第96話 自動アイテム生成
トレントに見送られた俺達は再び砂漠の探索を進めながら、討伐対象であるオークを探す。
マッピングをしているのは桃乃だから先に歩いたほうが楽なんじゃないかと一回提案した。しかし、"後衛職に前を歩けと言うんですか。それパワハラ案件ですよ"と言われたから渋々桃乃の前を歩いている。
桃乃がマッピングした地図を共有出来たら動きやすいが、まだお互いに共有するスキルはないらしい。
毎回俺の真後ろを歩いているが、横にズレると桃乃も一緒にズレるのが気になる。
「ひょっとして俺を日傘にしてないか?」
「いえ、動く日傘だとは思ってませんよ」
「ああ、そうか」
ジリジリと日が当たり、気温も高く暑いからか、俺もおかしく聞こえたのだろう。
ただ歩くだけでは退屈に感じ、トレントからもらったヤシの実を取り出した。効果を確認していないため、どんな効果があるのかは知らない。
――――――――――――――――――――
《トレント亜種の実》
効果 食べるとわずかに火属性耐性が上がる
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もらったときに確認しておけば良かったと今頃後悔した。
どうやらこの世界には属性耐性というものが存在しているらしい。確かに桃乃が属性魔法を使うため耐性があってもおかしくない。
「ももちゃん朗報だよ」
「ちょっ、先輩急に止まらないでくださいよ。日に当たっ――」
「やっぱり日傘――」
「先輩朗報ってなんですか!?」
俺が話す前に遮られてしまった。ただ、これで火属性耐性が上がって、体感温度が変われば問題はない。
「さっきもらったトレントの実を食べると火属性耐性が上がるから暑く――」
「いただきます!」
桃乃は俺からトレントの実を奪い取ると、ハムスターのように
「ってこんなの食えねーよ!」
やはりトレントの実は簡単には食べられないようだ。
無惨に転がるトレントの実を俺は眺めていた。少し仕返しができてよかった。
たしかにヤシの実って硬いから割る必要があるが、桃乃がウォーターカッターを使ってみるが、切れ目もつかない。
単純にキラーアントの体よりも硬いということだ。
それを齧った女性はこの世で彼女しかいないだろう。
「どうやっても食べれないですよね?」
「ああ、なんかスキルとかで……」
俺は異世界へ来たときに新しいスキルを手に入れたことを忘れていた。
――自動アイテム生成
これを使えばトレントの実で何かアイテムを生成できる可能性があった。単純に割れれば問題ない話だ。
俺はアイテムを開くと小さく"自動アイテム生成"の文字を見つけた。こんな小さく書かれてると、気づくまでずっと使わなかっただろう。
「ももちゃん朗報だよ!」
「先輩、もうその手には乗らないですよ」
桃乃は俺をジトーっと見ている。いや、今回は本当に朗報なんだ。
「新しく手に入った自動アイテム生成のスキルの使い方がわかったよ!」
「ちょっ、それ早く言ってくださいよ! トレントの実どうにかできそうですね」
「いやー、文字が小さくて見えなかったんだよ」
自動アイテム生成を押すと何か壺のような釜のようなものが出てきた。
あれ?
これは昔やったゲームに出てきた物に似ている。ちなみに壺を割ったら元に戻る仕組みだろうか。
「先輩これなんですか?」
「えーっ、自動アイテム生成?」
俺も急に出てきたから何が起こるのか全くわからない。
「とりあえずトレントの実を入れてみるわ」
俺は蓋を開けてトレントの実を入れると、別のウィンドウが表示された。
――――――――――――――――――――
《耐熱ポーション》
効果 飲むと一定期間熱に強くなる
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欲しかったアイテムについ感動してしまう。火属性耐性って部分は含まれてはいないが、耐熱なら問題はないだろう。
「ももちゃん耐熱ポーションができるらしいけど作った方がいいよね?」
「ぜひ、お願いします」
俺は自動アイテム生成の開始ボタンを押した。どこからかまたAIのようなデジタル音が流れてきた。
今回はボタンを押したときにメロディーが流れるという、家電製品感が醸し出されている。
【今から自動アイテム生成を行います。完成時間残り5時間です】
「……」
「先輩どうしました?」
俺の聞き間違えだったのだろうか。俺は再度自動アイテム生成を押すと、そこには残り4時間59分と表示されていた。
伝えないといけないと思いながら、どこか桃乃には伝えにくい。紫外線は女性の天敵というぐらいだから、今すぐにでも欲しいだろう。
「5時間後にできるって……」
「えっ!?」
桃乃を見ると、今まで見たことないような、冷たい目で俺を見ていた。
そもそもこの自動アイテム生成が謎スキルなのが問題だ。アクティブスキルではないことも、この時間の長さが関係しているのだろう。
あまりの悔しさにトレントの実を遠くへ投げ飛ばした。
「まぁ、気を取り直し……」
桃乃はまだ冷たい目をして、俺の方を見ていた。そこまで日焼け止めが欲しかったのか。
彼女の視線に背筋がひんやりする。
「期待させてすみません」
謝るとやっと普段の優しい桃乃に戻ったようだ。俺はさっきまで浴びていた、冷たい視線で耐熱ポーションの必要性が無くなった。
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