　ハンナばあさんは激（げつ）昂（こう）した。

　連絡に傾聴していたハンナばあさんは興奮していった。いわく「邪教徒はまたも邪悪なる行為におよびました。これはわたしたち基（き）督（りすと）教（きよう）徒（と）たちのみならず唯一無二の『ヤハウェ神』への明（めい）鬯（ちよう）たる冒（ぼう）瀆（とく）です。邪教徒たちは神の怒りを甘受せねばなりません。いまこそ『奇（き）蹟（せき）』により神の鉄（てつ）槌（つい）をくだしましょう」と。狭（きよう）隘（あい）なる装甲車内の腰掛けにもたれながらハンナばあさんが両拳で躬（み）自（みずか）らの両膝を打（ちよう）擲（ちやく）すると静（せい）謐（ひつ）とした車（しや）輌（りよう）内に觳（こく）觫（そく）たる緊張感と澎（ほう）湃（はい）たる敵（てき）愾（がい）心（しん）が汪（おう）溢（いつ）した。斯（か）様（よう）なる状況でひとりの青年歩兵が尋問する。いわく「ハンナばあさん。たしかに劣化ウラン弾の掃射を喰（く）らえばマックスプロ MRAPも羅（ら）利（り）粉（こつ）灰（ぱい）にされるでしょう。といえども劣化ウラン弾はおおよそ口径一〇〇粍（みり）を越える対戦車用砲弾です。ここまで遯（とん）竄（ざん）してきた『復活の日』残党が劣化ウラン弾を装着できるほどの戦闘車（しや）輌（りよう）を確保しているとはおもえません。実際に軍事衛星による情報では『復活の日』残党は白兵以外確認されていないはずです」と。勇敢なる青年歩兵が緩（かん）舒（じよ）として小声になりながらも反論するとハンナばあさんはさらに激怒した。いわく「じゃああなたはアメリカ陸軍が嘘（うそ）つきだというの。邪教徒が核兵器をつかったと嘘（うそ）をついてわたしたちにさらなる『奇（き）蹟（せき）』をおこさせるつもりだというの。わたしたちは基（き）督（りすと）教（きよう）徒（と）ですよ。十（じつ）誡（かい）に悖（もと）るようなことはしません」と。くだんの青年歩兵が頭（とう）顱（ろ）を撓（しな）垂（だ）れて沈黙するとハンナばあさんは莞（かん）爾（じ）と微笑しながら装甲車内の歩兵たちをみまわした。いわく「さあ。みなさん『奇（き）蹟（せき）』をおこしましょう。邪教徒を殲（せん）滅（めつ）するために神にいのりましょう。どうか神様。邪悪な異教徒を鏖（みなごろし）にしてください」と。ハンナばあさんが両隣の歩兵と両手を掌握しあうと装甲車内の歩兵たちはみなでてのひらをとりあった。複雑怪奇なる『システム』の連鎖起動で『神』の『奇（き）蹟（せき）』をおこそうというのだ。『九一一の奇（き）蹟（せき）』とおなじくである。やがて穹（きゆう）窿（りゆう）から光（こう）芒（ぼう）がふりそそいできた。