第34話 コボルト無双
俺はコボルトが案内する方に向かっていた。コボルト達は犬の姿をしているからか鼻が効くのだろう。さっきまで俺が探していた方と逆の方へ走って行った。
ひょっとしたら初めからコボルトを探していたら変わっていたのかもしれない。
コボルトは途中にいたゴブリン達を噛みつきながら、ものともせずに走っていた。普通に戦ったらコボルトも強かったのだろう……。
それにしても普段とのギャップに困惑する。あれだけ尻尾を振って寄ってくるのに、敵だと認識やつにはおもいっきり犬拳をすると、顔がぶっ飛ぶほどの威力だ。
コボルトは急に立ち止まり、周辺をキョロキョロとしている。
「この辺にいるのか?」
「ガウ!」
どうやら近くに桃乃がいるらしい。
コボルトは近くにいるのがわかっていても、あと少しのところで匂いを追えなくなっていた。
制限時間はあと10分。討伐依頼自体は問題ないが、救出するまでにあと10分しかない中で救出できないと桃乃の身に何か起きるのだろう。
迫り来る時間に俺は焦りながらも、再び声を出して探し始める。
「桃乃ー! どこだー!」
俺は必死に大きな声で叫んだが、辺りから反応はない。でも、コボルト達からはこの辺にいると嗅ぎ付けた。
「おーい、どこ……お前は邪魔だ!」
声に反応してゴブリン達もどんどん近づいてくる。俺がスコップでゴブリンを弾き飛ばすと、コボルトがトドメを刺していた。
本当にゾロゾロと出てくるゴブリンに嫌気がさしてくる。
この増え方はゴキブリ並みなんだろう。どこにいてもゴブリンが溢れ出てくる。名前がどこか似ているの関係しているのだろうか。
「おーい、桃乃ー! いたら返事しろー」
残りの制限時間はあと8分。俺は必死に探し回ると、ひっそりと建っている小屋を見つけた。
「ガウ!」
どうやら小屋から声がしているのをコボルトが気付いたようだ。俺には何も聞こえなかった。さすが感覚が鋭いだけある。
コボルトの方へ近づき、小屋の扉を開けるとそこにはぐったりと倒れている桃乃がいた。
「おい!? 大丈夫か?」
声をかけるが桃乃の反応はなかった。体を揺すっても反応がなく、腕はだらんと垂れ下がっている。
カウント時間はあと3分で救出が間に合わなくなる。せっかく見つけたのにカウントダウンが動き続けていた。
救出クエストのカウントダウンではなく、命のカウントダウンだとそこで気づく。
桃乃を見ていると自動鑑定の影響か、名前の隣に
「毒ってどうすれば」
俺は必死に考えると、解決策をどこかで聞いていたことを思い出した。それは穴から異世界にきた時に聞いた言葉だった。
【ETF配当報酬、回復ポーション、解毒ポーションをそれぞれ2つずつ配布されます】
そう、あの時は興奮して聞いていなかったが、
アイテムの中を探すと、そこには解毒ポーションが存在していた。本当にナイスタイミングだ。
「これが解毒ポーションか」
袋から取り出すと、手には試験管のようなものに紫色の液体が入った解毒ポーションを持っていた。
いかにも怪しい液体だが、俺は桃乃に近づいて解毒ポーションを飲ませる。
「おい、大丈夫か?」
俺が声をかけると、少しずつ桃乃の瞼が動いていた。
「先輩……」
掠れた声で桃乃から返事が聞こえた途端、端にある制限時間はあと1分で止まっていた。
どうやら桃乃の救出に成功したようだ。毒は解毒されたが身体中の怪我はそのままになっている。
女性なのに手足から血が流れ、傷が残りそうだ。
俺はまたアイテムを開き、回復ポーションを取り出した。
「すまないがこれも飲んでくれ」
俺は桃乃に回復ポーションを飲ませた。さっきよりは受け入れ良く一気に飲み干す。飲み終えた頃には桃乃の体の傷は全て消えていた。
こんな飲み物が現実世界にあったら、医療現場は助かるだろう。
桃乃が助かったことに安堵していると、外が騒がしくなっていた。
「ガウガウ!」
外に待機しているコボルトから声がかかった。
外を見るといつのまにか小屋を中心にゴブリンに囲まれていた。
「ここで待っていて」
俺は桃乃を小屋に残し、ゴブリン達がいる外に飛び出した。外には20体を超えるゴブリンとホブゴブリンがいたのだ。
正直、ホブゴブリンとは戦いたくなかったが仕方ないだろう。
「てめぇら、金を吐きやがれ!」
桃乃が助かればあとはこっちのものだ。さっきまでの緊張感はなくなり体は軽くなっていた。
俺は気合を入れてスコップを構え、ゴブリン達のところに飛び込んでいく。
俺は近くのゴブリンに向けて、スコップを振り回した。
もはやスコップも力の具合で凶器だ。一度も正しい使い方をした記憶はない。
「グギャギャ!」
ホブゴブリンが合図を出しているのだろうか。1体にならないようにコンビネーションを組んで俺にゴブリン達が襲いかかって来る。
「数が多いんだって! このやろー」
それでも思考加速と並列思考による効果の影響でなんとか対応は出来ていた。
それにしても、俺を殺そうとするよりも、なぜか時間を稼いでいるように感じた。
「ひょっとして」
俺は少し遠くへ目を向けると、砂埃を巻き散らかしてる存在が見えた。目を凝らしてみるとそこにはゴブリンの群れが向かっていた。
本当に仲間が来るまで時間稼ぎをしていたのだ。
「マジかよ」
ホブゴブリン3体を先頭に軽く30体近くの増援が来ている。
ここで戦うよりは逃げたほうが楽だが、小屋には動けない桃乃がいる。
俺はどうしようか迷っていると、一緒に戦っていたコボルトが近くに来た。
「おっ、どうしたんだ?」
何故かコボルトは尻尾を振っていた。
俺はコボルトが"任せろ"と言っているように感じた。
その場で優しくコボルトを撫でると、さらに尻尾を振っていた。
うん、戦っている最中だが犬を撫でるとなんでこんなにも癒やされるのだろうか。
「ワォーン!」
コボルトは満足したのか、大きく吠えるとそれに驚きゴブリン達はひるんでいた。
その隙に俺もゴブリンを倒していくが、接近しているゴブリンのことを考えると流石に多く、ホブゴブリンの相手が厄介だ。
きっとあの中にも魔法を使う奴が紛れているかもしれない。
必死に避けては攻撃をしての繰り返しで、やっとホブゴブリンを討伐した。増援が来る前に退治したのは大きい。
「ガウ!」
コボルトについて来いと言われているような気がした。先を走るコボルトを追いかけると、そこには倒れているゴブリン達とたくさんのコボルトがいた。
「えーっと、仲間を呼んだのか?」
「ガウガウ!」
俺の問いにコボルトは吠えていた。どうやらさっきの遠吠えは威嚇ではなく、仲間を呼んだのだろう。
コボルト達に怪我はなく全員無事だ。
「お前達頼れるな!」
コボルトを撫でると、他のコボルト達も撫でて欲しいのか尻尾を振って集まって来た。
俺はしばらく撫でていると、背後から何かが近づいてくるように感じた。
「先輩ってあの有名な動物好きのおじいちゃんですか?」
あの有名な動物研究家って……ム○ゴ○ウに見えていたのだろうか。
それよりも気絶していると思った奴が急に話しかけてきたことに俺はびっくりした。
「桃乃大丈夫か?」
どうやら傷も塞がり解毒もしっかりされているようだ。
「先輩ここってどこですか?」
俺は桃乃の答えに戸惑いながら答えた。
「
桃乃も理解しているようだが、受け止められないのだろう。
庭の穴を通ると急に知らない田舎におり、わけのわからない奴らに追いかけられ、死ぬ瀬戸際までいくほど命が危なかったのだ。
「とりあえず説明をするから小屋に戻ろうか」
俺は桃乃に小屋に戻るように伝えた。俺も戻ろうと歩き出すと、コボルト達もゾロゾロと後ろからついて来ていた。
その数はおよそ20から30体はいるだろう。気づいた時には犬種バラバラの尻尾を振っている犬の大行列ができていた。
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