第10話 ルームメイト
アリアとの実験は日が傾くまで続き、いくつかの有益なデータが取れたところでお開きとなった。
魔法学園は男子寮と女子寮で分けられているため、途中で別れて帰路に着く。
帰路と言っても、寮に来るのはこれが初めてなのだが。
「そういえば、寮って二人部屋なんだっけ……どんなやつだろうな」
一応は、ダルクとて入学試験の出来事で自分が目立っていたことは自覚している。
ルクスを打ち負かした自分に興味を抱いてくる程度ならまだいいが、最悪の場合いきなり悪感情をぶつけられるかもしれない。
「普通に仲良くなれるやつだといいけど……」
期待半分、不安半分といった具合で寮に入り、割り当てられた部屋へと向かう。
昨年、三年生だった生徒達が使っていた三階の一室にやって来たダルクは、部屋の扉を開け放ち──
「うん?」
そこには、半裸の少女(?)がいた。
「…………」
パタン、と扉を閉じたダルクは、一度こめかみを押さえ、部屋番号を確認し、周囲に見えるのが男子生徒であることを改めてチェックする。
……なんで? と、脳内が疑問符で埋め尽くされながら立ち尽くしていると、今度はひとりでに扉が開く。
「ちょっとちょっと、どうして閉めちゃうの? ボクのルームメイトだよね? ほら、入ってよ」
「あっ、ちょっ……!?」
着ているのがシャツ一枚という危うい格好なのも構わず、ダルクを部屋の中に引きずり込む。
壁際に設置された二段ベッドの下の段に腰掛けた少女は、ニコニコと笑顔を浮かべながら口を開く。
「今日から三年間、よろしくね! ボクの名前は……」
「その前にまず!! ちゃんと服着ろ!! ていうか、その、ここ男子寮で合ってるよな!? なんでいるの!?」
当たり前のように自己紹介を始めようとする少女に、ダルクは全力で叫ぶ。
そんな彼に、少女はしばしポカンとした後、ようやく得心がいったとばかりに手を叩いた。
「ああ、そういうこと。大丈夫、ボクこう見えて男だから」
「いや男でも……はい?」
思わぬ言葉に、ダルクは改めて少女……改め、自称少年を見る。
肩にかかる程度に伸びた緑色の髪を、軽く後ろで縛ったショートポニーとでも言うべき髪型。
胸はないが、真っ白ですべすべの肌は陶磁器のように美しく、可愛らしい丸顔となで肩、線の細い体つきは何度見ても女性的だ。
これで男……? と、ダルクが混乱しているのを見て取ったのだろう。少年は「もーっ」と頬を膨らませる。
「そんなに疑うなら、見てみる?」
「いやいい、信じる、信じるからやめてくれ」
シャツの裾を捲るような所作を見せた彼に、ダルクは全力で否を唱える。
ここにいる時点でまず男なのは間違いないし……仮に“ついている”のを目にすると、色々とネジ曲がってしまいそうな危機感がある。
そんなダルクの反応に、少年はころころと笑った。
「あはは、面白いね君。改めて、ボクの名前はスフィア・コールバードだよ、よろしくね」
「……俺はダルク・マリクサーだ、よろしく」
「えへへ、知ってるよ。君、有名人だからね」
握手を交わしながら、スフィアはそんなことを言い始めた。
一体どんな噂なんだと身構えるダルクに、スフィアは遠慮なくその実態を語る。
「ルクス・カーディナルを卑怯な手で倒した無能、大魔導士ミラジェーンの七光り、自分の力じゃ何も出来ない魔力なし……そんな風に言われてる」
「……まあ七光りと、自分の力じゃ何も出来ないっていうのは間違ってないかな?」
ミラがいなければ、ダルクは入学試験すら受けられなかった身分だ。
ましてや、ミラの産み出した“魔道具”がなければ、こうして生徒として入学することなど夢のまた夢だったに違いない。
そんな自虐的な自己評価を告げるダルクに、スフィアは首を横に振った。
「でも、ボクはそんな風に思わなかったよ。ダルクと同じ条件で魔法が使えたとして、それでルクスに勝てる人はそういないだろうし。それに……誰でも魔法が使えるようになる道具だなんて、すごく夢があるしね」
「だよな!? お前もそう思うよな!?」
魔道具を世に広めたいダルクとしては、スフィアのように好意的に受け止めてくれる人物は何より貴重だ。
瞳を輝かせながら顔を寄せるダルクに、スフィアの方が面食らってしまう。
「ありがとう、スフィアっていいやつだな!」
ルクスのような人物と一緒になって、長い学園生活を送ることになったらどうしようかと思っていたが……彼となら上手くやれそうだ。
そんなダルクの言葉に、スフィアは若干照れながら応える。
「えへへ、ありがとう」
頬を赤らめ、頬をかきながら少し首を傾けるようなその仕草は、どこからどう見ても美少女だった。男だけど。
故に、ダルクは思わず顔を逸らしてしまう。
「こいつは男、こいつは男……」
「……? あ、そうだ、ダルク。この寮って、みんなで入れる大浴場があるみたいなんだよね。一緒に行かない?」
「いやうん、スフィアはみんなと時間ずらした方が良いと思う。大惨事になるから」
「……へ?」
仲良くはなれそうだけど、この見た目と言動に惑わされないように慣れるまでは、相当時間がかかりそうだ。
そんな風に、ダルクは思った。
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