第30話『これでやっと冒険者になれるのか』

「いやあ、全然気づかなかったな」


 俺達は食堂に辿り着き、何かを食べ……られるほどお腹が空いていなかったため、フルールジュースや野菜ジュースを片手に、一つの長机に腰を下ろして向かい合っている。


「予想外だったけど、確かにいつも通りだったら気にしてたからね」

「そんな匂いだけでケチつけるなんて、けちん坊だよねー」

「あんたはもっと気にしなさいよ」

「食べたいものを食べて、飲みたいものを飲むのがボクのモットーだっ」

「はぁ……」


 ミサヤはもっとケイヤの冷静さというか落ち着き具合を見習ってほしいものだ。


 アンナはため息を吐いて左手で頭を押さえている。

 その気持ち、わかる。


「それにしてもリラーミカさんの新しい一面が見ることができて面白かったな」

「そうだね。もしかしたら冷徹な人なのかなって思っていたから尚更だね」

「新しい発見もあったし、今日はいろいろと面白かったな」


 インベントリの活用法はかなり便利だ。

 今は周りの目を気にしながらいろいろとやっているが、俺達しかいない状況になった場合、好き勝手出来るし、何より両手が空くというのはメリットしかない。

 ということは、モンスターの素材も腐敗することなく所持していられるということか。

 まだまだ有効活用できることはありそうだな。


「リラーミカさんはあんな感じに言っていたけれど、結局なところはどうなるんだろうな。読み通りなら、最初から最低に割り振られるはずだが」

「どうなんだろうね。さっきの騒動、あれが仕組まれたものではなさそうだから、もしかしたら変わったりするんじゃない?」

「あー、確かに言われてみればそうだな。あの自警団みたいな人達空の報告があれば変わるかもな」

「私達はただ見ているだけだったけど、カナトには何かしらの恩恵があってもおかしくはわいわよね。だってあれ、下手したら大怪我をしていたわけだし」

「今思うと、アンナの魔法攻撃ぐらいは援護で貰っても良かったよな」

「ほんとそうよ。カナトはいっつも無茶をするんだから」

「そうか?」


 その問いに返ってきた答えは、全員からの頷きだった。

 そして、そのままみんなの目線が折れの後ろに集まっているのを感じ、振り返る。

 と。


「冒険者登録の書類、全員分の処理を完了したから場所を移動しましょう」




 今までの雰囲気とか違う部屋に通された。

 一言で表すならば、応接室。

 ロビーとかの雰囲気とは全然違い、下には赤いふわふわな絨緞が敷かれ、部屋の中はスッキリしていて家具は中央にある机と椅子のみ。

 椅子というのも、長机を囲むようにソファが一人用が二つ二~三人用のソファが三つ。


 俺・ケイヤ、アンナ・ミサヤ、アケミ、リラーミカさんという感じに座っている。

 そして、リラーミカさんの元に書類が複数枚。


「みんなは晴れて冒険者になるわけだけど、いくつかの確認事項を説明していくわ」


 書類を一枚全員に配られる。


「それじゃあ目を通しながら。まずはお金の稼ぎ方――冒険者だからといって、アルバイトをしてはいけないという決まりはないわ。だから、本業をしながら冒険者として活動するも良し。本業を冒険者にしてアルバイトをするのも良し、ということね。そして、冒険者としてお金を稼ぐ場合――基本的には討伐依頼、雑用や護衛などの援助依頼、モンスターの素材をギルドや下請け業者を利用した換金などがあるわ。最後のに関しては、持ち帰ってくるのが大変ではあるけれど、持ち帰ってこられればかなりお金になるわよ。まあでも、モンスターを討伐しても素材アイテムを落とすのは確定ではないから根性が必要になるけれど」


 なるほど。

 ここら辺はゲームと一緒か。

 しかし、冒険者っていうのはかなり自由な職業なんだな。


 モンスターの素材を売買してお金を稼ぐのは、この世界の人間からすればたしかに大変そうではある。

 だが、俺達にはインベントリがあるからそこら辺は問題なさそうだ。

 でも面倒なのが、一ヵ所で全部売るとなると少しばかり怪しまれそうだから、別々に売った方が良さそうだな。


「ここまで質問はあるかしら? まあ、今はわからないことがわからないだろうから、わからないことがあったらギルドへ聞きに来てちょうだい」

「わかりました。続きをお願いします」

「次は、冒険者としての立ち振る舞い――基本的には街の中では力を振るうことはできないと思ってちょうだい。ただし、相手が武器を持っていたり、誰かが襲われているような状況の時はこれに限らないわ。相手が死なない程度に思い切りやって構わないわよ」

「わかりました」

「まああれよ。武器を持っているから、冒険者だからって横暴な態度をとっていたら注意が入るってことね。そんなことが続くなら、冒険者としての資格を剥奪されると思ってちょうだい。清く正しく謙虚に生活していれば、何も問題はないってことね」

「心に留めておきます」


 剥奪された場合の説明がないってことは、換金ができなくなったり、ブラックリストのようなものに載ったり、もろもろそんなところだろう。

 そんなことを気にしている暇があったら、ちゃんとルールを守っていろ、と。


「次に冒険者へ課せられた責任――これは、この街【バネッサ】の地下には巨大なダンジョンがあるの。これは、巨大都市に部類されている都市の下にはあると思ってもらって構わないわ。他の街はかなり遠いけれど。で、ダンジョンっていうのはほぼ無限にモンスターが湧き出ているのだけれど、それを討伐し続けなければならないってのがあるの。これは四六時中ダンジョンに向かえってわけではないんだけれど、狩らないと下手したら地上に進出してきてしまう可能性があるから、それを阻止してって話ね」

「なるほど。その義務というのは、最低な日間は向かわなければならないというのはあるのですか?」

「いいえ、特にそういうのは決められていないわ。でも、結局のところ換金したかどうかってのでわかっちゃうから、副業だとしてもあまりにもダンジョンへ向かっていない場合、こちらから催促状のようなものを送ったり直接忠告を伝えに行くわ」

「わかりました」

「まあダンジョンにはモンスター以外にも、環境生物や環境素材というものもあるから、モンスターとの戦闘が少し苦手っていう人でも活動を続けるのは難しくないのよ。ギルド側としても、苦手な人にまで強制するってのは良くないって思っているから」

「そういう選択肢もある、というわけですね」


 俺達の中では心配することではないが、そういう選択肢がある、というのを知っておくは後々役に立つ可能性がある。


「さて、ここまでが初期確認事項になるんだけど、どう? 何か疑問に思ったことや今のうちに聞いておきたいことはあるかしら?」

「はい」

「どうぞ」


 アケミが挙手した。


「説明いただいた内容は納得できたのですが、等級を上げるためには何をすれば良いのでしょうか」

「良い点に気づくじゃない。そうね、冒険者として活動していくうえで、受けられるクエストや任務や依頼などの難易度が受けられるかどうかは等級によって変わってくるわ。そして、呼び方に統一感がなく、今でも等級かランクと言われている指標は最低が1だけど、最高は決められていないわ。だから、無限に上げられるってわけね。でも、一応はそんな中でも曖昧だけど区切りがあって、ランク10毎に判断基準が設けられているわ」

「なるほど。なんで統一されていなんですか?」

「それは私も訊きたいところなんだけど、別の場所ではランクというのが一般的だったりするのよね。統一してほしいとおもってるのは私もよ」

「いろいろあるんですね」

「そんなことより、ランクの上げ方なんだけど、簡単で曖昧――功績ってことになっているわ。どれだけ強いモンスターを倒した、どれだけの人を助けた、どれだけギルドに貢献した、どれだけ依頼やらを達成したかって感じで」

「……多すぎて、本当に曖昧なんですね」

「おっと、こればっかりは私に文句を言われても対応できないわよ」


 俺達は互いに顔を合わせ、『どうにかしてほしいっていうのはこっちのセリフだよ』とアイコンタクトで訴える。


「じゃあそろそろ私は元の業務に戻らないといけないから、お話はここまでね」

「わかりました。いろいろとありがとうございました」

「いえ、これは業務の一環だから。あ、言い忘れていたんだけど」

「なんですか?」


 全員の書類をリラーミカさんが回収し終え、全員が立ち上がった時だった。


「"あなた達の・・・・・配属ランクは・・・・・・1だから・・・・"」

「「「「「えぇええええええええええ!!??」」」」」

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