第10話王女(元王妃)side
いつの間にか眠っていたようだわ。
なんだか随分懐かしい夢を見ていた気がするのだけど……何故だか思い出せない。ふと、馬車の窓を見ると移り変わる景色は見覚えのないものばかり。
「馬車を止めて!行き先が違うわ」
「違いませんよ」
違わない?
宰相は何を言っているの?
目的地である辺境への道とは到底思えない景色が広がっているというのに。
「貴男は何処に向かっているのか知っているの?」
「勿論。御者に命じたのは私ですからね」
「一体何処に向かっているの?」
「ベニス王国です」
ベニス王国!?
コムーネ王国とは友好国ではあるけれど……どうしてそんなところに。いいえ、それよりも肝心なのは何故国外に行くのかということだわ!
「国境を超えるというの!?」
「はい、そうですよ」
にこやかに言う宰相は私の反応を明らかに楽しんでいる様子だった。
「どういうことなの!」
「いっその事、この国から退場しようではありませんか!」
「何ですって!?」
「私たちの時代は終わりました。次の舞台の幕開けのために主役の座を明け渡さなければならない。そう、思いませんか?私たちがこの国にいる限り、若い世代が主役として輝けない」
「まるで私たちは主人公であるかのような言い回しね」
「おや?その通りではありませんか。『亡国の悲劇の王女と亡命先の貴族』、『元王妃と元宰相』、肩書だけでも立派な主役級ですよ」
楽しそうに語る宰相に何も言い返せない。
確かに、と思う部分もあるからかもしれない。「コムーネ王妃」と言う肩書は私を束縛していたけれど、それと同じように守っていた。その枷がなくなると言う事はなにを意味するのか……。私の存在が新たなる悲劇を生み出すかもしれないのも事実。それを考えると尚更此処に残るべきではないかしら? 私の素性を知る者は他にもいる筈だわ。
「私は残るべきだと思うわ。貴男が私の素性を知っているのと同様に
「ご心配には及びません。手を打ってあります。テレサ様の件も、この国の未来も」
「……ずいぶんと根回しがいいわね。でも、だからといって他国に行くなんて無謀だわ」
「大丈夫ですよ。既に手筈は整えてありますから」
いつの間に……一体どんな手を使ったというの?
驚くべきことでもないのかもしれないわね。彼の人脈を考慮すればできなくもないのだから。
「ベニス王国は商人の国。何かと融通が利きますからね。政治的に限りなく中立に近いのも美点ですよ」
「まるで目的地は別にあるような言い方だわ」
「流石です。我々の安住の地はグランデン帝国になります」
亡命先はそこだと言う訳ね。
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