第16話
「水穂おばさん! いただきます~!」
水穂の作った豪勢な手料理がテーブルの上にズラリと並んでいた。
テーブル席の椅子は全部で四つ。
そこには勇司たちが座ることになり、母親たちはソファーの前のサイドテーブルを囲むような形で地べたに座っていた。
「どうぞ召し上がれ。たくさん作ったからたくさん食べてね~」
「ありがとうございます!」
それぞれが食べたい物をお皿に取り分けて食べるスタイルで食事がスタートした。
「水穂さんの料理久しぶりだ~。どれから食べよう~」
ルナは久しぶりの水穂の手料理にどれを食べようかと迷っている様子だった。
勇司にとっても水穂の手料理は久しぶりだった。
相変わらずどれも美味しそうで、どれを食べようか勇司も迷っていた。
夢子と雫も同じようで、箸を持ったまま料理を眺めていた。
ちなみにテーブルの上にはハンバーグ、唐揚げ、グラタン、シーザーサラダ、クリームシチュー、ピラフ、チャーハンと様々な料理が並んでいた。
作り過ぎだろと思わなくもないが、これくらいならおそらくすぐに無くなるだろう。
そのくらい三人は水穂の手料理が好きなのだ。
もちろん勇司も。
「決めた! やっぱり初めはハンバーグだよね!」
そう言ってルナはハンバーグを一つお皿に乗せた。
「では、私は唐揚げを」
「じゃあ、私はグラタン」
夢子と雫もそれぞれの料理をお皿に乗せて食べ始めた。
勇司もやっぱり一番初めはハンバーグだよなと、ハンバーグを一つお皿に乗せた。
そして、口いっぱいにハンバーグを入れた。
(あぁ、幸せだ……やっぱりまだ母さんのハンバーグが世界一美味しいな)
ルナのハンバーグもいい勝負をするがやはり水穂の作ったハンバーグには敵わない。
勇司の中でのハンバーグランキングは変わることはなかった。
「美味しすぎ! 水穂さん! どうしたらこんなに美味しいハンバーグを作れるんですか!?」
「それはね、みんなに美味しく食べてもらえるように愛をたくさん入れてるからよ♪」
水穂はそう言うとルナに向かってウインクをした。
もちろんそれもあるだろうけど、単純に水穂は料理が上手なのだ。
そのレベルは世界的に有名なシェフの勇司の父親が認めるほどだ。
「大丈夫よ。ルナちゃんのハンバーグも美味しいから」
水穂はハンバーグを一口食べて言った。
サイドテーブルに並んでいるのは水穂の手料理ではなく、ルナの手料理だった。
「そうですか?」
「えぇ、美味しいわよ。ね、瑠美さん?」
「ルナちゃん! 美味しいよ! 料理上手になったね~! ママ嬉しい!」
瑠美に褒められたルナは「そ、そうかな?」と照れくさそうに毛先をくるくるとしていた。
「よかったな。ルナ。俺もルナの料理美味しいと思うぞ」
「ですね。私もルナちゃんの料理大好きです」
「私も好き」
さらに三人に追い打ちをかけられてルナは分かりやすく頬を緩めた。
それから食事会は和気藹々と進んでいった。
母親たちはお酒が進み、母親たちで楽しそうに話をしていた。
(この感じ懐かしいなぁ~)
昔は月に一度、誰かの家に集まってこうやって食事会をしていたなと勇司は思い出していた。
「俺、戻ってきたんだな」勇司はボソッと呟いた。
「そうですね。勇司君は戻ってきましたよ。戻って来てくれました。戻って来てくれてありがとうございます」
「お礼を言うのは俺の方だ。三人ともありがとう。俺のことを覚えててくれて。またこうして一緒に食卓を囲んでくれて。俺、今、めっちゃ幸せだわ」
「私も幸せですよ」
「私も幸せ」
「だね! 私もめっちゃ幸せ! 何年後もずっと変わらずにみんなでこうやって食卓を囲ってたいな~」
「ですね。これから先もこうやって四人でご飯を食べましょう」
「そんなのあたりまえ」
本当にこっち戻ってきてよかった。
三人と再会できてよかった。
こんなにも幸せな気持ちにしてくれる三人とこれから先もずっと一緒にいられたらいいなと勇司は思った。
「それにしてもママたちお酒飲み過ぎじゃない?」
「久しぶりに水穂さんに会ったから嬉しくなっているのでしょうね」
「だろうな」
「ま、本人たちが楽しそうならいいんだけどね~。私たちは私たちで楽しむだけだし」
「そうですね。というわけで残りの一つのハンバーグを誰が食べるかじゃんけんでもしますか?」
「だね。懐かしい~。昔も残りの一つをかけてじゃんけんしてたよね!」
「そうですね。負けませんよ?」
「私だって負けないから」
「勝つのは俺だ」
「私も負けない」
「それでは、じゃんけん。ぽん」
じゃんけんはなかなか決着がつかず、今回は四等分しようということになった。
☆☆☆
第三章 了
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