第88話 突然の訪問

 あのニュースを見てから、なぜスキルは清香さんの記憶を見せたのか疑問に思っていた。そのことを知るには再び庭のに入らなければ真相はわからない。


 俺は今日の休日をしっかり体を休ませる日にするつもりだけど。最近仕事が忙しく、定時に帰ることが出来なくなってきたのだ。


 そんな中、睡眠を妨げるように突然インターホンが鳴り出した。しかも、しつこく何回も鳴らしてくるのだ。


「いい加減にしてくだ――」


 俺は急いで玄関の扉を開けると、そこには隣に住むおばさんがいた。


「あら、今日はお家にいたのね! 慧くんおはよう」


「おっ……おはようございます」


 俺は急いで笑顔を作り微笑んだ。


 内心は人の休みを邪魔したことにイライラしている。


「最近忙しそうにしてたから、今日もおかずを持ってきたわ」


「ああ、すみません。仕事が忙しくてカフェで作業してることが多かったので……」


 ゲームの発表資料をまとめるために、ここ数日の休みはカフェで仕事をしていた。


「そうなのね。この前も作り過ぎたから食べてもらおうかと思ったけどいなかったからね」


 俺がカフェで仕事をしている時も、おばさんは家に来ていたらしい。そんなおばさんに対してイライラしていた自分に罪悪感を感じてきた。


 おかずを持って来ても、俺がいないことを知って帰ることが多かったため、確認のためにインターホンを連続で押して確認していたのかも知れない。


「いつもありがとうございます」


「いえいえ、そういえばこの前の彼女はいないのかしら?」


 この前の彼女ってことは桃乃のことだろうか。見た目が可愛い系だから、この人も桃乃のファンになったのだろうか。


 ちなみに会社で桃乃は男性社員のアイドルみたいな存在になっているらしい。


 窓の掃除に来ている他業者にも挨拶して、手を振る姿から、総務のマドンナと呼ばれるようになったとか……。


「今日は来てないですよ」


「たくさん入れたけど大丈夫かしら?」


「いえいえ、住んでるところが近いから呼び出しますよ」


「あら? なら彼女にも美味しかったか感想と好きな食べ物を聞いてもらえると嬉しいわ。私の唯一の楽しみだからね」


 その後も少し話しておばさんは帰って行った。なぜかこれからも桃乃の分も作ってくると張り切っていた。


 俺はテーブルにもらったおかずを置き、桃乃に連絡をしようとスマホを触っていると、再びインターホンが鳴った。


 おばさんはまた何か渡し忘れたのだろうか。俺はそのまま確認せずに扉を開けた。


「もし良ければお家の――」


「ハロー!」


 そこにはスレンダーな女性が立っていた。


「秘書さん!?」


 ピチッとしたスーツに胸元のボタンが開き、高いヒールを履いたアメリカ社の社長と一緒にいた秘書だった。


「あら、この前の奴隷……ミスター服部ね」


 開口一番にイラッとしたが、言い換えたから許してやろう。誰しも一回は間違えるだろう。


「なぜ秘書さんが家に?」


「私は秘書じゃなくてマリアンナって名前よ」


 家に来てまで自己紹介をする理由はない。何か理由があって家に来たのだろう。俺の考えが伝わったのか、マリアンナは話し出した。


「簡単に言うわ。私達にこの家を売りなさい」


「はぁー」


 ここ最近常に耳にする言葉にため息が出る。ひょっとして、最近の広告や電話はこの人によるものだろうか。


「安い額で買い取るわけではないわ。この家の相場の3倍は出してあげるわよ」


 この家に住んで15年近くになるが、建物自体の価額は下がっているだろう。それの3倍になっても、さほど高くない。


「それでも断ります。大事な家なの――」


「なら、交渉するわ」


 自分が上だと思っている人は、なぜここまで人の話を聞かないのだろうか。


「あなたはあの穴が見えるかしら?」


 突然言われたことに一瞬動揺してしまった。その様子を彼女は見逃さなかった。


「あなたも見えるのね。中に入ったかしら?」


 こういう時に精神耐性を持っている桃乃であれば、バレなかっただろう。俺は咄嗟に首を横に振った。スキルが発動し頭の中がフル回転して反応を示す。もうミスするわけにはいかない。


「なら、なぜ魔物が溢れ――」


「あの穴に何かあるんですか?」


 何かを考えている彼女に声をかけた。このまま話を優位に持っていけば、うまくいくだろう。


「そうね。中を見ればきっと家を売る気になるわ」


 ん?


 この展開は俺と一緒にに入るということだろうか。


「私が守ってあげるからついてきなさい」


 俺は彼女に腕を掴まれ穴の中に入って行く。絶世の美女に腕を掴まれ、俺の腕は彼女の大きな胸に触れていた。


 俺の心ははち切れ……いや、はち切れそうになるのは体の違う部分だった。

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