第91話 再び異世界へ
俺は桃乃と共に穴の中に入った。さっきも思ったが普段と同じ真っ暗な空間なのに、どこか違和感を感じる。
「先輩、やっぱり何かがおかしいです」
桃乃もやはりこの違和感を感じているのだろう。どこか異世界までの道が広く感じられるのは気のせいだろうか。
いつもは穴を直接まっすぐ進んでいくため、俺は壁に手を触れながら進んでいた。
「あっ、あれ?」
急に手が触れていたところから壁が無くなっていた。今までなかった新たな空洞が途中からあったのだ。
「ここだけ壁がないぞ」
俺は後ろにいる桃乃に伝えると、桃乃も普段から壁を伝っているのか同じような反応をしていた。
そもそも穴自体が真っ暗のため、中の構造が未だにどうなっているのかわからない。
ただ、一本道だと思っていた穴の中に分岐するところがあったのだ。
今まで存在してなかった道に俺達は戸惑っていた。
これまでと違うこの変化は、きっと先に何かあるのだろう。
「よし、行ってみるか」
俺達はそのまま隙間を通り、再び壁に手を触れて進んでいくと、いつものようにアナウンスが流れた。
【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、ステータスが一部上昇します】
さっきは聞こえなかったデジタル音声が聞こえてきた。
【ETF内訳セクター生活必需品20%保持。カテゴリーパッシブスキル自動アイテム生成を獲得】
少しずつ分散投資のために買った生活必需品セクターのETFが20%に到達したようだ。一体何をもって20%なのか未だにわからない。
自動アイテム生成って名前からして便利そうなスキルだ。
【今回の討伐対象はオークです。制限時間は10時間です。それでは本日も頑張って家畜のように働きましょう】
【第二区画の解放です】
目の前が明るくなると同時に目を閉じた。久しぶりにコボルト達に会えるのだ。俺の胸の中は久しぶりの癒しに胸が高鳴る。
いつもならコボルトの鳴き声が聞こえるだろう。
いくら経ってもコボルトの鳴き声は聞こえず、肌に感じるのはジリジリと皮膚が焼かれる痛みと暑さだった。
目を開けるとそこには広大な砂の上に桃乃と二人で立っていた。
「えっ……砂漠!?」
俺は砂漠の真ん中に取り残されるように立っていた。どうやら周りには魔物の存在はなく、コボルトも見当たらない。
「先輩……日焼けしちゃいます」
目が慣れてきたのか、桃乃はインナーを脱ぎ頭に巻いていた。
「ヒジャブか!」
自然とツッコミを入れていたが、頭の中では
「日焼けすると赤くなって痛いんです」
桃乃の肌は色白なため、焼けたら黒くならずに赤みと痛みだけが残るのだろう。
それにしてもインナーを巻いている姿は意外にも似合っていた。
「砂丘にも行ったことないけど、砂漠を手軽に行けるって思うと異世界旅行もいいですね」
異世界旅行にしてはかなりの命がけだが、桃乃は思ったよりも能天気でポジティブだった。
俺なんて入ってきた穴の入り口が風と砂でどこにあったのか分からず困っているっていうのに……。
そう、来た時にすぐ穴の場所を見失ってしまった。
「とりあえず今回の討伐する魔物はオークだから探しながら考えましょう」
桃乃が言った通りまずは魔物を倒すのが先だ。
今回は"オーク"が討伐対象のため、ファンタジーに良く出る大きな豚や猪みたいな魔物を探せばいいのだろう。
俺は視界の端にある地図のマークを押した。
以前ドリアードの依頼でキラーアントの居場所がわかるようになってから解放された機能だ。
「……」
「先輩どうしました?」
「地図が……ない」
まさかと思ったがあの地図機能は第一区画のみに適用されるものだった。
自分でマッピングをしなければ、ここの砂漠で迷子になり、現実世界に帰れずに野垂れ死ぬ可能性がある。
書く物も目印になるものもない俺達は積んでしまった。
俺は頭を抱えて困っているが、桃乃は特に気にしている様子はない。
「ももちゃん帰れなくなるぞ……」
「大丈夫ですよ! 情報技術セクターでパッシブスキル
「えっ!?」
まさかの桃乃が優秀なパッシブスキルを手に入れていた。
同じ情報技術セクターのETFを買っていても、手に入るスキルは全く違うらしい。
俺達は桃乃の自動マッピングを使いながらオークを探すために砂漠の中を歩くことにした。
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《ステータス》
[名前]
[能力値] 投資信託7,100,000口
[固有スキル] 新人投資家
[パッシブスキル]
[魔法スキル] 木属性魔法
[称号] 犬に好かれる者
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