第13話 新たな欲情

 影2491は生としての彩の激しく起伏する感情とほとんど一致して歓び悲しみ涙した。彩と光の2人を結ばせたい。2人の愛の結実を新たな生として誕生させたい。


 今まで彩の肉も感情も素直で落ち着いており、影2491は生の動きを特にコントロールする必要性はなかった。大人しかった彩。父親の反対が、光と一緒になれない確定的な将来が彩を別人に変えていた。


 お腹の中で着実に大きくなる新たな動きも彩の感情を強く刺激していた。まるで将来の自分の幸せな生活を、母親としての生に主張しているように。


 光との生活以外の将来はいらない。生活も夢も明日さえも・・・・・


 何日も寝ていない熱く沸騰した頭が考え出した結論。生としての彩の感情に魂としての影2491も同調した。


 携帯で彩から突然呼び出された光。彩の話を聞くのがなぜか怖かった。


 「どうすればいいんだろう?光さん。どうすれば私たち2人で一緒にいられるんだろう?もう別れるしかないのかな?ねぇ光さん、どう思う?」


 普段は比較的自分からは話さない彩の矢継ぎ早の質問に答えに詰まった。


 影1942は彩の投げかける言葉の1つ1つに焼けそうな熱を感じた。彩と同体する影が生としての彩を通して投げかける魂の言葉なのかもしれない。


 影1942は生としての光と少し距離を置いて冷静に光の感情の動きを眺めていた。彩への愛情、彩との将来、2人の決意、香への感情、天下取りへの夢。


 影1942は概ね5割は彩との将来を引きずっている。残りの5割は新たな将来展望、天下取りと香との夢である。


 生としての光の単純感情は未だいきがかりと勢いで彩に8割、天下取り2割である。肉の奥底に静かに眠る欲情にはまだ気づかずにいる。


 影1942は彩の熱情への対応に困惑していた。光と同様に一時は彩との将来を確かに愛していた。憲一に天下取りの話をされるまでは。


 毎日いや事ある度に説得力豊かな憲一の話に影1942も光も徐々に洗脳されていく。憲一の自分勝手な思惑にまんまと嵌まったのは影1942であった。


 影にも生と同様に欲はある。主たる欲情のうち食欲、性欲、排泄欲など肉が求めるものは生が抱える。一方名誉欲、権力欲、金銭欲など精神が求めるものは影が抱える。


 影は生が抱える欲情に干渉し誘導し、生は影が抱える欲情に強い感情で影響を与える。同体であるがゆえに抱える欲情も混在する。


 天下取りの夢は儚い夢ではない。憲一の能力努力により近い将来実現可能な予定である。


 生は肉を持つがゆえに肉欲に容易に流され、影は転生を繰り返すがゆえに魂の求めに応じて遠く儚い夢を追う。

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