017 アヴァランチ

「あははは。マリア経由でずいぶんと無茶な話を持ってきたとは思ったんだけどねぇ。いやはや、さすがにキッチリとこなしていく」


 闘技場のVIPルーム。領主や貴族の面々を招くために用意された特別な観客席に座っているミーアが、笑いながらそう口にした。

 眼前ではルッタがその日の八戦目の試合を行なっていた。ここまでの試合はすべて危なげなく勝利し、現在の試合もルッタ優勢で進んでいる。

 とはいえ、すぐに試合が終わる……という雰囲気でもない。第一試合以降は速攻で仕留めることをせず、武器も全ての試合で相手と同じ武器を選び、また試合運びも相手に合わせて色々と変えているようだった。


(対戦相手にはたまったもんじゃあないだろうが、ありゃ完全に探ってる動きだね。マリアの言っていたことを当人も理解していたわけか)


 タイフーン号と合流した日、ゴーラ武天領軍を圧倒したルッタの実力があればクロスギアーズも優勝できるだろうとミーアは口にしたが、マリアだけはそれを否定していた。

 その理由がブルーバレットは竜雲海での戦闘を前提にした構成で、闘技場での戦いに特化してはいないから……というものだった。ルッタの操縦技術は疑いようのないものだが、真に剣闘士グラディエーターとして鍛え上げた乗り手と機体が相手の場合は敗北もあり得るだろうと。

 後にミーアも同じようなことをルッタ当人に聞いていたし、少なくともクロスギアーズ参加者のひとりにはおそらく勝てないだろうとも返されていた。


(で、その勝てないって相手の名前が『カイゼル・イシカワ』だったか。今まで聞いたことのない名前だけど、あの子があそこまで警戒しているっていうのは……よく調べておいておいた方が良いかもしれないね)


 近接専用機を操り、その上でルッタと並ぶ実力者。それはルッタという規格外を知ってなお、妄想の産物に近い怪物だ。

 なお調べる過程で警戒の意味が別のモノに置き換わる可能性があるので、調べないほうが良いと思います。

 ともあれ、そんなことを考えているミーアの隣では、この天領の領主ミド・シェーロニアが興味深そうにルッタの試合を見ていた。


「なるほど。報告を聞いた時にはどんな冗談かと思ったものだが。ギアくん、君のところの子はずいぶんと、その……色々と凄いな?」

「ハハハハ。そのようですな」

「ルッタだもの。当然」


 ギアは疲れた顔で笑っているがその横にいる、リリはムフーと自慢げだ。


「色々と骨を折っていただき、感謝いたしますミド様」

「なぁに。構いはしないよ。最近は物騒な話題も多いからね。こういう町中が湧き上がるような催しなら大歓迎さ。ただ、まあ」


 ミドが手に持っているチラシを見て、苦笑する。


「躊躇なく領主の権力を頼って、こんな要求をしてきたのには笑ってしまったがね。『ルッタ・レゾン序列上位最速チャレンジ』。シェーロ大天領中の剣闘士グラディエーターをぶっ飛ばす……なんて大言壮語を実際に行うような真似をするとは」


 笑うしかないという顔だった。


「権力を使って楽をしたい、手間を省きたいというのなら分かるが……ここまで自分を追い込むような無茶を頼まれたのは初めてだよ」


 その言葉に肩をすくめながらも、ギアは嬉しそうにこう返した。


「ま、そういうヤツなんですよ。ルッタ・レゾンっていう少年はね」




———————————




「ふぅ。結構疲れたなー」


 試合を終えて闘技場内ガレージに戻ってきた機体『アヴァランチ』から降りたルッタは、その場で床に大の字で倒れながらそんな言葉を口にした。

 本日の試合はすべて終了。速攻で終えた第一試合以外は上手い立ち回りを見せながら、ルッタは危なげなく全十試合を勝利した。もっとも、危なげないからといって、ルッタが消耗していないというわけではない。


「飛ばし過ぎだぞルッタ。お前ならもっと楽に倒せただろうに」


 コーシローがルッタに果実水を渡しながら、そう苦言を口にする。


「それじゃあお客さん、退屈でしょ」


 ルッタの返しにコーシローがため息を吐いた。


「お前。四日で四十試合やるんだろ。持たないぞ」

「ちゃんとペースは考えてるよ。でも今はこれでいいんだ。ギンナさんも言ってたけどね。俺には剣闘士グラディエーターとしての経験が足りない。ちゃんと相手の技術を咀嚼して、剣闘士グラディエーターとしての立ち回りを身につけていくのが今回の目標。上に行くほど、こちらの意図通りに立ち回るのは難しくなるだろうから、今がチャンスなんだよ」

「まあ、そりゃあな。このシェーロ大天領の闘技場はヘブラトに近い分、実力者も揃ってる。明日明後日と進んでいけば、そりゃあ楽には行かないだろうさ」


 コーシローもルッタの技量を疑ってはいない。

 けれどもある程度の実力者を相手に、今のようなペースで戦い続けられるほどの体力があるとも思ってはいなかった。

 一応、休息日が一日挟んでいるために四日目だけは一日空けて行われる予定だが、ルッタの試合ペースが通常ではあり得ないのも事実なのだ。

 最近はそうでもないが無茶をしてぶっ倒れるのには定評があるルッタくん。コーシローが心配するのも当然のことだった。


「大丈夫だってコーシローさん。この機体もすっごく扱いやすいし。一年ぐらい放ったらかしにしてたって話だけど、元はよく整備されてたんだろうね」


 ルッタが見上げた先にあるのは、外観はボロボロの機体だ。ランダン機人商店で見つけて『アヴァランチ』と名付けられたソレは、ルッタとコーシローによる急ピッチの修理によって戦闘可能な状態にまで仕上げられていた。といっても元々見た目ほどにオンボロというわけではなかった。

 どうやらこの機体を売った乗り手の扱いが酷かったらしく、全身を打ちつけた後に恐らくは段差に落ちて、背骨のフレームを捻じ曲げてしまったようだった。外観がボロボロなのはそのまま放置されていたからで、背骨のフレームを新規で購入したためにソレなりの費用がかかったが、動作に関しての問題はない。

 加えて、可動部位をブルーバレットのドラグボーンフレームの予備パーツを入れ替えたために以前よりも機体の負荷に耐えられるようにもなっている。


「一緒に整備してたんだから分かってるさ。元は名の知れた剣闘士グラディエーターの機体だったんだろうな。設定が近接よりにピーキー過ぎて売った人間には扱いきれなかったみたいだが」

「だねぇ」


 コーシローの言葉にルッタも頷く。


「それでルッタ。機体名は本当にそれで良かったのか?」

「コーシローさんが候補にあげた名前でしょー。こだわりはないし、カッコよくない? 『アヴァランチ』」


 ルッタがそう言って乗っている機体を撫でる。

 アヴァランチの名はコーシローが候補に挙げたもののひとつだが、それは風見一樹のセカンド機の名称である。ブルーバレットに続くセカンド機であれば……とルッタが了承したのも自然な流れであった。




———————————




初期機体で立ち回りのお勉強中。

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