第154話 変わり者のオーク

 リズウィンの提案で俺は桃乃を抱きかかえドーリの家に向かった。


「おっ、やっと帰ってき……ももちゃん!?」


 笹寺はドーリと何か話していたのか、ぐったりした桃乃に驚いていた。言葉が通じないのに、会話できる笹寺のコミュニケーション能力の高さにはびっくりだ。


「あー、MP切れらしいよ」


 俺の言葉に笹寺はすぐに自分のステータスを確認する。


 以前はなかった笹寺のステータスや装備一覧は、今回一緒に異世界に来たことで新たに追加された。そして、いつのまにか俺達はパーティーとなっている。


「俺もあと少ししか残ってないわ」


 どうやら笹寺の鍛治スキルは魔法扱いなのか、MPを消費するらしい。素材の形態を変えるたびに、消費していくため戦うときはMP管理も大事になるだろう。


 俺は桃乃を笹寺に預けると一人で集落を後にした。


 桃乃と笹寺が動けないため、俺一人で周りの探索をすることにした。


 正確に言えば探索は二の次で、メインはスカベンナーのベンを迎えに行く予定だ。


 基本的にベンは以前ドーリが住んでいた集落にいるはずだが、今回異世界に来た時はなぜかベンの姿はなかった。


 さっきまでいた集落はリョウタの存在が、魔物を寄せ付けない。ベンもあまり付いてこないため、そのまま気にせずにドワーフがいる集落にきたのだ。


「おーい、ベンー!」


 俺は集落に着くとベンを呼んでみる。だが、一向に出てくる気配がない。


 辺りを探しても特に居る様子もなく、集落は静寂に包まれている。聞こえてくるのは俺の歩く音だけだ。


 そんな中、建物の中からゴソゴソとする音が聞こえてきた。俺が急いで向かうと、何かを物色しているオークの姿があった。


「またお前らかよ」


 俺はすぐに魔刀の鋸を取り出し、背後から大きく踏み込む。気づいていないなら、すぐに対処したほうが良いだろう。


「おおお、オラは戦う気はないぞ」


 魔刀の鋸を首元に近づけた瞬間にオークが話しかけてきた。どうやら俺の存在がバレていたようだ。


「それでこの集落になんのようだ?」


「ブホッ!? お前オラの言葉がわかるのか?」


「わかるも何も同じ言……いや、わかるぞ」


 自動翻訳の影響でオークの言葉はわかっている。ただ、普通の人であればわからないのが当たり前だろう。


 俺もオークと話す機会があるとは、思いもしなかった。


「ドワーフなのに珍しいんだな」


「いや、俺はドワーフではないからな」


「えっ!?」


 オークは恐る恐る顔を動かし、俺の顔を見ると大きな声を出して驚いている。


 そんなに人間が不思議な存在なのだろうか。確かにドワーフやオークとは違うが、どちらも見た目は人に近い。


 オークは俺を見て急に震え出す。


「オラを食べないでくれ……しゃぶしゃぶやトンカツにはなりたくないのだ」


 オークの口から出てくる言葉に、俺のお腹は刺激される。


――グー!


 大きく腹から音が鳴った。そういえば、こっちに来てから、まだ何も食べてはいない。


「あー、最近食べてないから良いかもな」


 冗談で言ってみたが、オークは恐れてその場で土下座していた。


「オラを食べても美味しくないぞ!」


 そんなこと言われなくてもわかっている。豚に近くても、見た目は人間だ。それでもせっかく話すチャンスなら、この場でオークジェネラルの居場所を聞いても良いだろう。


「食べられたくなければ俺にオークのことを教えてもらってもいいか?」


 なんとも人間っぽいオークに、まずはオークの情報を得ることにした。


「教えたらトンカツにはしないよな?」


 オークは顔をチラチラと上げ、俺の様子を伺っている。少し睨みつけると、体がビクッとしていた。


 どこか弱いものいじめをしているようで、胸が締め付けられる。


 オークはそのまま体を起こし、正座の状態で俺と話す準備をしていた。目の前のオークは性格も攻撃的なオークとは異なり、人間味が増している。


「オークってお前みたいに人間ぽいのか?」


「ほんとか!? オラはずっと人間に憧れていたんだ」


 人間に憧れるオークってことはオークは元々人間とは違う生物ということになる。さらにオークの生態が謎に包まれる。


「村でもよく変わり者だっていじめられていたんだ」


 どうやらオークの中でも性格の違いによって虐げられることがあるようだ。


 中々人に言いにくいことを目の前にいるオークは何事もないように話している。


「じゃあ、オークの集落はどこにあるんだ?」


「オークの集落ですか? オークは基本的にドワーフ達と同じで集落に暮らしているぞ」


「へぇ……それはドワーフを襲って得た集落だよな?」


「そっ……それは……」


 俺の言葉でオークは戸惑っている。頭からは冷や汗が流れて体は小刻みに揺れていた。もはや小刻みに揺れ過ぎて、何かダイエット器具に乗っているのか足元を見てしまうほどだ。


 それなりにオークの中でも、彼みたいに罪悪感を感じているものもいるのだろう。


「申し訳ない」


 やはり人間味溢れるこのオークは、他のオークとは違う気がした。少しでも違う存在は、仲間から虐げられることが多い。


 人間でもセクシャリティや障がいなど、それが個性と受け止められないことと似ていた。


「今までオラ達は人間の生活に憧れていたんだ。みんな命懸けで、ドワーフの動きを観察しつつ人間に近づくために努力をしていたが無理だったんだ」


 オークが人間になるのは流石に無理があるだろう。偶蹄目ぐうていもくである豚は、蹄の関係上どうやっても道具は扱い辛いはずだ。現に目の前にいるオークの手も五本指ではない。


「そんな矢先王女様が現れた。自分達がドワーフより上の存在になればできないことはないと……奴隷にやらせればいいと」


 きっとこのオークが言っていると王女様とドワーフ達が言っていた彼女とは同じ存在なのだろう。


 SM嬢がオークを唆して、オークができないことをドワーフを奴隷としてやらせればいいと言ったらしい。


 どこか我が社のブラック企業感と似ている。


「それからみんな変わってしまったのだ」


 オークはその後も、自分達の今まであったことを語り出した。

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