第20話 デス・鬼ごっこ
夕食時。
俺様たちは10階にあるビュッフェで夕食をすませる。
と、俺様はみんなの前に立ちはだかり、声を上げる。
「俺様と伊里奈はこれから、このデスかくれんぼを終わりにする。ついてきたい奴はたんと見やがれ!」
伊里奈にコクリと合図をだすと、腕時計型の端末を前に叫ぶ。
「「スキル《昇降機》」」
スキル《昇降機》は階数を最大10まで移動できるスキルだ。ただし一度っきりの使い捨てスキル。同様のスキルはない。さらに言えば上にも、下にもいける。
「バカな。ここはゲーム外、スキルの使用が認められるわけがない」
「前に絶食したとき、運営からLPをもらった。ということはここで使うのは想定の範囲内だ」
10階にいる俺様と伊里奈はスキルを使うことで入り口――つまりは1階に行けるということ。
「スキル《道連れ》」
スキル《道連れ》は対象一人を同じ境遇にする、というもの。
「わたしは、九条さんを選び、ます……!」
珍しく澄んだ声を上げる伊里奈。
「俺様は、無駄肉乳女。てめーだな」
「そ、そんな……! みんなで行かないと意味がないでしょう?」
無駄肉乳女が驚愕したような顔を浮かべている。
「てめーは何か勘違いしているみてーだが、これはゲームだ。クリアできねーものもいる。そんだけだ」
相変わらずのぶっきらぼうな態度にいらっときたのか、無駄肉乳女はむっとした顔をこちらに向ける。
「第一。なんで私なのよ? 博士ちゃんと五里くんがいるでしょう?」
「てめーは頭がいい。今後のゲームでも役立つだろう。それに――」
「それに?」
「ライバルはつえーほど盛り上がるんだ。てめーはその快感を味わせてくれる道具、ってわけだ」
言い終えると不思議と達成感がある。
充実感がある。
俺様はそのために生きてきた。
そのために頑張ってきた。
そう。すべては自分よりも強い敵と出会うために。
プロのゲーマーならこの気持ち分かるはずだ。
「……分かったわ。でもこれだけは覚えていて」
無駄肉乳女は妖艶な笑みを浮かべて、口元に指を当てる。
「これは多人数同時参加型のゲームだってこと」
「は。今更なんだよ?」
「生きている人には分からないけど、人はいつか死ぬ。そのときに記憶に残っていて欲しいのよ。誰でもない自分が生きた
「それには同意するが……」
「それともう一つ。何があっても泣かないなんてことはないわ。あなたも泣きたければ泣けばいい」
「そんなこと!」
「あー。臭いこと言ったわね」
恥じらうように頬を朱色に染める無駄肉乳女。
「……なんなんだ。てめーは」
「私はニーナ=プロシンよ。いずれ世界一のゲーマーになる女よ」
「は。うさんくせー」
ちなみに今の世界一は伊里奈だ。
こいつが負けるなんてことは万が一、いや億が一もありえない。
運営スタッフが集まり、俺様と伊里奈。それに貧乳女と無駄肉乳女がエレベーターに乗り込む。
そして1階のフロアへ移動する。
それらはまるで廃墟といった風体をしており、乾いた風が吹き荒れる。
「んだ? このフロアは?」
「こちら《デス鬼ごっこ》の会場となっております」
運営スタッフがにまりと笑みを浮かべる。
《デス鬼ごっこ》ってことは
なるほど。足止め用のスキルや防御系のスキルが役立ちそうだ。
だが《デス》とつくぐらいだ。おそらくは何かしらのルール変更や追加ルールがあるはず。
それにスキルの見直しが必要だ。
使えるスキルが変わってくる。
これまでゴミカスなスキルもあったが、ここではかなりの活躍を見せてくれること間違いなしなものもある。
「始まるのは明日の午前からです。それまでルールの確認と休憩なさってください」
小部屋に通されると、俺様たちは一人一つの部屋を与えられる。
小部屋のベッドに横たわると、俺様は腕時計型の端末を操作し、ルールの確認を行う。
【親と子にはそれぞれ
【親(鬼)は子を追いかけ、捕まえる】
【親が子を捕まえた場合、HPが減る】
【捕まった子は親(おに)になる】
【
【トランプの所持数は最大3枚まで】
【トランプの数字に応じてHPの増減が決まる】
【♠♣♡♢の種類に応じて効果が変わってくる】
【♠は攻撃特化】
【♣は攻撃をしてきた相手に
【♡は対象のHPを回復させる】
【♢は回避特化】
【トランプはフロアないにランダムにばらまかれる】
【LPがそのままHPとなる】
【スキルの取得と発動はどこでも行える】
なるほどな。
ちろりと舌で唇をなめる。
これはマズい。
鬼ごっこ。その名前からも分かる通り、追いかけるだけの体力が必要になってくる。
俺様も、伊里奈も陰キャでダウナーな、出不精であって、決して身体を動かすことが専門じゃない。
頭を使うならまだしも、身体を使うのは慣れていないのだ。
しかし、トランプも使う鬼ごっことは。
スキル以外にトランプによるLPの増減システム。これもまた運営の入れ知恵か。
まあ、楽しそうではあるが。
「デスゲームじゃなければ、面白そうではるが……」
「ん。しょせんは素人の考えた、デスゲーム、です……」
伊里奈はすでに勝ち目が見えているらしく、その瞳は怪しく揺らいでいる。
ぞわっとするように総毛立つ。
この感覚は嫌いじゃない。
伊里奈は端末をいじりだす。
どうやらハッキングを始めているらしい。
まあ、好きにさせるぜ。
ドアの方からコンコンとノックする音が聞こえてくる。
「誰だ?」
俺様は腰を落として警戒を強める。
「九条よ。今回の《デス・鬼ごっこ》について聞きたいの」
「ああ。いいだろう」
なんだかこの女に流されている気もするが、今は別の意見も欲しい。
迎え入れると貧乳女はじりじりと俺様を壁に追いやる。
これは、いわゆる壁ドン?
「あたしから逃げないで! あたしだって勝ち残りたいんだから!」
逃げている? は? 何を言ってやがる。
この貧乳女は。
「あんたにも過去があるんでしょ? あたしだって公開したんだから、あんたもしなさいよ!」
「え。いや、は?」
俺様は戸惑ったように裏返った声で応じる。
「いいじゃない。あたしは変わらずに仲間でいるから」
自意識過剰じゃないか? てめーの気持ちだけで俺様がコロリといくとでも?
こいつどんだけ自分に自信があるんだよ。
まるで自分が好かれていると知ったかぶっているような……。
「しかしまあ、壁ドンか。男女逆じゃね?」
そう言うと自覚し始めたのか、貧乳女はみるみる顔を赤くしていく。
「もう! いいじゃない!」
「というか、前のお風呂だって、男女逆だろ」
呆れたようにため息を吐く俺様。
「だから、てめーも見せろ!」
俺様はそのはしたないスカートをめくり上げようとする。
「ちょっ。何しているのよ!?」
「ん。伊里奈も手伝うの、です」
伊里奈が駆け寄ってきてスカートめくりを手伝いだす。
「ちょっ。止めて。何するのよ」
二人がかりではさすがに抵抗しきれなかったのか、貧乳女は伊里奈の好みに着替えさせる。
メイド服、チャイナ服、ボーイッシュ、あらゆる制服などなど。
「なかなか似合っているじゃねーか」
「うん。いいです……」
「そ、そうかな? だったら今度はこれを着てみるね♪」
童貞を殺す服と呼ばれている背中がぱっくりと空いているし、胸の辺りにも露出がある。
とてもじゃないが、挑発的な格好である。
「恥ずかしくないのか?」
俺様が訊ねると、耳までまっ赤にする貧乳女。
「も、もう!」
だが、お陰で少しやる気が出てきた。
あの無駄肉乳女を倒す――。
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