第49話 奴らの住処は死体でした
死体から出てくるということは、体全体が柔らかく無脊椎動物に属するのだろう。俺はスライムに詰め寄りスコップを大きく振りかぶった。
「えっ?」
スライムはまさかのスピードで体を裂いたり、体を逸らすことで俺の攻撃を軽く避けている。やっと俺を敵として認識したのだろう。だが、攻撃が当たらなければ倒すこともできない。
スライムは急に震えだすと、すぐに形を変えて俺に向かって体の一部を尖らせて、触手のように自由自在に攻撃を仕掛けてきた。
さらにしっかり風の抵抗を少なくするために、先を尖らせた円錐形になっている。
「先端恐怖症じゃなくてよかった」
俺は危険を感じ左右に避けながら距離を取る。スピードがある攻撃が直接桃乃に向かっていたら、避けられずに刺さっていたのかもしれない。
次の攻撃に対して身を構えると、スライムはさらに形を変えはじめた。さっきまでは1本の触手だったのが数本になっている。
スライムのくせに俺の動きに合わせて、攻撃方法を変えてくるのだ。
最弱と言われているスライムが全くもって最弱ではない。むしろ強い分類に入るだろう。
最弱の印象を広めたゲーム会社に訴えたいぐらいだ。
俺は避けるのに必死になっていたが俺の回避する速度に追いつけないのか、スライムの攻撃は当たらなかった。
きっとこの速度が弱点なのを知って、数を増やしたのだろう。
「ならこっちから行くぞ」
スライムの触手は突き刺すのに特化しているのか、一直線にしか攻撃して来ない。
俺はスコップを大きく振りかぶり、触手にぶつけるのは簡単だった。
スコップに当たると同時に飛び散っていく。
飛び散った触手を気にしていたが、どうやら分離して動くなどはしないようだ。
もし、分離して動けばスライムの数はどんどん増えてしまう。
俺はもう一度仕掛けるためにスコップを触手に向けて振りかぶった。
「先輩危ないです!」
急に背部に痛みが走り、そのまま壁に向かって飛ばされた。
「いてて……」
壁に凹みが出来ていたが、俺の体は傷なく大丈夫だった。インデックスファンドによる
スライムはまた形を変え、円錐形になっていた触手は鞭のようにしなやかに動く。
突き刺せないのであれば軌道が読みにくく、避けにくい鞭のような攻撃に切り替えたのだ。本能的に動いているのか、今までの魔物中で一番戦いに対しての執着心のようなものを感じた。
「大丈夫ですか?」
「そこで待ってろ!」
俺は桃乃をさらに遠ざけた。魔法特化の桃乃にはあの攻撃は命に関わるだろう。体も普通の人間と変わらなければ、攻撃を受けただけで骨が砕けてしまう。
俺でも傷はないが痛みはしっかりと感じていた。すぐに立ち上がるとスライムへ詰め寄る。
今度は触手じゃなくて、直接本体を狙った。小説などでは核があるスライムの存在も知っていたが、実際に目の前にいるスライムも核というよりは、見た目が脳に近いものが浮いていた。
本当に可愛さが全くない姿に躊躇いも感じない。
俺はスコップを本体の核に向かって差し込んだ。しかし、核に当たることはなく核自体が体の中で動かすことができたのだ。
スライムは自身の身に恐怖を感じたのか、触手をしなやかに使い暴れ回る。
壁にぶつかりポロポロと崩れ落ちていた。崩れ落ちる壁を見て、下水道の耐久性が心配になってきていた。このまま崩れ落ちたらどうしようもないのだ。
さらに触手は他の死体に当たり、下水路を塞いでいた魔物が動くことで水の流れが強くなると、簡単に近づけなくなる。
「おいおい、それはないでしょ」
俺はすぐに側路に上がり、水の勢いに流されないように様子をみていた。
どうやらスライムも触手を様々なとこに貼り付け体を固定していた。
解決策がないまま、水の流れが弱まるのを待っていると魔物の死体が動き出したのだ。
「えっ、まさか……」
たくさんあった死体からスライム達が飛び出してきた。どうやらさっきの触手が死体に当たったことで、中にいたスライムが目覚めたのだろう。
某RPGにある"スライムが仲間を呼んだ"ってこういう状況のことを言うのだろう。
「おい、こんなに相手はできないぞ」
俺は桃乃に離脱する様に伝える。自動鑑定によって視界上に映るスライムの数は6体までに増えていた。
どう考えても6体のスライムに対して同時に相手はできない。そしてこの臭いに俺達自身の体が耐えられなかった。
「ゴホゴホ!」
背後にいた桃乃が咳き込み、俺からも咳が出るようになってきた。
「桃乃離脱する!」
俺は桃乃にさっき開けた、マンホールから出口に出るように伝えた。
「スライムは倒さなくてもいいんですか?」
「今は無理だ!」
まだ水の流れが止まらない今がチャンスだった。スライム達は流されないように壁に張り付いたままだ。
俺は桃乃とともに下水道から地上に出た。俺達は初めて魔物の討伐に失敗したのだった。
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