第17話

 みなはごうぜんと沈黙した。

 きつきゆうじよたる研究員が金城ひろに報告すると金城は「でははじめましょう」といった。神が生きていようと死んでいようとおれがりたいのは真実だ。ようにして『実験』ははつじんされた。いんもうの宗派にわかれる数十人の僧侶たちは片手で説法印やらいごう印や思惟手のかたちをとり片手でしやくじようをかかげ悲嘆の大地につきたてた。しやくじようきゆうそうかいれいめく。僧侶たちは一斉にどくしようをはじめる。かいきようをとなえるとはんにやしんぎようあんしようしはじめた。「――羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶 はんにやしんぎよう」としゆうえんをむかえても『奇蹟はおこらなかった』。てきとうたる僧侶たちもしゆんたる研究員たちも想定済みだった。とうくつの僧侶たちはふたたびはんにやしんぎようどくしようをはじめる。二度目のどくしようでもなにもおこらない。三度目・四度目・五度目をとなえる。極寒の公園ではりよりよくていげんした老僧が休憩をとりはじめるいじやくなる肉体の青年僧侶がてんし『継続不可能』とされ脱落していった。『実験』は無意味ではなかった。『β版システム』は僧侶たちの脳内の量子力学的運動を測定していった。異変があった。くだんのてんとうして脱落した僧侶の脳内で『未知の素粒子の波動関数の拡散』とおもわれる量子運動が『観測』されていたのだ。しゆ研究員たちは興奮した。冷徹なる金城ひろは両腕をくんだまま「まだわからない。もしかしたら精神しようがいにおける幻覚にちかい運動なのかもしれない。観測をつづけるんだ」といった。

 僧侶たちは連鎖的に脱落していった。

 最後にひとりの僧侶がのこった。 

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