第21話 見た目は普通の犬です
俺はゲージに手を伸ばすと、急に体に危険を感じた。なぜか身震いが止まらないのだ。
俺は咄嗟に手を引っ込めると、その瞬間にゲージにいた犬が噛みつこうと襲って来たのだ。
全く躾のしていない犬だった。
「うわ!?」
俺はすぐ後ろに下がりスコップを持って構える。その瞬間、視界上に沢山の言葉が表示された。
――コボルト
ずっと探していたクエストの討伐対象が表示されていた。
「おいおい、まさか全部コボルトじゃ……」
周りを見渡すと全ての犬にコボルトと表示されていたのだ。きっと新しいスキルである自動鑑定が発動されたのだろう。
ステータスも表示されているが、数が多すぎて見る余裕もない。
「ワォーン!」
犬達は遠吠えをすると何かの合図なのか、立ち上がり、身体中の筋肉がボリュームが増していく。
筋肉モリモリのコボルトはどの小説やゲームにもなかった。
コボルトって基本弱い設定のはずが、今目の前にいるあいつらは強そうだった。
俺は急いでお店の外に出ようと走るが、既に間に合わず入り口に数体立って待機している。
「これ無理ゲーじゃん」
簡単に数えただけでコボルト達は20体近くいた。気づいたときには既に囲まれており、逃げる手段はない。
涎を垂れ流して近づくコボルトに俺は警戒を強める。
コボルト達を見ていると、コボルトのステータスの他にも特徴、危険なポイントが書かれていた。
そこには聞き慣れた言葉が書いてあった。
「えっ……狂犬病……」
触ろうとして手を噛まれなくて本当によかった。コボルトは野生の犬と同様でワクチンを打っているわけでもない。そのため狂犬病ウイルスに感染しているものに噛まれると発症してしまう恐れがあった。
きっとここで噛まれたら現実世界に戻っても狂犬病に発症する可能性がある。
俺は囲まれている状況を回避するために移動をしようと動き出す。しかし、コボルト達も俺の周りを囲むように歩いていた。
「どうしようも……ん?」
足元に何か当たり視線を少し下げると、そこには犬用のおもちゃが転がっていた。
瓦礫ではないが自身のステータスで投げれば、多少なりともダメージを与えられると思った。
「これでもくらえ!」
俺はおもちゃを拾い、コボルトに目掛けて投げる。しかし、思ったよりもおもちゃは軽かったため、放物線を描くように飛んでいった。
「……」
まさかの動きに投げた本人でもある俺さえも言葉が出なかった。
「ワォーン!」
そんなことは構いもせずコボルト達は遠吠えを始めた。明らかに雰囲気が変わったのだ。
「やばい何か来るか」
俺は警戒を強めたが、どこかコボルト達が襲ってくる様子はなかった。よく見るとコボルト達は尻尾を振っているのだ。
「これって……まさか……」
俺は足元にあるおもちゃをまた拾い今度は反対方向に投げる。するとコボルト達はおもちゃの方へ目を追っていた。
また違う方へ投げるとまた目を向ける。どんどんコボルト達の尻尾は激しさを増していく。
コボルトと言っても、どうやら中身は普通の犬と変わらないようだ。
「よし、取ってこーい」
俺は店内の奥に大きな放物線を描くように投げた。我慢ができなかったのか、1体のコボルトが反応すると我が先だと言わんばかりに走る。
それに釣られてコボルト達が一斉におもちゃを取りに行った。
「よし、今のうちに」
俺は店内を出ようするが、背後から激しい息遣いが聞こえてくる。コボルト達はおもちゃを片手に持ってすぐに戻ってきた。
扉を開ける時間もなく、その間に噛まれる可能性があった。またすぐに扉を背に俺は囲まれてしまった。
危機的な状況に俺は焦っていたが、コボルト達の様子は違っていた。
「ん……?」
コボルト達から1体だけ俺に近づいてきた。俺は警戒したが、おもちゃを俺の目の前に置き、元の場所に戻る。
「本当に犬じゃんか」
コボルト達は尻尾を振り、何か期待をするようにこっちを見ている。その瞳は遊んでくれる人を探していたのか、キラキラとしていた。
変身してから見た目は二足歩行するウィペットという犬種に似ており、見た目はめちゃくちゃ怖い。それでも中身が現実の世界にいる犬に近いと分かれば全く怖さを感じない。
そこで俺は再度コボルト達のステータスを開き、特徴と表示されている部分を開いてみた。
そこに書いてある言葉を見て俺は納得した。
――"中身はほぼ犬と同じです"
「それって犬ってことかーい」
俺はツッコミを入れたが、その手に合わせてコボルト達は顔を動かしていた。手に持っているおもちゃを投げてくれると思ったのだろう。
お馬鹿なコボルトは駆け出し、急ぎすぎて滑っている。
「なんか気が抜けてきたわ」
コボルト達は早くおもちゃを投げて貰おうと一生懸命尻尾を振っている。警戒していた俺が馬鹿のように思えてきた。
俺はコボルト討伐は諦めることにした。だって、こんなに可愛いコボルトを討伐するなんて考えられない。
可愛いコボルト達に魅了されるのだった。
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