第86話 新たな仕事
あれから仕事は特に何か起こることもなく忙しなく働いている。プライベートであるとすれば……。
「先輩何を見てるんですか?」
「ああ、最近なぜか
俺が手に持っているのは"マイホームを買い替えませんか"と大きく書かれた広告だった。
「先輩あの家を売る気なんですか?」
「いや、売る気は全くないよ。
異世界に行くことを考えるとあの穴は必要になる。それ以外にも家族が残してくれた家を売りに出すことなんて考えてもいない。
「確かに売ったら勿体ないですからね?」
「それでも毎回こういうのを入れられると気分的にあまり良くないよな。最近は電話もかかってくるんだよ」
夕方頃になるとどこからか俺の携帯電話に電話がかかってくる。広告が入っていた会社とは違うが、同じような内容の電話だった。
勿論どこで情報がバレたのかはわからないが、すぐに迷惑電話の登録をしたら、それからはかかって来なくなる。しかし、昨日はまた違う会社から電話がかかってきたのだ。
「なんかきな臭い感じもしますね」
「だから気をつけないと――」
「服部ちょっと来い!」
また部長からのお呼び出しコールがかかった。あの日から部長のオーラは再び真っ黒に変身していた。
「ちょっと行ってくるわ」
俺は部長に呼ばれたため向かうと、部長は何か頭をかいていた。
「部長どうしましたか?」
「ああ、これってお前がまとめたやつだよな?」
部長の手には以前俺がまとめた資料を持っていた。
「確かにそうですね」
「これを詳しくまとめて、発表できる形にしてくれと言われたんだがな」
そう言って部長は俺を見ていた。まとめるのは良いが、発表する形にまとめるのはそもそも違うし、総務課がやる仕事なのか疑問に思う。
そして俺は男に見つめられても、そんな趣味はない。
「でも発表するってなると部長がまとめた方がいいですよね?」
「発表するとも言われてないから、たぶん大丈夫だと思うぞ」
「それなら別にいい――」
「おー、そうか! 服部はそんなにこの仕事がやりたいなら任せよう」
部長は俺の肩を叩きながら手に資料を握らせた。
必死に手を開かないようにしていたが、何度も開かせようと叩くため俺は
完璧に仕事の押し付けだ。そもそもまとめることは簡単にできるが、発表形式で準備するのはその人に任せた方が良いはずだ。そもそも俺は引き受けたつもりもない。
「さぁ、仕事に戻るんだぞ。俺は少しタバコ吸ってくる」
部長はそそくさとオフィスから去って行く。
「今のは元々押し付ける気でしたね」
席に戻った俺に桃乃は笑っていた。
「また変な仕事を任されたわ」
「ご愁傷様です。内容もある程度理解しないと発表用にまとめられないから大変ですよね」
ただ資料をまとめるのとは違い、発表用ということはある程度書いてある内容を理解する必要がある。
内容的にも開発部門が行う内容をなぜ総務課に回ってきたのかもわからない。
「しかも内容がゲームに関するやつなんだよな」
「あー、最近吸収したVRを扱ってる会社のやつですよね?」
最近経営困難となった会社を買い取ったため、その会社の仕事が経営の見直しとして、たまに俺達のところに仕事が回ってくることがあった。
本当に俺のいる部署は何の仕事をするところなんだろうかと疑問に思う。
「先輩ゲームとかするんですか?」
「いや、最近はあまりやらないぞ? 異世界へ行くことになった時に勉強のために買ったけど、操作が難しかったからな」
「最近はオープンワールドのゲームが多いですからね?」
「オープンワールド……?」
俺は初めて聞いた言葉に首を傾げていた。そんな姿を見た桃乃はなぜかワクワクとしていた。
そんなに俺に教えたかったのだろうか。
そういえば、異世界に行った時から桃乃はなぜかシステムの理解が早かった。いわゆるオタク女子というやつなんだろう。
「オープンワールドって……異世界に行っている感覚に近いと思いますよ?」
「どういうことだ?」
「仮想世界を自由に動き回って探索とか攻略する設計になっているデザインのことなので――」
「あー、だから異世界に近いのか」
異世界に行った俺が主人公で色々な敵を倒してお金を稼ぐことがそもそもゲームに近い感覚だ。
それを基本的に自身で行き先も探索する場所も選択できるため、この状況こそがオープンワールドなんだろう。
「そういうことですね。そう思うと意外にリアルでVRみたいなゲームを体験していたことになるからまとめやすいかもしれないですね」
「とりあえずしばらくこの仕事をやるから、迷惑かけるかもしれ――」
「ははは、服部は今まで通りの仕事も任せるぞ」
いつのまにか後ろに部長が立っていた。たばこから帰ってきたのだろう。
それにしても仕事中にたばこを吸うなんて何を考えているのか。
オフィスの中が臭くなるから、ある程度臭いを消してから帰ってきてもらいたい。
こういう人を若者の中では
たばことコーヒーのWパンチで加齢臭もしたら、みんなが離れていくだろう。ただでさえ、女性が多い部署のため、人一倍気にする必要がある。
「それって……」
「まぁ、服部は今日から残業だな!」
部長はそう言って自身のデスクに戻って行く。
笹寺のこともあり転職を考え、やっとできた時間を転職活動として行動に移そうと思った瞬間、俺はまた社畜の世界に落とされてしまった。
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