第15話 愛の迷路
彩への愛は変わらない。しかし心が少しずつ冷えていく。一緒に死ぬと決意していた。一緒に死ぬつもりだった。一緒に死ぬ必要があると思っていた。
しかし自分を取り巻く情況・環境変化の中で一緒に死ぬことの必然性は徐々に薄れていく。
彩と共に生きる未来は香と共に天下を摂る将来に確実に変容していく。光の心変わりでなく魂が本来一生を賭けて果たすべき役割に目覚めたのだ。
巨大な黒い椅子に座ることは憲一の夢ではない。光のいや影1942の果たすべき責なのである。
彩に投げかけた『愛している』『絶対に別れない』『死のう』の3度の言霊は言骸へと変わっていく。
永遠に変わらぬ想いなどないのだ。永遠に変わらぬ愛などないのだ。純粋な愛情、清らかな愛情など夢想であり妄想でしかありえない。
魂さえも肉と同様に欲情に溺れ流され虜になる。高潔で高尚な魂など存在し得ないのかもしれない。生きるという行為事態が欲情を根源としてしているのかもしれない。
強い欲情が精神的な使命感を持って魂を支配し生としての肉を感情をコントロールしていく。
「光さんと一緒になれないなら生きていけない」
ベッドの中、腕にのせた彩の頭の重みが快い。額に光る汗の下で思い詰めた彩の瞳が熱く訴えている。
日毎に遠退いていく彩への熱情。肌を合わせていると感じた強い想いも単なる強い欲情に変化してきている。押されている彩の想いに。追い込まれていく愛という迷路の中で。心が過去のしがらみの中でもがいている。
笑って別れられたらなどとふっと浮かんでくる想いも彩との会話の中、同調してしまう返答の中で淡く消える。
別の人生を歩みたいと思う気持ちを言い出すきっかけがない。影1942はこのままでは彩と共に人生の終焉をむかえてしまう不安感はあるものの抗し切れない流れの中にいる。
影2491は感じていた。光の想いが少しずつ離れていくことを。彩はまだ熱情の渦に翻弄されて光の微妙な変化が判別できない。
警鐘を鳴らす。少し冷静になれと。自身と彩に言い聞かす。退路をたった彩の想いは即ち影2491の想いそのものでもあった。
彩の叶わぬ願いを遂げさせたい。光を愛したのは影2491自身でもあった。
影1942はやや消極的な魂であった。自らが何かを望み何かを得ようとする積極的な欲情も薄く生である光の感情のおもむくままに任せていた。
光としての肉も感情も穏やかで自然に流れのおもむくままに動いていた。彩と出逢い肉と感情に光が動かされ、父親の天下取りに魂が揺り動かされ影1942が歩き始める。
光は香と既に何度か逢っている。彩に隠しているわけではないが、特には話す必要はないと考えていた。
光と香は許嫁である。二人は2度目のデートでひとつになった。華やかで明るく可愛い香といるとなぜか元気が出てくるそんな気がする。
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