外道な俺様が可愛い妹と一緒にデスゲームする

夕日ゆうや

第1話 ゲーム

 ゲーム。

 遊戯ゲームとは遊びである。これは変えようのない事実である。

 現実に何か影響する訳でも、世界を変える力があるわけでもない。

 ただ遊び、ただ楽しむ。

 それがゲームだ。

 そう思っていた。

 それだけいいと思っていた。


 薄暗い部屋の中、一人の男が高らかに叫ぶ。

「ざまーみろ! てめーらの攻撃はすべて見きった! 俺様の相手じゃねーよ! バァカ!」

 モニターにつばを飛ばしながら喋るダメ人間。

 そしてそれに寄り添うようにクールな少女が口を開く。

「お兄様、うるさいです……」

 常にローテンションで言葉尻にも覇気のない全身青色の少女。同じくダメ人間だが、こちらの方がやや常識的ではある。

「は! 妹よ。これで三百連勝だ。これで浮かれない方がどうかしているぜ?」

「わたしには関係ない、です……」

 敬語でブルーな彼女は間違いなく妹であった。

「しかしこれだけ勝つと暇でしょうがねーな」

 ぶっきらぼうにいうとゲームの電源を落として、足早に冷蔵庫に向かう。

「何か祝杯になるものは♪」

「……ポテチ、です?」

「それよりも質良くだ!」

「外は敵だらけ……です……」

 間延びしたような声音を発する妹。

 だが兄は。

「そうだな。じゃあ出前を頼むぜ!」

「電話も、苦手……です……」

「ああ問題ない。ネットからできる」

「さすがお兄様……」

「だろ!」

 ファサッと爽やかそうに髪をかきあげると、フケがあたりに散らばる。

「お兄様、不潔です……」

「……妹にそう言われてショックを受けない者がいるか? いやいない!」

「なんで反語です……?」

 まあ。ここ一ヶ月くらい風呂に入っていないから当たり前か。

「兄ちゃん。少し風呂入ってくるわ」

「まさかの、自発的ですか……?」

「わりぃな、こんな兄で」

 妹にはしっかりと謝れるが、他の者ではこうはいかない。

 俺様は風呂に入り、さっぱりしたあと、裸で室内をウロウロする。

「お兄様の、小さいです……」

 それを見た妹の言葉が辛辣で俺はショックを受ける。

「ば、馬鹿野郎! これから大きくなるんだよ!」

「です……?」

 着替え終わるとネットでピザとコーラを頼む。

 しばらくしてピザが到着すると最低限のコミュニケーションで応じ、ピザを受け取る。

 お気づきの方もいるかもしれないが『はい』くらいしか喋っていない。

 できるだけ喋らずに、最低限の動きで、移動するのが当たり前になっている兄。

 そんな兄はパソコンとゲーム機、モニターだらけの暗室にこもるとピザを頬張る。

 隣で見ていた妹も、それに釣らえるようにしてピザを頬張る。

 天才兄妹の相羽あいばと言われており、様々な商品を開発したり、宣伝したりすることで高校生ながら稼ぎを得ている。

 と言っても高校にはほとんど行かずに引きこもっているが。

 メールとネットだけのやりとりで済ませる二人には外の世界を知らない。知る必要もない。

 そんな彼らに一通のメールがきていた。

「……スパムか?」

「違い、ます……。解析してみた、けど……依頼みたい、です……」

「依頼? 誰から?」

 久々に風呂に入り、さっぱりした頭でメールを開く。

『MMM三百連勝、おめでとう! 貴君らにはぜひともリアルゲームに参戦してほしい。まあ強制なのだけど』

「なんだこれ?」

 俺様は見出しを見ただけで胡散臭を感じる。

「お兄様。これは……なん、ですか……?」

「わからない」

 続きを読むと全容が見えてくる。

『貴君らにはリアルかくれんぼをしてもらい、賞金と栄誉、そしてお好みの恋人を用意しよう』

「なんだこれ? ますます怪しいじゃねーか」

「です。お好みの恋人ってなに、です?」

 いつになく声を荒げる妹。

「ま、無視でいいだろ」

「はーい」

 妹はそう言いメールを削除した。

 強制という文言が気になったが、俺様たちが外に出なければいいだけの話。

 そんなの引きこもりな俺様からすれば、簡単なことだ。

 そう思っていた。

 その夜は久々に徹夜をしなかった。

 俺様も妹も一緒の部屋で毛布にくるまって眠っていた。

 物音がして、体を動かそうとするが、一向に動かない。

 なぜ――。

 頭を振り絞っても、脳が震えるだけ。

 コツコツと床をヒールで叩く音だけが聞こえてくる。

「丁重にご招待したのに来ないとは。伊里奈いりな、そして龍彦たつひこ

 水色のさらさらなロングヘアーに赤い瞳。そして不思議の国のアリスのコスプレをした妹・伊里奈が黒ずくめの男に抱えられ、ついで俺様も抱えてアパートから放り出される。

 そして車に詰め込まれると、俺様と伊里奈はどこかへ連れ去られるのだった。

 家族が心配をしてくれるはずもなく、二人で生きてきたアパートからも離れ、俺様は不安を覚える。

 心の拠り所を失ったような喪失感。

 ついた先は港付近の倉庫街。

 ポツンとあるビルの屋上にまで連れてこられる。

「あれあれ? その人達だれ?」

 明るく棘のある声音で尋ねてきた一人の少女。

 音だけで聞くなら他にも九名いる。俺様と伊里奈をいれれば十一人だ。

 だが二人の男は帰っていく。残されたのはやはり九名の俺様たちだけ。

 俺様と伊里奈は魔法でも解けたかのように体が動くようになっていた。

 立ち上がり、周囲を見渡す。

 俺様と伊里奈以外の面々を見る。

 翡翠色の目と金髪ツインテールの貧乳。

 金色の目と銀髪ハーフツインの無駄肉乳。

 黒髪で黒目の肩口で切りそろえた着物妖怪女。

 他にも、

 頭のてっぺんが剥げている男。

 ゴリラのような体つきの男。

 眼鏡をくいっと持ち上げる男。

 白衣を着た博士っぽい女。

 計七名の顔を見る。

「どうも、よろしく〜」

 無駄肉乳が話しかけてくる。

「よ、ろし……く」

 絞り出すように声を上げると、困ったように眉根を寄せあげる無駄肉乳。

 とりあえず握手と挨拶を交わす。

「しょうがないわね。あたしも握手してあげるわよ」

「あ。そんなに嫌ならおかまいなく〜」

「ちょっ、ちょっと! 待ちなさいよ! そこは食い下がるところでしょ?」

 貧乳女は何を言っているのかわからない。

「いやならいいって」

「嫌じゃないの!」

「さっきは嫌だって言っただろ? 情緒不安か?」

「キーッ! ムカつく!」

 貧乳女のことはさておき、

 妖怪女が歩み寄る。

「ふふ。わたくしとは仲良くしてくださいませ」

「ああ。いいぜ? まずはセフ○の関係からな」

「セフ○とはなんですか?」

 俺様の一番苦手とするタイプだ。

 天然で一歩離れた存在。

 あまり相手にしたくはないが、今後交流するなら、話さないわけにはいかないか。

「ちっ。しょうがねーな」

 後は、ハゲとゴリラとメガネと博士と握手と挨拶を交わす。

 そこで暗がりだったこの部屋に光が差し込む。

 モニターがライトアップされて、そこに影がさす。

『さて。みんな友達になれたかな?』

「名前も知らねーぞ?」

『そこで君たちには《ゲーム》をしてもらう』

「しかとかよ。上等だ。こら!」

 俺様の声に応じないところを見ると、あらかじめ録画しておいたものかもしれない。

『何まずは簡単なかくれんぼからだ』

 モニターの中の人はニタニタと気色悪い笑いを浮かべている。

 すると、画面が切り替わり3Dの映像が差し込まれる。

 そこには中央の大部屋と、それにつながる色分けされた九つの小部屋が浮かんでいる。

 どの小部屋も大部屋を通らなくてはいけないつくりになっている。

「は! くだらねー」

 すべてを理解した俺様と伊里奈は眠たげにあくびをかく。

 だが、他の者たちは理解が追いついていないらしい。

 さっさと理解しろ、愚民ども。

 俺様は内申愚痴りながらモニターに目を向ける。

『子は、この九つの部屋に隠れてもらう。鬼はその子を見つけ、葬ることでミッション達成だ。頑張ってくれたまえ』

 そう言い終えるとモニターの電源が落ちる。

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