第8話

 お風呂から上がって三人と一緒に荷解きをしていると、すっかりと夕方になっていた。


「とりあえず今日はこれくらいにしとくか。三人とも手伝ってくれてありがとな」


 三人のおかげで必要最低限の生活が出来るくらいには荷解きは終わった。


「後は一人でもなんとかなりそうだから、夕ご飯にでもするか」

「ということは私の出番だね!」

「というと?」

「私が夕ご飯を作ってあげるってこと!」

「いいのか? 疲れてるだろ」

「大丈夫大丈夫! このくらい平気! それに勇司に手料理食べてもらいたいし!」

「そういうことなら作ってもらいたいけど、俺の家には食材何もないぞ?」


 今日引っ越してきたばかりで、食材どころか冷蔵庫もまだない。

 家電用品類は後日来ることになっていた。 


「これから買いに行けばいいでしょ!」

「食材はそれでいいとしてもフライパンとか何もないぞ?」

「それは私たちの家から持ってくれば大丈夫!」

「持って来るのめんどくさくないか?」

「隣だし、全然平気だって! それとも何? 私の手料理が食べたくないっていうの?」

「そんなわけないだろ」

「じゃあ、作ってもいいよね?」


 笑顔の下に圧を感じた。


「よろしくお願いします」


 勇司はルナに向かって頭を下げた。


「じゃあ、とりあえず買い出しか?」

「そうだね~。勇司は荷物持ちとしてついてきてもらうことは確定として、二人はどうする?」


 ルナは夢子と雫に聞いた。


「私はやらないといけないことがあるから残るわ」

「私も残る」

「了解! じゃあ、買い出しは私と勇司で行ってくるね!」

「うん。よろしくね。何持ってくればいいかな? 二人が買い出しに行ってる間に持って来とくよ?」

「後でLIEN送る!」

「分かったわ。ちょうど雨も止んでるみたいだし、今のうちに行くのがいいかもね」

「そうだね。行ってくる! 勇司行くよ!」

「了解」


 ルナに腕を引っ張られ勇司は立ち上がった。

 そのまま玄関まで向かい靴に履き替えた。


「二人とも気を付けてね。行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます!」

「行ってくる」


 夢子と雫に見送られるのはあの日以来か。

 あの日と違うのは数十分後には再会できるということ。 

 それが約束されているから勇司は安らかな気持ちで「行ってきます」を言うことができた。

 二人に見送られた勇司とルナはマンションを後にして近場のスーパーに向かうことにした。


「雨止んでてよかったな」

「そうだね~」

「それで、何を作ってくれるんだ?」

「何がいい? せっかくだし勇司が食べたい物を作ってあげるよ! それかハンバーグか」

「それ、俺が好きな食べ物だな」

「だよね~。知ってる!」

「俺の好物覚えてたんだな」

「当り前じゃん! 勇司の好きな物は全部覚えてるよ! 勇司と過ごした三年間を私が忘れるわけないじゃん」

「そうか。俺も三人と過ごした三年間はしっかりと覚えてるぞ」


 三人が助けてくれたあの日から引っ越しのために離れ離れになることになったあの日までの三年間のことを勇司はしっかりと覚えていた。

 三人と作り上げた思い出は数え切れないほどたくさんある。

 笑い合ったり、喧嘩したり、励まし合ったり、泣き合ったり、本当にいろんなことがあった三年間だった。

 今はまだ三年分しかないけど、これから何年だって積み重ねることが出来る。

 どれだけの年数を重ね、どれだけの思い出を作り上げていくのだろうか。

 これからの未来が楽しみで仕方がなかった。


「じゃあ、せっかくだしハンバーグを作ってもらおうかな」

「ハンバーグね! 今までで食べたハンバーグの中で一番美味しいハンバーグを作っちゃうからね!」

「てことは、俺の母さんのハンバーグを超えるってことになるけど?」

「水穂おばさんのハンバーグか~。あれを超えられる自信はないな~」

「母さんのハンバーグは絶品だからな」


 勇司が一番好きなハンバーグは未だに母親の作ったハンバーグだった。

 いろんなお店のハンバーグを食べてきたが、母親の作るハンバーグを超えるハンバーグはなかった。

 もちろん勇司の母親が作ったハンバーグをルナも食べたことがある。


「久しぶりに水穂おばさんの手料理も食べたいな~」

「夏頃には俺の様子を見に来るって言ってたから、その時に食べさせてもらえばいいだろ」

「そうする!」


 スーパーに到着した。

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