第35話 東映ホテルの窓から見えた街
「お父ちゃん見てみい、綺麗な海やな、船も見えるわ、どこへ行く船かな」
「分からんけど、遠洋漁業の船かも知れないな、釧路は漁業が盛んだから」
「ほな、美味い魚料理が食べられるんやろな、楽しみやな」
「お前は食べることばっかりだな、他にも釧路にはいいとこがいっぱいあるのに」
「おや?アテンダントさんが何か言うとるで」
「お客さまにご案内いたします。釧路空港は霧のため、当機は女満別空港に・・・・・・・」
「めまんべつ言うとるな、大丈夫なんかな?」
「大丈夫だよ釧路は霧が多い町だからね、こういうことは良くあるよ」
「不思議やな、海が見えてた時はあんなに晴れとったのにな」
「霧の都 釧路 って言うくらいだから、不思議じゃないよ」
「ほんまやな、誰も慌てておらんな、慣れとんのやな」
「女満別空港から釧路までバスが出てるから、かえって途中の景色が楽しめるよ」
「お父ちゃんが言った通リや、鶴のマークのバスが待っとるわ・・・・・・・でもなこのバスはお金は払うんやろ?」
「霧で到着地が変わった時は、ここから釧路まで無料だよ」
「そうかそれやったらええんやけどな、途中で阿寒湖にも寄るんやろ、無料で乗れて観光もできて、霧もええもんやな」
「お前は食うことと、金のことしか頭にないみたいだな」
「そんなこと言うもんやから、ほんまにお腹すいてもうたわ、阿寒湖で札幌ラーメンでも食べようか」
釧路に来たんだから釧路ラーメンがいいと思うけどな」
「釧路ラーメンなんて聞いたことあれへんな、ほんまに美味いんか?」
「銀水のラーメンを食べたら分かるさ、一度食べたら最後、他のラーメンなんて食べれなくなると思うな」
「ほんまかいな」
「そんなことよりも、釧路に来たら一番先に行くところがあるだろ、忘れちゃ困るな」
「そうやった、それもお父ちゃんの卒業した共栄小学校学校のことだしな」
ここで釧路共栄小学校で起きた事故のことを記すこととする。
1965年10月5日 釧路市新富士海岸でその事故は起きた。
当時釧路市では調理実習を兼ねた炊事遠足と言う学校行事があった。
この日6年生の児童357名が、学校から約4km離れた新富士海岸まで歩き、
七輪と木炭で暖を取りながら調理を行っていた。
北海道の10月は屋内にいても、ストーブは欠かせない季節である。
寒さに慣れた子どもたちも、海岸で遊んだ後、七輪を囲んで暖をとっていた。
そこにある児童のグループが、海岸に打ち寄せられた漂着物の中から、鉄でできた小型ドラム缶状のものを拾ってきた。
その物体は直径約36㎝、長さ60㎝くらいで、北海道ではお馴染みのルンペンストーブのような形であった、
物体は縦に亀裂が入り、中は空っぽにみえた、
児童たちは漂着物の中から木っ端を集めて亀裂に収め、簡易ストーブを作成した。
その中に火種の木炭を入れて燃えだした10分後、物体は大音響を発して爆発した。
取り囲んで暖をとっていた児童たちを襲った破片は、女児1名、男児3名 計4名の命を奪い、31名の負傷者を出す惨事となった。
後の調査により、漂着物は旧日本軍の爆弾であることが判明した。
ではなぜこのような危険なものが漂着したのだろうか。
太平洋戦争末期釧路市は、1945年7月14日から15日にかけ、空からはB29爆撃機による空襲を受け、海では日本海軍の駆逐艦と、アメリカ海軍の潜水艦が死闘を繰り広げていた。
この戦いの際、駆逐艦から投下された機雷が不発のまま残っていたと思われる。
更に終戦後、進駐軍は釧路沖合28kmに、日本軍から押収した約8000トンの爆弾を投棄した。
爆弾の多くはいまだ海底にあり、このような事故が起きる危険性は残ったままである。元をただせば戦争の置き土産であり、二度と戦争が起きないことを願うばかりである。
5年後この海岸は埋めたてられ、釧路西港公園となった。
公園の中央に犠牲者を悼む慰霊碑が建立されている。
以下慰霊碑に刻まれた一部を記す
「……子どもの世界はいつも 平和と幸せが約束されていなければ なりません
二度と このことがないように すべての子らが明るく 強く育つように 父母が願いをこめて……」
「こんなことがあったんか、亡うなった子は可哀そうやな、じゃあ今日は供養のため、飲まなあかんな」
「お前はやっぱりそれか、だけどそれも大事だな、釧路の経済のため飲みに行こうか」
「今日のお父ちゃんは、どっかの省の大臣みたいやな、そやからあんな高台にある高級なホテルにしたんやな」
◇◇◇
「うわあ、ほんまや立派なホテルやな、さっきいた西港公園も街も港も全部見えるやないの」
「この東映ホテルはね、オレがこの町にいたころにできたんだけど、まさかこうして泊まれるなんて思わなかったな」
「お父ちゃんが住んでおったのはどのあたりやったんかな」
「あそこにデパートの看板が見えるだろ、あの向こうだよ。川北町っていうんだけど」
「隆司さんがダスターコートを買うたのはきっとあそこやで、丸三鶴屋って言うとったな」
「丸三鶴屋で買い物ができたなんて、裕司さんちは裕福だったんだな」
「隆司さんはすごく貧乏だったと言うとったけどな」
「それは謙遜だよ、隆司さんのお父さんは太平洋炭鉱だろ、あそこにいた人は皆んな、いい給料をもらってたと思うよ、オレの家とは段違いだよ」
「そやけど銀の目には行っとったんやろ」
「銀の目みたいな高級な店に行ける訳がないだろ」
「ワシントンホテルの宴会のとき、そんなこと言うてなかったか」
「それは逆だ、行ったことがないって言ったんだけどな」
「うちの聞き違いかな、セラビはどうや?」
「セラビはもっと高級な店だよ、行ける訳がないだろ」
「そうかな、ラセーヌはどうや?」
「あんたね、それ全部、サラリーマンの行ける店じゃないよ」
「じゃあ誰が行くんや?」
「太平洋炭鉱の社長とか、雪印乳業の所長とか十条製紙の所長とか、そんな人ばかりだ、他にも本州製紙の所長も行ってるだろうな」
「なんや大きい会社の偉い人ばっかりやな、川島電気の支店長さんはどうなんかな」
「あのな、川島電気みたいなちっこい会社が釧路に支店を作る訳がないだろ、そんなハンカクサイ こと言ってたら、釧路の人に笑われるよ」
「お父ちゃんの『ハンカクサイ』を聞くのは久しぶりやな」
「ほんとだな、知らないうちに出るものなんだな」
「そやけど、そんな偉い人が行く店はきっと、綺麗なお姉ちゃんががようけ、いてるんやろな」
「凄い美人ばっかりだろな、行ったことはないけど」
じゃあお父ちゃんらはどこで遊んどったんや?」
「同級生たちはシャンデリーにでも行ってたんじゃないかな」
「シャンデリーってどんな店なんや?」
「シャンデリーは釧路で一番大きいディスコだよ」
「じゃあアストロメカニクールみたいなもんかな」
「そうだと思うな、芸能人もよく来てるらしいな」
「ディスコか、懐かしいな……ほな行ってみよか?」
「そうだな、久しぶりに行ってみるか」
「ディスコに行くんやさかい、若うせんとな。パオンで染めといてよかったな。
10才は若く見られると思うで」
「あんたもフェミニンで染めたんだろ、きれいに染まってるよ」
「ところがな、これフェミニンと違うんや、団地の薬局に行ったらいつものフェミニンやのうて、カネボウが置いてあってな、聞いてみたんや、そしたらな『うちではフェミニンはやめて、ウエラとカネボウにしました』って言わやない、びっくりしてもうたわ』
「フェミニンに何かあったのかな、パオンはどうだった?」
「パオンはようけ並んどったな、ただなビゲンもようけあったな」
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