!みたいな感じっす。』ってのが分かんないすけど。」
丈二にケレースが教えた契約の仕方は、マナを感じてパスを繋げる。そして眷属になってと聞いて了承されれば終わり。それだけであった。
「そうっすねぇ~。ノトスの分体の方もそれは分かっているみたいっすね。声は聞こえてるんすか?」
「あぁ。ガウッとか、ワゥオ~ンみたいなのはわかるぞ?」
「ふぇ?何で犬語なんすか?」
「え?狼だからだろ?」
「え?」
「ノトスは聖霊で、ジョジさんのイメージで狼になってるだけっすよ?分体と言えど、あたしと同じで言葉ぺらぺらっすけど?」
「え?」
「う…ん。では、ジョジさん。しゃべれる狼をイメージしてみてくださいっす。後、名前って付けました?」
「え?ノトスさんじゃないのか?」
「え?分体眷属なんで便宜上ノトスって呼んでますけど、名前はないっすよ?分体ですから。そもそも眷属契約なんで、名前を付けるに決まってるじゃないっすか?あふぉなんですか?」
「そんなこと知らねーよ!お前が行ったの「眷属になって!いいよ!でOK」だけじゃねーかぁあ!!!」
普通そんなことなんて知らんわ!何この糞堕女神。。
「はぁ~ジョジさん。『人生のほとんどすべての不幸は、自分に関することがらについて、あやまった考え方をするところから生じる。できごとを健全に判断することは、幸福への大きな第一歩である。』って言うじゃないっすか。その無知がこの不幸を生んでるんすよ?」
「お前も今のこの状況が面倒臭いと思ってるんだったら、ブーメランだからな。それ!!」
「あたしは楽しんでますからそうはならないっすよ?ぷぷぷ。」
はぁ~もういいやと、改めて狼と向き合う。
どっかの墜女神より、素晴らしい聖霊だと心から思っているし、当然、堅い狼以上の存在だと、もともと理解している。
その考えを狼に対して真摯に向ける。
◇
《…んと、…に…。》
《本当にケレース様は!そうではないかとずっと伝えていたではありませんか。》
嘆いているというか、呆れているような声が頭に伝わってくる。
《あ。声が聞こえた。ノトスさんの分体さんですか?》
こんな感じかな?と白銀の狼に向けて思念を投げかける。
《え!そうです!そうですそうです!本当にうちの上司がすいません。すいません。》
《いえいえ…お互い苦労しますね。》
《・・・。》
《あの、本当にすみません。あんな上司のせいで、うだうだになってしいましたが、まだ私と契約して旅をご一緒させていただけますでしょうか?》
既に泣き出しそうな声だ。本当にあの上司で苦労してたんだろうな。
《もちろんです。あなたのおかげで俺はあの状況で自我を失うことなく今があります。それが恩返しになるなら、こちらからもお願いします。》
本心を真っすぐに伝える。
《よかった…。すごく嬉しいです。それなら、私の気持ちは決まっていますので、名前を授けて頂ければ契約は成就されます。あと…あなた様が主人の眷属契約となりますので敬語ではなくてよいのですよ。》
《あ。はい。恩を返したい思いが強い契約です。眷属契約の主従関係の側面は仕方ないとしても、会話はお互い敬語でと思っていましたので、慣れたらそうさせて頂きます。》
《あなたは変わっていますね。わかりました。私はそれで大丈夫ですよ。では命名を。》
う~んと悩みこむ。今まで名前なんてものを付けたことがない。それを初めて会う白銀の狼である聖霊に名前を付けるのである。結構難しい。
《南の暖かい風で雲を吹き飛ばし晴天なイメージ。台風を発生させるって考え方もあるかもしれないが、Sunny…サニーでどうでしょう?私たちの世界で太陽の日が降り注ぐ光を意味します。日の光は黄色や金色のイメージを持つ人が多いみたいなのですが、私には真白と銀発光なんです》
《サニー!太陽神様のようで恐縮ですが素敵な響きです!ありがとうございます。嬉しいです!》
気にいった…のかな?なら良かったと思いながらも、契約前に聞きたかったことを投げかける。
《ではサニーさんでお願いします。それで、契約の前にひとつ聞いてもいいですか?》
《はい何でしょう。》
《何故自分を気にかけていただいて、付いて来ていただけるのでしょうか。特に何か特別なこともした覚えもないですし。》
《はい…。とても単純なことで気を悪くなされないでください。実はあの寝床なのです。デブリ…ハットと言ったでしょうか。》
《え?あの簡易な寝床ですか?》
箱庭での生活の為、丈二が作った簡易的な寝床デブリハット。どうやらあれが気に入ってもらった原因のようだ。
《昔、あれと同じものをこの箱庭で作られた方がいたのです。その方も私を見つけていただき、色々なご縁もありお供させていただきました。その時の素晴らしい思い出が今のこの役割を続ける糧となっているのです。》
《はは。確かに単純…というか、その人もまた…デブリハットなんてマニアックなもの。たまたまの偶然でですよ?それに、自分みたいなのでは、その方のようにワクワクする思い出を見いだせないと思いますけどね。。》
《…多分それはないと思います。あなた様は私が風で導くとき、どんなに辛い状況の中でも、感謝の気持ちを心の中で言ってくれていました。実はそれもあの時と同じなのですよ。そんな方とまた旅が出来るのです。絶対楽しいですよ。ふふふ》
《それ…なら良いのですが。わかりました。それでお返しができるならそれで。では契約させていただきます。》
余程楽しかった思い出なのだろうか。笑い声がとても穏やかで暖かい。自分ではそこまで無理だなと思うが、せめて…その半分くらいは楽しい思い出をと丈二は誓う。
「それでは、サニーさん。俺の眷属になってくれませんか?」
「はい。喜んで。」
こうして丈二とサニーは眷属契約を結んだのであった。
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